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『リベールの風と共に』

(軌跡/遊撃士)




国外からこのクロスベル自治州に入るためには、飛行船、鉄道、車の三経路が主であり、他国と陸続きのこのクロスベルでは海以外の全ての運路で行き来が可能である。交通の便がいいのはこの州の導力開発が盛んである証拠とエレボニア帝国とカルバード共和国に挟まれた存在だからということもあるが。飛行船以外の経路は必ず帝国か共和国のどちらかを通ることになり、今回帝国からここに来る予定の人物も、自国にはない鉄道を利用してこちらに来る手筈となっていた。


「ええ…そうですか、警備隊が…」


目的の人物を迎えようと駅構内のベンチに座りながらエニグマの通信機で会話していたユウリは、言葉を途切れさせることなく腕時計を見る。到着時刻はそろそろな筈だ。駅のホームに続く通路に目をよこすと既に列車は到着していたらしく、乗客が何人か通路をこちらに向かってきている。見知った顔はないようなので、通信機で会話を続けながらベンチから立ち上がり確認しようとしたそのとき、こちらに向かってくる元気がよく明るい声を耳にし立ち止まり、目をそこへ向けた。自由に靡く茶髪のツインテールがちらつき、彼女もその後ろに控えていた黒髪の少年も見慣れぬ景色の中でユウリの姿に気付いたのか、表情を明るめこちらにかけてくる。ユウリはそんな二人の様子に、わかりやすく顔を緩め片手を上げると、エニグマに意識を戻した。


「すみませんビクセン町長。ええ、ではまた後日必ず伺いますので……はい、いえ。それでは失礼します」

「――すっごいわね!それがエニグマに新しくつけられたっていう通信機!?」
「クロスベル自治州内では実用化可能だって聞いてたけど、普通に使うところを見るとやっぱり違うものだね」
「二人にも遊撃士協会いったあと使い方教えるわよ―――久しぶり、エステル、ヨシュア。三ヶ月ぶり?」
「そ、んなあっさり…」
「…君も元気そうでなによりだよ」


接続を切った通信機から手を離し改めて二人に顔を向けると、どこか疲れた様子の少年少女はユウリの顔を見て肩を落としている。
大きなリュックと背中に身の丈ほどの棍を携え長いツインテールを揺らす少女、エステル・ブライト。華奢な体型だが重そうな刃渡りの短い双剣を携え琥珀色の柔らかな視線を向けてくる少年、ヨシュア・ブライト。ユウリが一人のS級遊撃士に指導を受けるべく向かった先のリベールで、数年間共に過ごし共に戦い共に苦難を越えるべく歩んできた、大切な存在であった。
道が違えてもそれは変わらず、二人互いに欠けることなく共にいるのを見るだけで、穏やかな気持ちになることができるのはやはり特別だからだろう。二人もそれは同じなのか、仲間との再会だけではない、安堵や安らぎに近いものが滲み出ているのがわかる。
一年前の騒動が終わりを継げたとき、三人ともリベールを離れ、ユウリは見聞を広げるべく単独で各地を旅し、同じくエステルとヨシュアもとある目的の為に二人で大陸中を転々としていた。ユウリのいう以前再会した三ヶ月前というのは、そんな互いに離れた土地にいる最中、現実とは違う空間で予期せぬ事態によるものであり、そのときも今ではリベールの異変と呼ばれる騒動のときに近いくらい死力を尽くしたものである。特に、ユウリは文字通り死力を尽くす事態に巻き込まれ、エステルとヨシュアは肝が冷える思いをしたものだが――こうも実際あっけらかんとしている姿を見ると、あれだけ心配していたのはなんだったのだろうと思わなくもない。軽い口調のユウリに、怒るよりも先に呆れるしかなかった。


「ちゃんと無事に返れたって通信機でも連絡したじゃない」
「あったり前でしょ!?あんな姿で再会してまた危険なところに戻って、心配しない訳ないわよ!」
「通信機越しだと誤魔化されるかもってとこがまた不安だったんだよ…」
「ったく、他のみんなからも引っ切りなしに連絡やら手紙やら届くし、入院してる間は知り合いが引っ切りなし。私の周りは過保護ばっかか」
「「心配かけるユウリが悪い」」


今まで散々クロスベル内だけでも口煩く言われてたのに、こう直接ステレオで叫ばれるとどうにも耳が痛い。顔をしかめたユウリはそろそろ周囲から注目されるのにも限界であり、とりあえず駅を出るわよと二人に促し、出口を目指す。不満そうなエステルと「逃げたな…」というヨシュアの呟きには気付かなかったことにした。


「ところでさっきの通信は大丈夫だったのかい?」
「ああ、そういえば。もしかして友達とか?」
「仕事の話。どうせ後で自治州内回るんだろうから案内ついでにでも紹介するわ」
「ちょっと、こんなところでも仕事!?」
「ユウリ……ミシェルさんに、君がワーカホリック気味だって聞いてたけど、まさかここまで」
「さあ、あんたら二人の新居に荷物置いたらさっさと協会向かうわよ」
「こら、逃げるなー!」


どうにも旗色が悪いことに気付いたのか、先ほどのこともありそそくさと外へ出ていってしまう少女に声を上げて追いかけるエステルの背中を見て、一人ヨシュアは頭を痛めながら荷物を持ち直す。
ヨシュアがよく知るユウリは知性も戦闘力も高く更に凄まじいのはその成長率である。今では離れた土地にいたとはいえ、パートナーであるエステルに近い信頼を預けられるような、実力だけ見たら独立していてもなんの問題ない人物であった。だが、どうにも周囲を心配させる癖があるのか、実力はあるのに自分を省みない危なっかしいところや周囲に全く弱音を吐かず抱え込むところが顕著で、正直猪突猛進気味のエステルよりも酷い。自己犠牲というほど徹底している訳ではないがそれにしたって彼女が強く反動を受けることが多く、一番記憶に新しいのは三ヶ月至宝の余波といえる空間での戦いのときだろうか。結晶化から解放された彼女の姿が血に塗れて真っ赤になっているのを視界に入れたとき、冷静であった筈のヨシュアの思考も何の役にも立たず、命が失われるという可能性に、恐怖に襲われ、暫く機能しなかったものである。
あの空間でエステルを含めた他の仲間たちにつきっきりで介抱されたこともあってか回復するのは早く、周りに渋られながらすぐに参戦してしたのだが、現実世界に返ったあとヨシュアらが一番にユウリの安否を確認したのはいうまでもなかった。


これからきっと、今まで以上に苦労するんだろうな…。


エステルとユウリ、二人の違う意味でのトラブルメーカーに挟まれる位置にいるヨシュア。今後の心労度に重い溜息を一人つき、既に外に出てしまった二人を追いかけるべく足を早めるのだったが、そのヨシュア自身数年前まではエステルとユウリに一番心配をかけられた人物であり、二人が聞いたら「「ヨシュアがいうな」」と両サウンドで返されるに違いない。
エステルはエステルで、元気がよく真っ直ぐといえば響きはよく周囲もその太陽のような明るさに救われることも多いが、如何せんそれ故にトラブルさえも引き付けてしまうことが多い。正遊撃士になってからは周りを見る目も養え以前よりは少なくなったものの、ヨシュアとユウリはそんなエステルを助けるべく、よくサポートに回っていたのはいうまでもなかった。


そんなそれぞれの穴を補い、それぞれ強い感情を向け合い、強い絆で結ばれた二人と一人は三人とも口には出さないが、他の二人に不安を覚えようともそれでも彼らがいればなんでもできる、そんな不確定だが絶対的な信頼をそれぞれ抱いている。
エステルとヨシュア、二人で一つとなることができる彼らに、一番噛み合い近くにいることができるユウリ。三人が揃うのが一番楽しみだったのは、遊撃士協会クロスベル支部の人間ではなく、その本人たちに違いなかった。







「さっすがユウリ!遊撃士協会に近いし部屋は広いし荷物も片付いてるし、相変わらず仕事早いわねー!」
「正直ユウリがいて助かったよ。暫くクロスベルに滞在する予定だったからね」
「まあ私にとってホームみたいなものだし。帝国だとトヴァルさんについててもらったんでしょ?あの人元気だった?」
「ユウリに聞いてたけど毎日毎日徹夜ばっかり。でもいっぱいお世話になっちゃった」
「アーツに関しては本当に色々学ばされたかな。ユウリもそうだったんだろ?」
「まあね、帝国には一ヶ月しかいれなかったけどお陰でアーツ使いがかなり上達したんだから。言っとくけど、ここに戻って私かなり強くなったわよ?」
「こっちだって!」
「はは、楽しみだ」


クロスベル市東通り。ユウリが用意したエステル、ヨシュアの新しい本拠地ともいえる一室に荷物を置き、長い列車の旅に強張った身体を漸くゆっくり伸ばせた二人は、既に整えられた空間に満足していた。
ユウリからしてみれば当たり前だったが、やはり二人からしたらクロスベルは未知の土地であり、普段他の土地に行く際には必ず遊撃士協会からのサポートはあるが、それでもこの地をよく知る仲間がいるというのは心強い。
だが二人からしたら、ユウリはリベールというホームを共にした家族のようなものである。クロスベルに馴染むユウリというのは、今更だが少し違和感を覚えてしょうがなかった。


「でもそっか、ユウリの出身地はここだったもんね。なんか変な感じ」
「それだけ僕らが一緒にいたって証拠なんだろうけどね」
「たったの3年でしょう?大袈裟なんだから」
「む、いいじゃない別に」
「悪いとは言ってない」
「素直じゃないんだから」
「ヨシュアに言われたくない」
「あ、そういえばヨシュアも帝国出身だったっけ」
「忘れないでよエステル…」
「エステル…」
「わ、忘れてないわよ!ただリベールにいたのが当たり前だったから少しうっかりしてただけで!」
「はいはい、うっかりね」
「まあ僕にとってリベールも故郷になってるからいいけどね」
「ほら!」
「はいはい」


勿論エステルがヨシュアの故郷であるハーメルの悲劇の話を忘れていた訳なかったが、こうやってその故郷の話をこうやって明るく話せるようになったのは一重に彼女の力によるところも大きいのだろう。そのことをよくわかっているユウリはヨシュアの笑顔に陰りがないことを当然のように受け入れ、そんな二人にヨシュアは辛いだけでなかった故郷の話をこうやって自然に口にだせることができる。それだけ、たったの3年といえど重くて深い時間を共に過ごしてきたからだろう。ユウリにとってもクロスベルは勿論だが、リベールが特別だということはいうまでもなかった。


「っていうかなんでユウリと同じ部屋じゃないの」
「逆になんで同じにするのか聞きたい」
「だってユウリ、一人暮らしなんでしょ?私たちもそっちでよかったのに」
「流石に3人は狭いから無理」
「そういえば何で一人暮らしなんかしてるのさ。実家近いんだろう?」
「別に深い意味はないけど、一人の方が仕事しやすいしね」
「ふーん?」


遊撃士というのは請け負った仕事によって不定期な生活をすることも多いから、普通の生活を送る家族に迷惑や心配をかけないようにそうするなんとなく理解はできる。だが、リベールのロレントに戻ったら必ず実家に帰るエステルからしたら、どこか納得がいかないような、寂しい気もしてならない。今度ユウリの家族と友達、紹介してね。そういうエステルに、時間ができたらねと返したユウリの様子は普段とかわりなく飄々としていた。


「じゃあユウリの家はまた帰りにいくとして、まずは協会に挨拶しにいきますか!」
「別に来なくてもいいんだけど」
「行くに決まってるだろ。言っとくけど僕らは君が無理しないよう見張るのも込めてここにきたんだから」
「はあ!?なにそれ聞いてないわよ!」
「ミシェルさんに聞いた」
「あの人はまた余計なことを…!」


苦言を呟きながら部屋を出ようとするユウリの様子にエステルとヨシュアは互いに顔を合わせ噴き出す。新しい土地なのにどこか懐かしいこの感じがそうさせるのだろう。
だからだろうか、二人と再会して気負いが減ったユウリが、この地に更に重い感情を抱いてることに二人は気付くことはなかった。




二つに分ければよかったかorz

高校生真月くんの黒歴史

(ゼアル/同い年)

・高校生真月くんがベクター期を黒歴史ってる話
・ムラッとしてやった





「真月くんってベクターのとき目茶苦茶生き生きしてたよね」


本当にふと思い至って、ぽつりと投げかけてみる。すると、ボトリと何かが落ちた音がする。ファーストフード店で目の前の席に座っていた彼が、いきなりの話題に固まっているのを尻目に、私は気にせず言葉を続けた。


「な〜んちゃって!っていうときとかさ、あれは一種の才能っていうか?あそこまで嘲るって言葉が似合う笑い方知らないわー」
「……」
「っていうかギャップが凄い。あんなにヘコヘコしてたのに、あそこまで人を見下して尚且つ弱みを作るっていうのが凄い。あれは遊馬じゃなくてもショックだよね」
「……」
「いや、遊馬だったから立ち直れた訳か。アストラルとは喧嘩しちゃったけど。すぐ仲直りして、でも疑心暗鬼の心は残っちゃったけど」
「……」
「おーい、真月くん。聞いてる?」
「……あの」
「ん?」
「……お願いしますやめてください」


あまりの反応のなさに、ついに言葉を投げかければ、真月くん本人がぎこちなく頭を抱えてうなだれて机に突っ伏してしまう。顔がすっかり見えない状態で小さく「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と呟くのが聞こえてなんか怖い。だが気にせずポテトを頬張った。
真月くん。目の前の彼はまさしくあの時のベクター本人だったが、年を重ね、遊馬とぶつかることで落ち着いたのか。高校生となった今ではすっかり物腰の柔らかいイケメン少年になっていた。時の流れって凄いね。あ、でも遊馬はあの頃と変わらずいつもいつでも「かっとビングだ!」なままなんだから、真月くんが凄いのか。ただどうしても真月くん、ベクターってなると印象が強いのはあの頃で。


「あとはあれだ、仲間が遊馬のせいで危険な目にあうっていう煽り方とかさ。原因あんただったっつーの」
「……」
「ドルベさんやミザエルさんにも目茶苦茶嫌な顔されてたし。あそこまで外道だといっそ感動するよね。いやあの頃は果てしない絶望感に襲われたけど。仲良しって思ってたし。仲間だって思ってたし」
「………」
「そういえば、あのときの私服って真月くんの趣味?ああいうジャケットが似合う人って中々いないよね。真月くんはイケメンだったからまあ似合ってたけどさ。でも最近はああいう服着ないよね。割と大人しめのカジュアル系ばっかだし」
「…………」
「もう着ないの?あれ」
「…………あの、なまえさん」
「ん?」


一人ポテトかじってシェイク飲んでってしながら返答がないのに気にせず続けていたが、漸くのろのろと身体を起こしてきた真月くんに首を傾げる。なんだか変な哀愁漂わせてるね。相変わらず顔は両手で覆ったままだが、真月くんは小さく、少し震えた声で呟いた。


「怒ってます、か?」
「……」
「……」
「……」
「……あの、」
「……」


シェイクを口にしてズゴーとだけ音をたてる。返答は、しない。目の前の彼は青ざめたまま、身動きもしない。
怒る。ほう。なるほど、私は確かに怒っていた。心機一転、イケメンUPした目の前の男に。如何せん敬語がデフォルトで優しいからといって女の子に囲まれることが多い目の前の男に。あんなことがあったことなんて知らない女の子たちに黄色い声を上げられる目の前の男に。


私がどれだけ真月くんの黒歴史時代に振り回されたかと思うと、ねえ。
例え今の彼がベクターだった頃と決別して、尚且つあの頃の自分を恥だと思っていたとしても、八つ当たりくらいは許せるんじゃない?


ズゴー、ゴゴゴ。シェイクがなくなった音がして、意識を取り戻す。ハッとすると、真月くんの顔はまだ悪く、なんか切羽詰まっている。だが、私は気にせず満面の笑顔を向けてやるのだった。


「―――いや、別に?」
「―――ッ、本当に、すみませんでした!!!」


いやいや真月くん、こんなところで土下座なんてするもんじゃありませんよ。このイケメンくんが。目立ってる、ただでさえイケメンなんだから目立ってるよ、君。まあ私には関係ない話だけどね。ははは、じゃあそろそろ帰るわ。また明日学校でね!


「ちょ、待って下さいなまえさん!お願いですから、どうか許して…!!!」





五体投地の黒歴史





(ねー遊馬、あの頃の真月くんは忘れられないよねー)
(あ?ああ、ベクターのことか。確かにあの頃は凄かったよなーアストラル)
(……私はまだ許してないぞ)

(ああああもうお願いですからやめて下さい後生ですからああああああ)




ゲス改めた高校生真月くん。でも黒歴史化。いつまでも弄られつづけるヘタレ化するといいよ。可愛いよ。敬語デフォだよ。

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