(SAO/嬢)

・嬢のリアルラックがテラチートになるお話
・クラインさんごめんなさい(2回目)
・ゲームだから戦うよ仕方ないよと割と割り切れてます。だってゲームだし
・鬱?んなの今までの経験に比べたらてんでたいしたことないしな嬢
・キャラでない
・前回の続きでまだまだ草原なう





メインメニューを弄りログアウトボタンがないことを改めて確認。
人知れず零れた溜息ははじまりの街からかなり距離があるこの広大な草原の静かで少しばかり冷えた空気の中にに消えていった。時間帯も時間帯だからか、もしくはゲームの状況故になのか、数多くのプレイヤーがこの仮想世界に閉じ込められているはずだが周りには誰もいない。現代では滅多にお目にかかれないであろう澄んだ空に細かくまたたく星明かりたちがこの仮想世界の壮大さを示し、不謹慎ながら感嘆する。

現在午前3時。ソードアート・オンラインが発売してまだ一日と経っていない。そう実感できないのはただのオンラインゲームだったものが誰も予測がつかない命懸けのデスゲームと化してしまったせいなのか。風が昼よりも少し冷たいと思うのは今や爆弾と化してしまったゲームハードであるナーヴギアから脳に伝わるという信号がそういう設定になっているからだろう。全く恐ろしく細かくできた世界である。ゲームとはいえ日本の技術マジパネエ。はじまりの街から離れて数時間、なんとなくだが事情を受け止めた今、この世界を楽しもうとする余裕がでてきたのは今までのド修羅場を生き抜いてきた気概かあるからだろう。…あんまり嬉しくなかった。


仮想世界アインクラッドは合計100層にもなる大きな城で、まだ1層ながらこの空間の広さは見回すだけで把握できず、そういえばどっかの物好きが大きさを測定したやらなんやらの情報も聞いたことがあるような。噂のβテスターさんは無駄な技術をもっていらっしゃったようだ。その第1層のほんの一部だろう草原には現在モンスターはPOPされておらず、とはいえさすがに命懸かってきてるのだからHPゲージには常に気をつけている。明度処理なのか夜中とはいえ足元はほの明るく、だがフィールド全体を把握することはできない。さっきから倒すモンスターが有り難いことに回復ポーションや解毒ポーションをドロップしてくれるからこんな序盤でうっかりやられることはなさそうだ。ちなみにここまででレベルは5まで上がった。結構早くあがるもんだと少し不思議に思ったが、ただ1番道路的なものだとするとやっぱりこの程度のレベルなのだろう。たまに青いイノシシ――どうやら正式名称は《フレイジー・ボア》というらしい――の赤バージョンやらまさかの金バージョンやらが出てきてそれらの経験値がギュイーンレベルで高かったりしたのだがやっぱり
あれはレアモノだったのだろうか。HPゲージも増えるしスキルスロットも増加したので割と順調だと思うからリアルラック消費が激しい気がしないでもないが全く問題はない、寧ろ有り難いことこの上なかった。


ふと3つ目のスキルとして設定した《索敵》スキルに黒いオオカミが引っ掛かる。今まで普通のオオカミは見てきたが黒いのは初めてだ。どうやら索敵スキルのおかげでこっちが探索出来る範囲は広がり、暗闇でもこちらからは見慣れたオオカミより一回り大きな姿形がはっきり認識できる。デフォルト設定がどうなっているのかわからないが、相手にはこっちは気付かれていないらしい。なんとなく敵を探知できそうだと思って(削除もできるようだし)選択したスキルだったが《索敵》は当たりだったようだ(最初使ったときは「魔眼か!」とつっこみたくなったが)。目的なくうろうろしている黒オオカミの上方に示されているカーソルの色は赤色で、さっきの倒したばかりのフレイジー・ボアはもっと薄いパールピンク色のカーソルだったから色はレベルが関係してるのかなとなんとなく思う。つまりあの黒オオカミはちょいとレベルが高い仕様なのだろう、多分。…便利だけど、結構便利だけど今更だが誰か説明書プリーズ。
とりあえず集中。一息いれて、腰に吊り下げられた重々しい剣――――ではなく道具袋に入れておいたわりかし固めの石ころを取り出す。もう一度いう。初期装備である《スモールソード》ではなく道具袋から取り出した《石ころ》を取り出す。そして構えた。石ころを侮るなかれ。
――なんせここまで私は一切この片手剣を使っていたかったのだ。


「っ!」


少し構えると《投擲》スキルが発動し、自動で動いた身体の動きに即して飛んでいった石ころは黒オオカミの眉間にヒットする。だがまだどうやらHPは残っているらしい。ゲージが黄色まで下がり、攻撃されたとわかったからか、殺気立ちながらこちらにターゲスを向けてくる。が、黒い身体が息巻いて向かってくる前に落ち着いてもう一つ取り出した石ころを再び眉間に狙いを定めて腕に力を入れた。最初のころよりスピードも威力も強くなっている気がするのは熟練度が上がって来ているからなのだろう。《片手用直剣》は全く上がっていないというのに…いや、なんでもない。
ガアッと高い唸り声を上げたのち、既に見慣れた光の粒として消えていった身体を視界におさめると紫のポップアップ画面が手元に映し出される。石ころさんマジパネエっす。それに比べて、片手剣の無意味さよ。耐久が全く減っていない初期装備に涙が禁じ得ないがそれとこれとは別だった。石ころ様本当にありがとうございます。石ころ無双万歳。
改めてポップアップ画面を確認すれば、おお…やっぱりなんか経験値すげえ気がする。あとドロップアイテムにミンチなどの素材アイテムと一緒に今までの倒してきたモンスターが落としていなかった武器がある。名前は《淡雪》。さすがファンタジー、和風も兼ね備えるとはとても私好みですありがとうございます。試しにオブジェクト化して出現した白く短い刀を少々ぎこちなくだが扱ってみた。


「かっる…」


《スモールソード》より軽い。超軽い。ひょいひょい投げ飛ばしたり振り回したりと、なにこれ絶対こっちのがいいじゃないかビジュアル的にも重量もと楽しくなってきた。詳細を見てみると耐久もなかなかあるみたいだし、攻撃力も《スモールソード》より断然高い。なにこれテンション上がるんですけど。今までレベルアップした際「足早い方が逃げやすくなるよな」と思って敏捷ばかりあげていて《スモールソード》が重いままだし武器に重量あることに気付いてちょっと後悔していたけど軽い武器もあるんだったらこっちの方がいいに決まってる。暗い空間に右手に持った《淡雪》が映える。よし装備を変えるか。《スモールソード》を袋に仕舞いそう判断するが、問題が一つ浮上したことに気付いた。


「……」


スキル画面をタップして上下に動かす。説明を読む。またタップする。調べる。見直す。
やばい。


「刀のソードスキル…ない……」


ガクリと身体から力が抜ける。勿論周りには気を配りながらだったが。表現が大袈裟なのはナーヴギアに伝わった信号のせいだろう。そうに決まっている。…だが身体を起こす力は入らなかった。
スキルがない。このゲームで生きていく上で大問題だということは初心者の私にだって嫌でもわかった。
《ソードスキル》。魔法が一切排除されたファンタジーではありえない世界でそれぞれの個性を左右するのはそのソードスキルであった。スキルがない状態で武器を力任せに振り回したところで相手に与えるダメージは些細なものだということははじまりの街でクラインさんに聞いていたし、草原に出た際実際他のプレイヤーがそうする姿を見たが、それはもう間抜けなことこの上なく、その後そのプレイヤーは焦って逃げ出していた。いうなれば他のファンタジーでAST底辺脳筋キャラに魔法を連発させるという無謀な行為に近い。ステータスが筋力と敏捷くらいしか弄れないなかで、ソードスキルはそれだけ戦闘を左右するものなのだ。
現に今まで私が石ころ無双していたのもソードスキルである《投擲》のお陰だ。物を投げて遠距離で相手にダメージを与える行動、ただ力任せに投げたところできっと相手にターゲスを向けられただけだろう。寧ろ相手に当たるかどうかすら疑問である。自動認証とモーションからと、あとはプレイヤーの判断と動作。プレイヤー次第ではブーストなんてこともできるらしいのだから、やはりソードスキルがあってこそのソードアート・オンラインだった。
つまり今の私の状態は宝の持ち腐れそのもの。月にスッポン豚に真珠。新しいスキルは他スキルの熟練やイベント、なんらかの条件を揃えないとスキルスロットがあっても出現しないらしい。武器を手に入れたらスキルも手に入ると思ってたが……どうやら甘かったようだ。おうふ。握るだけは自由な白い刀がいやに光って見えた。


「刀…刀か…どうやったら手に入るんだろ…」


攻略本欲しい…と唸るのも仕方ないだろう。渋々、かなり後ろ髪引かれるものの、使えないものを持っていても仕方ない。アイテム欄に《淡雪》を戻して《スモールソード》を装備する。途端ずっしりとした重みが再び身体を襲い口から低い声が出てくる。
スキルの獲得条件がさっぱりわからない今、やることは膨大すぎて宛ては全くない。とりあえずスキルから派生という形が1番だというのはわかるものの。


――やっぱり地道にいくしかないか。


試行錯誤するよりまずは手元にあるものから攻略していくしかあるまい。とりあえず《刀》というだけなるのだからまず武器系スキルをコンプリートしていくしかないだろう。嫌々ながら今度こそ《スモールソード》を手にとり、星の明かりと調整された明度のお陰でハッキリ見える道を進んでゆく。
だが、やはり人生そんなにあまくないらしい。
たまに《両手剣》、《短剣》にも手をつけながら草原のモンスターPOPが枯渇し朝日が昇るころ漸く着いた次の村《ホルンカ》。そこで出会ったβテスターに話を聞く限り、刀スキルは《片手剣曲刀》の熟練度を上げていると出現するということでそれを聞いた瞬間身体から力という力が抜けてガクリと地面に手をつける。呆然としながら視界のはしで話を聞かせてくれたβテスターさんが慌てているのを感じるが構う余裕なんかなかった。いっそ目眩がするほどの衝撃だったのだ。


まさかの曲刀かよ…!!クラインさんが使ってたからじゃあいっか思って見向きもしなかったよどちくしょう!!
今度クラインさんにあったら一発くらい拳を振り上げても許されるかな、うん。


………ジョウダンだよ。