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『嬢、陰陽師と出会う』

(ぬら孫/初代時シリーズ/花開院)アンフェア嬢








最近、珱姫の生き肝を狙う妖が増えているらしい。
生き肝っていうのはあれだ。生きた人間の内臓のこと。まともに説明したら注意書きが必要なレベルだけど、大ざっぱにいうと血の滴る心臓っていうのがわかりやすいかも。ぶっちゃけ私からしたら現実味を帯びないそれだけど、同時に恐ろしく感じるのは『妖』なんて存在が実現するからだ。まさしく未知の領域。勘弁して下さい。
そんなのに珱姫が殺されるのも全力で回避したいので、屋敷の護衛に来て貰ってる花開院家っていう陰陽道の人々に精根満たされるような男飯を作ったのは最近のことだ。

が、まさか狙われてるのは珱姫だけじゃないなんて、誰が思おうか。


『珱姫の姉じゃ!恵姫じゃ!!』
『きっとあの女も特別な力を持っておるに違いない!』
『阿奴の生き肝を喰らうのはワシじゃああ!!』

「ぎゃあああああバカ畜生ふざけんなああああ!!!?」


後ろから聞こえてくる物騒な会話と足音はしないのにガサガサと近付く草木の擦る音に、振り返る余裕も度胸もなく必死で走る。ちょ、マジで勘弁してくれよ!立ち止まったら即KO。いや、KOどころか存在すらアウトになりそう。逃げるが勝ちともいうが、負けた時点で終了だ。人生が。
今、私は命を懸けた鬼ごっこと言えば可愛らしいもの――進行形で、人外の生物に追いかけられていた。


「ってか妖怪!?あれが妖怪!?マジモノ見ちゃったようわ初めての体験!!って感動してる暇ねええええ!」
『生き肝喰わせろ恵姫ぇぇ』
「ふざけんな馬鹿あああ!!そこの木でもかじってろッ!!」
『オレら草食じゃねえよぉ』
「!(妖怪にツッコミされた!)」


なんて感動してる場合じゃなく本当に不味い。思わずツッコミ返そうとしたのを堪え、迫り来る危険から必死に足を動かした。
というか追いかけられている理由はなんだっけ。久しぶりに薬草や山菜を採ろうと山に入って、薄暗いなか遭遇しちゃったんだ。リアルホラーだったのに気を失いそうになったのを堪えた私、偉すぎる。しかし出会ったから襲ってくるものなのか。でもそういえば珱姫の姉だからって言ってたじゃないか。それってもしかして、姉である私も神通力持ちだって勘違いされてたりする!?
グルグルな思考から導き出したまさかな解答に頬がつる。そんな勘違いで死ぬわけにいかんでしょうが!思い切って振り返ると相変わらずなリアルホラーがそこには存在するが拳を握り締め勇気を出した。


「ちょっとおおお兄さん方私が珱姫の姉だって狙ってんでしょう!?言っとくけど私特殊能力なんてないからね!そんな大層な力持ってないからね!頼むから一般ピーポーでいさせてえええ!!」

「妖怪に説得なんて無意味なことよーするなぁ、恵姫さま。でも城下町で『姉の恵姫は未知の力で貧民を救って下さる』なんて噂が広まってるんやから説得力無いと思うでー」

「なにその噂!?捏造し過ぎだろしかも不可抗力!!……………は!?」


誰だよ!?
思わずツッコミ返してしまったが、妖怪に叫んだ筈の言葉になんで後ろからじゃなくて真横から返答されてんだ。そう思い振り向くとこんな緊急時にノンビリまったりだなんて言葉の似合う狐目のお兄さんが。思わず胡散臭いと思うその表情だが、着ている狩衣と烏帽子に身分が高いだろうことは分かった。しかしこんな状況で飄々と笑える人種だ。まさかこの人も妖怪なんじゃ…と考え、さあと血の気が引く。
ヤバい、これって四面楚歌?そうお兄さんからも離れようと顔を背けるが、その行動はとんでもないことで不可能となる。

私の体が、地面から離れた。


「ぎ、ぎやああああ何これ!何これ!?わ、私ううう浮いてる!!?」
「どうどう、暴れたら怪我するでー」
「は!?」
『人の上でバタバタしないで欲しいよねー』
『人じゃないけどねー』
「はあ!?」


な ん だ こ れ !
よくよく見れば足元にニヤニヤしながら飛ぶ羽の生えた生物がおり、ピキリと固まった。笑う顔に愛嬌はあるが下半身は紙のようにピラピラして羽が生えて宙に浮ける時点で脳の許容量がパンクする。クスクスと声も出すそれに、思わずぐらりとすると隣のお兄さんに「おっと、大丈夫かー」と支えられた。
…よく見たらこの人も似たような生物に乗っていた。もう駄目だ。喰われる。珱姫、先立ってゆく姉を許して頂戴。


「面白い姫さんやなぁ。滅多におらんわ、こんな元気な姫さん」
「言っときますけど私食べても美味しくないですからねっ!!」
「なんや、ボク人肉食べる趣味ないで?」
「は?だって明らかに人じゃ…」
「ああ、これは式紙や」


しきがみ?
これ、と指し示された足元の人形のようなものを見ると彼ら(彼女ら?)は「「ねー」」と言い合っている。…ちょっと可愛いと思ってしまった。
でも、式紙って…と、思わずお兄さんを凝視するとにこりと返される。あれ、イケメンじゃないですか。こんな時にそんなこと考えられる自分、図太くなったなだなんて思ってると、後ろからまだ聞こえてくる声に、ひっと体を震わせた。


『恵姫ぇぇ!生き肝喰わせろおお』
「(ぎゃあ!)ま、まだ追いかけてくるの!?」
「ええ加減しつこいなあ。姫さん姫さん、ちょいと目ぇ瞑っててくれへん?」
「な、何で?」
「ボク、ちゃちゃっとあいつら退治してくるから♪」
「は!?」


楽しげに発せられた言葉に目を開く。何言ってんのこの人!?そう思ったが、次いで『式紙』という言葉に思い出した。
式紙……って、確かあれ?


「ま、まさか……」
「はーい、それじゃいくでー」
「っ」


お兄さんの言葉にギュッと目を閉じ耳を塞ぐ。不安定な体が片手で支えられるのを感じながら、突如聞こえてきた絶叫のようなものにびくりと体が反応した。
飛んでいたの式紙が動きを止めるのがわかり恐る恐る目を開く。視界に入ったプスプスと煙が立っている背後の景色に唖然とすると、自分の今の体制がお兄さんに抱きついていることに気付き、ばっと離れた。


「ありゃ、勿体無い」
「あんた変態か!?」
『クスクス、変態だってー。助けたのにねー』
『ねー』
「ふぐっ」


式紙たちに思わず、ぐっと言葉が詰まる。た、確かに助けられたのにそれにしては態度が悪かったかも。


「…す、すみませんでした。助かりました」
「あはーええてええて。これがボクらの仕事やし」
「仕事って…」


じゃあやっぱり…。と、お兄さんを見れば相変わらず飄々としている顔に頬は引きつるが、やはり格好いい部類に入るそれに反応するのを耐える。
それにどう思ったか、お兄さんはニマリと笑って手を差し出してきた。


「ほな、帰ろうか恵姫さま。妹さんが心配するで」
「お、珱姫も知ってるんですか!?」
「知ってるも何も、ウチの兄さんらが護衛してるし」
「え…」


に、兄さん?
お兄さんの言葉に目を瞬かせる。キョトンとした表情が面白いのか「ん?」と首を傾げた姿に、ぎぎぎと口を動かした。


「あ、あの…陰陽師、の方ですよね」
「そやで」
「……ま、まさか花開院の?」
「うんうん」
「…………………お、お兄さんって」

「知ってるやろ、是光兄さんのことや」
「え゛」


是光さんの、弟。
是光さんというと珱姫の護衛に来てくれている人で、凄く真面目で優秀な人で…。
この飄々とした胡散臭い人が、是光さんの、弟?


「信じてへんやろ」
「(ギクリ)や、し、信じてますとも!ただ是光さんに弟がいるなんて知らなかったからっ」
「ボクは知っとったよ、恵姫さま…いや、壱姫さんのこと」
「な、なんで名前」


急に呼ばれた本名にぎょっとする。
待て、そういえば今更だけどなんで花開院の人がこんな所いるんだ。しかも私が確か恵姫だって知ってたし…


「あは。警戒してるなあ。変なことないで、兄さんから料理の美味い世話好きで良い姫がいるって聞いただけや」
「……それが私って繋がるとは思えないんですけど」
「そらボクに京で知らないことないもん」


はあ?
お兄さんの言葉に眉を顰める。そんな私の様子が楽しいのか、ニマニマ笑う姿が凄く不審に思えてならなかった。是光さんの話はともかく、怪しすぎるぞこの人。


「秀元や。13代目秀元」
「………は?」


いきなり伝えられた名前に更に首を傾げる。13代目って……?その言葉に疑問に思うが、秀元、さん?の更に発した言葉に益々固まることになるとは思わなかった。


「花開院当主、って言った方が分かりやすいやろな」
「………………は?」

「13代目花開院家当主、花開院秀元いいます」


よろしゅうな。
その意味を理解したときには、叫ぶのを抑えられなかった。





嬢、陰陽師と出会う





(と、当主!?)(それって一番偉くて凄い人じゃ…っ)
(そうそう、ボク凄いんよー)
((じ、自分で言いやがった!))



みたいな秀元との出会い。思わぬハプニングに素な嬢を狐目当主さまは遊んでます。式紙は可愛いと思う。あの笑い方はともかく。
是光さんと嬢はそれなりに交流してるといいなあ。嬢は陰陽師方に気を配ってて好感度が高そうです。

しかし今更ながらこの嬢は無知設定がやりやすくなってきた。現代時はともかく。それかうろ覚え設定でいくかなぁ。7巻までしか知らないとか…ありかもしれない。

SSたまったら表出そう。ぬら孫シリーズとして出そう。
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