(軌跡)遊撃士主
・前回の続き
「アルモリカ古道での護衛とクロスベル市までハニーシロップの配達、ついでに東クロスベル街道の手配魔獣討伐とそれ以外の魔獣の数を減らしておく依頼は一気にやっちゃえるわね」
「了解」
遊撃士協会クロスベル支部、一階の受付。
ユウリは受付の人間と本日の依頼を確認しながら、自分の受け持てそうなものをいくつか吟味してゆく。遊撃士の仕事は依頼を受け、それをこなして報告をするのが基本。特に遊撃士への信頼が厚いこのクロスベルでは依頼の数は日々多く、遊撃士がまとめて行うのが日常のことだった。ユウリも含め、クロスベル支部の遊撃士は6名。本日のユウリが担当する地区はアルモリカ村を中心とした東クロスベル街道一帯で、ユウリにコンビとなる人物はいない一人での作業になるものの、魔獣はそこまで強くないし慣れた道なのですぐに終わらせられるだろうと目星は簡単につけた。
受付に立つ、見た目は大柄な男性ながら口調は女、ついでに心も女と少々個性豊かな人物、ミシェルはそれらの依頼を受諾しユウリの予定を確認する。掲示板にクロスベル支部所属の全ての遊撃士の予定を記入してあり、ユウリの本日の午前に『東クロスベル街道一帯』と書き込んだ。ちなみに本日ユウリ指名の依頼は入っていない。基本はクロスベル市外の巡回になるだろうと予測はされた。あとその地域で気になる情報はあっただろうかという確認は怠らない。戦術オーブメントであるエニグマに通信機能はついたので容易に連絡は取れるものの、できるだけ事前調査を確実にするのは彼らにとって当たり前のことだった。
「あと、アルモリカ村付近では魔獣の注意を払っといてもらえる?最近質の悪い狼型魔獣がでたらしくって警備軍も調査しているようなんだけど、結構難航してるみたいなのよね」
「ああ、そういえば討伐までできてないんでしたっけ。わかりました、多分午前中には全部終わらせられそうですし昼食はアルモリカ村でとって、気をつけておきます」
「しっかしあんたもよく働くわね…依頼の数だけならアリオス並なんじゃないの?」
「アリオスさんと比べられても困りますって」
依頼とその過程の記入が義務化されている遊撃士手帳に慣れた手つきで書き込みながら、ミシェルの言葉に呆れたように返す。
ユウリと同じA級遊撃士であり『風の剣聖』アリオス・マクレイン。彼はクロスベルでは遊撃士の代名詞的存在でもあり、ランクは同じであれど彼は自分より強いし、何より受け持つ依頼も今ユウリが受けているものと質が違う。ユウリも実績的には中々他と違うものがあるが、正遊撃士になってまだ2年と経っていない。そんな経験の浅いユウリとアリオスを比べられるほどおこがましいことはなかった。
勿論、何れは越える存在である、ことをいつも思っているけれど。口に出すことはしない。
「まだまだ未熟ですから」
「…はいはい。そういうことにしとくわ」
何やら含みのある様子でユウリを見ていたミシェルだが、これ以上言動をするつもりもないので、少し呆れながらも確認のため再び依頼を見、目の前の少女に思考を馳せる。経験は確かに浅いものの、ユウリが最年少A級遊撃士であることも間違いないしその実力も確かなことはミシェルも知っていた。
(全く、国家規模の大事件を食い止めた人間が何をいうのやら)
そんなミシェルの胸中も知らず、手帳への記入を終えたユウリもミシェルと同じく他に同時進行が出来そうな依頼がないか資料に目を通す。めぼしいものはないようなのでそろそろ出発しようか。念のため自分の装備を確認し、戦術オーブメントを慣れた手つきで開き動作確認を行う。
そんなユウリの姿に、ふと思い出したかのようにミシェルは口を開いた。
「そういえば、クロスベル警察の新部署。確か特務支援課だったかしら。今日から発足されるらしいわね」
「…ああ、みたいですね」
特務支援課、という言葉に少し反応する。しかしその反応も気にも留めない程度のもので、付けているクオーツの並びと予備のクオーツを見ているユウリの姿に違和感はない。ミシェルはそんなユウリに気付くことなく噂の警察新部署について話を続けた。
「アリオスもだけど他の連中も気になってるみたいよ。何せ、遊撃士協会の真似事をする部署なんだから。少しは役に立てれば私らも楽できるんだけどね」
「ま、暫くは見守る形でいいんじゃないですか。志は同じなんだったら仲間みたいなものなんですから」
「あら、意外と友好的?」
「まだ活動してもないのに嫌うも何もないでしょ」
「そうだけど」
でも警察じゃない。と不信気に続けるミシェルにユウリは何を返す訳でもない。
だが、この考えはクロスベル市民と多分同じだった。何せ、クロスベルの警察という組織は民間人にとって密接な存在ではない。勿論正義も理念も存在しているが、残念ながらそれは犯罪や国家間への対応のため、クロスベルで困った時の強い味方は、些細なことでも民間人の安全と平和を保護する遊撃士協会に対してどうしても軍配が上がるのだ。
先行き不安なのは恐らくクロスベル市民だけでなく、特務支援課に配属される者らなのだろうが…。該当する人物が浮かぶものの、気にせずクオーツを確認したエニグマをベルトに下げる。
準備は整ったし、今から行けばアルモリカ街道での護衛を依頼した人物が指定地にくるころに間に合うだけの時間はあるだろう。昼食を食べたら午後はギルドに戻ってから依頼を受けるつもりだ。まだ警察の新部署について不満げなミシェルには、苦笑するしかないが。
「まあまあ、気になるんでしたら準遊撃士試験の一般教養でも受けさせたらどうですか。それくらい知識あってくれなきゃ困る訳ですし」
「あらそれいいわね。ついでに依頼対応の様子もチェックしちゃおうかしら」
「どうぞミシェルさんにお任せします。じゃあ、行ってきますね。午後には戻ります」
「はいはい、気をつけなさいよ」
実力を試せる機会に一気に楽しそうにしだしたミシェルを尻目に、片手を上げながら協会の建物を出たユウリは一つ息を吐く。
とりあえず、東クロスベル街道の三叉路まで全魔獣を倒してから依頼主を待つとするか。
いざクロスベル市外に足を入れたユウリの思考には、既に特務支援課のかけらも残されていなかった。
メモ
・特務支援課発足日
支援課はジオクロフト捜索(午後)
アリオス帰ってきた
・+1
正式に特務支援課就任
休日
・+2
特務支援課任務開始
クロスベル市内探索と依頼
夜中にVSマフィア
・+3
エステルヨシュアクロスベル支部に
狼型魔獣依頼(アルモリカ村、病院)
うろ覚えだとこうなるんだがうむむまた確認せねば。