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『一歩踏み出したお隣さん』

(ぬら孫/現代時シリーズ/首無)妖怪ホイホイなアンフェア嬢








「ひっ、」
「…すみません、壱様」


お声をお掛けするべきでしたね、と悲しそうに微笑むのは首無さんの姿。肩に触れたのに今は行き場もなく宙に浮く手と彼特有の顔を視界にいれて、自分でも制御出来ない怖気が彼をそんな顔にさせたのだから罪悪感が積もる。

だけど、如何せん『首がない』という首無さんの姿に慣れることが出来なかった。



妖怪や幽霊のようなオカルト類のモノはいないものだと思っていた私の世界にガッチリその現物が潜り込んで来たのはここ最近。大層な屋敷を構え年がら年中賑やかなお隣さんは、ヤのつく自由業だと思い込み、関わらないようにしていたのが一転したのだ。

どうやらお隣さん、奴良さんはヤのつく自由業どころか人外だったらしい。

偶然知ってしまったその事実に恐怖し、だがしかし未知なる世界過ぎるそれに泣き叫ぶ所かマトモに反応出来なかったことに何故かその人外な妖怪たちに無駄に尊敬されたことは真新しい記憶だ。こじつけだと思うそれだが、その時以来異常なまでに好意的に扱われすっかりビビる機会を無くしてしまったのはここだけの話。しかし、普通に接することが出来るのは、ヒトの形を模した総大将と敬われるお爺さんやそのお孫さん。そしてその側近の人たちだけで。つまりは外見上『人並み外れる姿』の妖怪にはまだ多少の勇気と気合いが必要だった。

―――首の無い、彼に反応してしまうのも仕方ないことなんだ。


「…総大将からの言付けで、夕飯を誘いに来ました。もしご都合が合えばいらしてくれると皆喜びます」
「は、はい。わざわざありがとうございました」
「その言葉だけで充分です」


ろくろ首の一種らしい彼の本当に嬉しそうに微笑む姿はイケメン(死語)なのだが、相変わらず目を逸らす私の行動に寂しそうに眉がハの字になっているのがわかる。ビクビクしてしまう体が彼をそうさせていた。こんなにあからさまなのに、それでも良くしてくれている首無さんに抱くのは最大級の罪悪感と拮抗する戸惑いだ。仲良くなりたいとは思ってる。もうここまで関わってしまえば今更だし。だけどやっぱり見慣れぬ、異常では済まされない姿に恐怖が湧いてしまうのがどうしても止められない。今まで、私にとっての『そういう存在』への認識は純粋な恐怖そのものだったから。


「では私はこの辺で。無理はなさらないでいいですから」
「っ」


マフラーで存在しない首を隠しながら頭を下げる姿に躊躇した。これで本当にいいのだろうか。あんなに良い――ヒトじゃないけど――ヒトだろうが妖怪だろうが無碍にしてるままじゃ相手を傷つける一方じゃないか。全てを受け入れる勇気なんて持ち合わせちゃいないし、大きな器だって兼ね備えてなんかいないけど。それでも寂しげな後ろ姿だけは放っておけなかった。


「――あの、首無さん!」
「は、はい?」
「わ、私、確かに首無さんのこと…だけじゃなくて正直言うと皆さんのこと本当に怖くてでもリクオくんやつららちゃんはまだ耐えられるんですけど、鬼の形をしていたりとか異様にデカいとか小さいのはまだ可愛いからいけるんですけどねっあと目玉が1つとか3つとか腕がいっぱいだとか嘴があるとか――その、首が無いとか、も怖くて怖くて仕方なくてっ!」
「……はい」
「ででででも人間って慣れる生き物じゃないですか!?」
「……はい?」


キョトンと首…はないけど頭を傾ける姿に構うことなく一気にまくし立てる。ハテナを浮かべる姿はやはりというか可愛いがここで戸惑ったら次の機会はないぞ私。


「子供の頃食べられなかったものでも大人になると食べられたり難しい作業でも段々テクニック覚えたり人付き合い学んだり包丁が握れるようになったり効率的良くなったりっ!!」
「そ、そうですね…」
「だ、だからなんというかその……私もいつか首が無いのも慣れますから!」
「はい……え?」


あああここまでくると恥ずかしくなってきたいやものすっごく恥ずかしい…!だけどここまできたんだ。最後まで、頑張れ私。ギュッと拳を握って固まる首無さんと目を合わせる。当たり前だが、首が無いのも視界に入るがここで引き下がる訳にはいかなかった。


「で、ですから、時間はかかるかもしれないですけど!でででも早く慣れるように頑張りますからっ、それまでビックリっていうか震えたりもするけど!いやでもこれは私がチキンだから仕方ないというか申し訳ないというか諦めてもらえるとというより気にしないで頂きたいというかっ!!――ね!?」
「――はい」
「そ、その…だから、」
「はい、それまで待ってます」


さっきと同じような、それでも先程よりも眩しい微笑みで頷く首無さん。その寂しさの混ざらない笑顔にどこかホッとする一方、やってしまったと頭を抱える私がどこかいるのは――うん、気のせいだよね。





一歩踏み出したお隣さん





(壱様、お椀よそいましょうか!?)
(ひ、い、いえいえお構いなく)
(壱様お酒は如何ですか!?)
(うぎゃあ!だだ大丈夫です私明日も出勤ですから!)
(…そうですか)
(……その、お茶だけ頂けますか首無さん)
(はい!勿論です!)

(……)
(……)
(…なんだあれ)
(今日の首無、やけに壱さんに絡むね…?)
(驚いてる場合じゃないです若っ!なんですか、壱様にお茶をつぐのは私の仕事なのにー!!壱様に近付くんじゃないわよ首無ぃ!!)
(ちょ、ちょっとつらら!?)
(そーだそーだ!色男は大人しく給仕に回っておけばよいのだ!)
(黒まで!?)
(…オレ壱様に胡瓜貰ったからどーでもいいーやー)
(少しは止めてよ河童!)



嬢、現代の妖怪ホイホイ編。首無と仲良くなってみましょう。ずっと書きたかったので満足してます。首無は若干へたれ目なのにな色男っぷりが好き。でも首がないのはやっぱり怖いと思うんだよね。

妖怪ホイホイ嬢は不本意なお隣さんです。これも家に侵入した総大将に嬢が気付いて出会えばいいよ。過去編と同じようなパターンで。畏れは相変わらずな無効化、というより現実から若干離れてるから故の妖怪ホイホイ万歳。
過去編に珱姫姉な嬢がいてそれの転生(じゃないけど)設定でも充分私が楽しいぬら孫シリーズです。


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