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『嬢、決意する』

(ぬら孫/初代時シリーズ)嬢









京で質の悪い伝染病が流行りだしたのはここ最近のこと。私が無闇やたら外に出て屋敷中に感染されるのを恐れたのだろう、オッサンのお陰で珱姫だけでなく私の警護が厚くなりすっかり私も籠の鳥と化していた。
鬱だ。鬱すぎる。こういう時こそ病気を判明して少しでも手がかりを見つけるのが私の役目なのに身動きが取れない状況が悔しくてたまらない。だが、それよりも胸にズッシリとのし掛かるものが存在するのを、不本意ながら心の何処かで理解していた。


「…はぁ」


御簾越しに外を眺めながら溜め息を零す。庭を歩いてるのがチラホラ見える護衛と称した見張りが鬱陶しくて、更に気分は急降下。こんな姿可愛い妹が見たら心配するんだろうなと思いながらも浮上することはない。というより、珱姫に会える筈もないのだ。


あの日からずっと、花開院秀元のもとで自覚した事が私を攻め立てていた。


今生きている世界は作られた世界だと感じていた。詳細が分からなくても未来の真実を知っていた。血のつながりが在るはずの『父親』が父親だと理解らなかった。

愛している『実の妹』と関わりをもった『妖怪』を、『主要人物』――『キャラクター』だと思ってしまった。

じわじわ考えるだけで胸を差す痛みに、うつ伏せになって腕に着物に顔を伏せる。こんなの今更だ。今更なのに、何でこんなに痛いんだろう。
最近は珱姫の顔を見るだけでもそう感じてしまい上手く笑えなくなってしまった。それ以来追求されるのを避けて顔を合わせていない。以前は普通に話せていた是光さんも『そう』なんじゃないかと思ったら祢々切丸を渡したっきり近寄れなくなってしまった。無論、外に出ないからぬらりひょんさんや秀元さんと会うこともない。半場ひきこもり状態である。
なんだこれ、なんでこんな苦しいんだろう。


「もう…やだ……」


帰りたい。『私』が生きていた世界に帰りたい。
ポツリと自然に零れた言葉に愕然とする。生まれて初めてだ。故郷がこんなに恋しくなったの。今までもしかしたら溜まっていたのだろうか、目頭がツンとする感覚に瞳を閉じる。
ああ良かった、と心の底からうつ伏せで寝ている今の状態と女性は御簾の奥という文化に少し感謝。そういえば『妖怪』である彼の前で泣いたことがあったっけ。そう思うと少し笑えた。痛い記憶だがあの時泣けたから今号泣しなくて済んだのかもしれない。


「そういえば…珱姫の前では泣いたことなかった、かもな」


あの子が泣く所はいっぱい見てきたけど。と、ぐずりと鼻を鳴らす。赤くなるのが嫌だから目元をこすりはしなかった。
力が発揮して父親が変わったときから毎日と言っていいほど泣いてたっけ。そう姉さまと泣きながら抱きついてきた小さかった姿を思い描く。それ以前も泣く子だったが、夜になると1人部屋の隅にいるようになったのが放っておけなかった。あやして抱きしめて撫でて、1つの布団にくっついて一緒に寝るのがあの頃の私の日課だったんだ。目元を腫らした珱姫が静かな寝息をたてるまで、背中を、頭を撫でて、自分の胸に押し当てて、トントンとリズムをとりながら優しく叩いて、たまに子守歌を歌ってあげて。
そしてその時からだった。私が外に出て、農業を学んで、医療を行えるようになって、外の話を珱姫に話すようになったのは。珱姫に同情だけじゃない親愛という愛情を本気で考え始めたのは。


「ああ…そっか」


そうだこんなに簡単なことだった。
確かに珱姫を『キャラクター』とも考えていた。彼女は登場人物の1人だった。だけど、珱姫は私の妹でもあるのも事実なんだ。
すんなり出てきた考えに自分を嘲笑するような笑いがこぼれる。


「馬鹿だなー私…珱姫だって、彼だって、ちゃんと目の前にいたのになぁ…」


『登場人物』だと認識したのは私。『傍観者』として遠ざけたのも私。そして『人』だと感じたのも私だ。
矛盾して捻れてどれが一番だったのかわからなくなってきたけど、どれも『私』が感じたことで『私』の考えだけが真実。
だったら今まで通り全部素直に感じていればいいじゃない?


「あー…馬鹿馬鹿」


だってどう考えても『珱姫』と『ぬらりひょん』をキャラクターじゃないと認識するなんて今更不可能。逆に人じゃないと認識するのも不可能。曖昧で確立しない立場にいる私だけど、それで良いんだ。寧ろその道しかとれないんだ。
傍観するって決めたじゃないか。関わるとも決めたじゃないか。だったら最後まで見届けてやればいいんだ。彼が私の大切なあの子を幸せにするのを。彼女が私から離れていくのを。


「それだけが救い、かな」


初めて『公家の壱』の居場所を作ってくれたあの子が幸せになるならば。
うつ伏せにしていた状態から上体を起こす。鼻を鳴らし目頭を押さえれば涙は止まり震えていた体は止まり、ぐいと背伸びをして御簾を上げる。
スタスタと廊下を歩き焦ったようについてくる護衛共に構わず向かったのは、最近寄ることのなかった台所だった。





嬢、決意する





(決めた)(私は最後まで珱姫の姉でいよう)(傍観者でいよう)
(彼が紡ぐ物語を、見守ろう)

(その日、久しぶりに珱姫と夕餉をとった)(珱姫は幸せそうに笑っていた)




うじうじ悩むのは柄じゃねーよ柄じゃねーよなな嬢編。まあここから気合いいれろやなターン何ですが、決意しておかないとオトす段階が楽しゲフンゲフンありきたりになってしまうので。駄目だよ、嬢はベクトルを跳ね返すからこそ嬢なんだから!(一方通行!なんちゃって←)
しかし今更ながら別の世界いったら普通だと泣くと思います。環境ががらりと変わったら尚更。少しくらい吐き出させないと普通じゃない気がして弱音タイム突入にしてみました。まだ葛藤はしてるんだよ。でももういいやと大半思ってるだけで。受け入れたんじゃないです。投げ出したの方が大きいと思う(…)。つまりは嬢も弱いんだよってことさ、多分!←

癒されるといってくれた方に土下座したいくらい鬱な内容すみません!とりあえず次回から原作予定。ただの予定。でも7割方確定。残りの3割は追加ネタ待ち。少し吹っ切れた嬢が書けたらいいなな願望です。あとそろそろ表に書き直そう。
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