(AB!/音無)天使の腰巾着
3話と4話のインターバルっぽい
デフォルト名、安藤真由
夢らしくなってきた…のか?
前回の続きっぽいです
NPCも普通の人間のようなものだと認識したのは先日。
そしてGirls dead Monsterのボーカルである岩沢が消えたのもつい先日。
この世界に馴染んできたとはいえやはり自分は知らないことばかりで、特にもう一つあった"消える方法"という真実は音無の中に深く存在していた。
いつもの校舎でいつものように珈琲を口にする。あれからガルデモのこともあり戦線は少し沈んでいたが、音無の日課が変わることはなかった。
何も考えずただ自販機の前で立ち止まっていると、ふと、足音がする。無意識にそちらの方へ見れば、それは見覚えのある人物だった。
「あ…」
「え、あ、こないだの……」
こちらに気付き、こんにちは、と眉をハの字にしてに笑ったのは先日初めて話しを交わしたNPCだ。音無も反射的に、よう、と片手を上げ、邪魔にならないようにと自販機の前からどく。
ぺこりと模範のように会釈した彼女は、今回は迷いもせずピッとボタンを押した。
「今回は迷わないんだな」
「あはは…飲みたいものがあったから」
そう取り出したスポーツドリンクを手にした少女はそれをぎゅっと大切そうに持っている。その様子がどこか弱々しく見えて、音無はつい眉をひそめた。
「なんか元気ないのか?」
「へ?」
「いや…前回はもっと明るかったと思ったから…」
言って、何言ってるんだ自分と口ごもる。驚いた彼女を見ながら、たった一度しか会ったことのない相手に、しかも名前も知らない一般人、NPCに馴れ馴れしくはないか。
自分が何を気になったかもわからず、音無は気まずそうに顔をそらした。
「ごめん、余計なことだった」
「あ、いえ…その、私、そんなに元気ないように見えました?」
「あーいや…多分気のせいだ」
いたたまれず、音無ががしがしと頭を弄ると、少女は、ぷ、と笑い出す。
「気のせいじゃないですよ。ちょっとショックなこと、あったんです」
「は、」
「よくわかりましたね。凄いなあ」
凄いと言いながら時折噴き出す姿はとてもショックを受けたようには見えず、というより急に笑い出した少女に、音無は唖然とする。
それがどこか、先日とは逆な気がした少女はまた笑った。
「あはは、この前と大逆転だ」
「この前?…ああ」
「あなたが笑って、私は驚いたままでしたから。ふふ、でもまた会えるなんて思わなかったな。しかもなんでか元気ないってばれちゃったし、あは、あははは」
「…お前も笑い過ぎじゃないか?」
「あ、す、すいません」
状況を把握出来たのか拗ねたような目で少女を見はじめた音無に、終には涙が出てきた少女は慌てたように涙を拭いペットボトルを抱えなおす。
その様子を見ながらNPCのくせに…と音無は心の中で呟いた。ただの八つ当たりだ。
「……で、」
「はい?」
「思いっきり笑われたんだ。なんで元気なかったのかくらい聞く権利はあるだろ」
「…もしかして怒ってます?」
「いや別に」
とか言いながら顔を背ける姿は子供のようで、自分でもそれを自覚している音無は残っていた珈琲を飲み干してごみ箱に投げ入れる。
申し訳なさそうにしていた彼女はそれに拍手し、困ったように笑った。
「…本当に大したことないですよ?」
「じゃあ聞くくらいいいだろ」
「はあ…実は先日、私が大ファンだった方が消えちゃいまして」
「………え」
少し暗い声色で告げられた言葉は、音無の頭を今までの理不尽な不満をすっきりさせる。
それって…と思わず呟けば、少女はペットボトルを両手で握りなおした。
「ご存知ですよね。ガルデモの岩沢さん」
「…ああ」
「私、大ファンだったんですよ。友達には悪影響だって言われてたんですけど、どうしても彼女達の歌が岩沢さんの歌が好きで、こっそりライブも見に行ってて……。開始30分前には待機してたし、A棟の練習室にも差し入れしたことだってあるんですよ!」
「それは…凄いな」
「まあ、そのときは他の方に迫られたりして大変だったんですけど」
いきなり物騒じみた話に、どういうことだと思ったが、あまりに遠い目をする姿に相槌のみを打つ。しかしこの間のユイもだが、NPCさえここまで魅了する彼女らの力が今更だがわかった気がした。
「このスポーツドリンク、そのとき岩沢さんにお礼だからって貰っちゃって、それ以来たまに飲んでるんです」
「ああ、だから」
「はい。私が思い出すくらいはいいかなって思いまして」
「いいだろ、思い出してやってくれよ」
「…はい」
大切そうにペットボトルを抱きしめて笑う彼女は本物のガルデモの、岩沢のファンだったのだと、思わず少女の頭に手を置く。
きょとんとした彼女だったが、次いで嬉しそうに笑って礼を言われて、自分の行動に今更気付いた音無は恥ずかしそうに手をどけた。
「あーっと、敬語とかいいよ。なんか気恥ずかしい」
「そうですか?じゃあ…その、徐々にってことで」
「おう、そうしてくれると助かる。そういえばお前、名前は?」
「安藤です、安藤真由」
「安藤な。俺は音無。名前は…わり、わかんないんだ…あ、」
わかんないと言われてもNPCである彼女、安藤にそれが理解出来る訳がない。慌ててしまったと思ったが、安藤は首を傾げることなく納得したように頷いた。
「ああ、もしかして音無くんはここに来たばかりなんですね。道理で私も見覚えがない訳だ。てっきり知らないだけかと思ったのに」
「は、なんのこと、」
「へ?だから…なかむ……えーっと、ゆりさんとか日向くん達の仲間だよね?今も死んだ世界戦線なの、かな?」
なんでもないように安藤が話すことは音無に衝撃を与える。な、と口を開けたまま固まった音無に安藤は困ったようにこちらを見ていた。
「あの、音無くん?大丈夫?」
「ち、ちょっと待て。な、なんでNPCであるお前が戦線のこと知って…!っていうか死んだってわかって…!?」
「…あ、そこ?えーっと……」
どう説明するべきかと悩む安藤だが、音無の硬直は溶けることがない。そんな音無の頭の中では、ふと誰かに教えて貰った言葉がうかんでいた。
っていうかあれ、そういえば誰か――ゆりが言っていなかったか。NPCに見えるって。襲うこともないって。
ついでに日向も連ねていた、普通。特徴がない。襲われることはないというものも頭に浮かぶ。
ふと未だ頭を抱えている安藤を見直した。
制服は天使や戦線ではない生徒たちと同じだ。つまりNPCなんだろう、と思う。
外見、性格、共に普通だ。少し大人しい気もするが。特徴……特徴という特徴もたしかにない。
戦闘能力、見る限り皆無に等しい。天使を見た限り一概にとは言えないが、それでもガルデモも好きだという彼女が戦闘を襲うことはないんじゃないかと思えてきた。
ついでにガルデモに差し入れしたとき大変だったというのは、もしかして戦闘メンバーにということではないのか。
そのまでぐるぐるした思考の中導き出した音無は、震える指で彼女を指し示す。
うーんうーんと唸っていた彼女がそれに気付き「へ?」と声を上げ目があった瞬間、音無の硬直は完全に溶けた。
「おまえ……まさか天使の腰巾着!?」
「こッ!?まだそれ使われてたんですか!?」
ガーンとショックを受け涙を浮かべた安藤真由改め天使の腰巾着と言われている彼女の存在に、音無は頬を引き攣らせた。
腰巾着発覚編。音無くんは予想外の人物像に驚けばいいよ。
腰巾着さんはガルデモの大ファンで奏に怒られてもこっそりライブも見に行ったり練習してたら差し入れ持っていく子です。だから岩沢さんがいなくなったときは仕方ないと思いながらもショック受けて学校休むほどでした。音無くんと会ったのは授業をサボったからなんだよと補足しておく。
腰巾着扱いはさすがに泣きたい腰巾着さんと日向の話も書きたいなあと思った4話目でした。いや、原作的には3と4の間らへんだけどね。