(軌跡/遊撃士)

・そろそろ原作沿いっぽくなってきた気がする
・だが絡まぬ





『あらユウリちゃん?私に用だなんて珍しいわね。いきなりどうしたの?』
「グレイスさん」


旧市街の路地裏。誰にも見つからない場所で気配を隠しているユウリは、エニグマを片手にとある場所を見つめている。
通信機の先では仕事場で休憩中だったらしい記者のグレイスが不思議そうな声を上げており、視線の先には対立している不良グループの一方である「テスタメンツ」がたまり場にしているバー《トリニティ》。そこに青装束を身に纏ったメンバーとサングラスをかけた体格のいい男、それらのそのメンバーらが慕う小綺麗で中性的な顔をした男が階段を降りていく様子が見える。離れた場所からでもピリピリしている様子が伺え、これは本気で抗争の準備をしているのだろう。もう一方の不良グループ「サーベルバイパー」はヘッドである男もその一員も「テスタメンツ」より沸点が短いので、まず間違いない。この様子だとなにかしら対策を打たないと、近々確実に血が流れてしまうだろう。
物騒なことを考えながらもふっと口元を緩めたユウリは、静かで感情を読み取れない声で通信機に囁く。壁に背をもたれ悠々としたその姿勢は誰にも見られていないが、どこか支配者の風格を漂わせていた。


「――お願いがあるんですけど」








特務支援課始動日。

およそ三年ぶりでありながらその姿をがらりと変えていたクロスベル市に懐かしさを覚えながらこなした支援要請は物探しや市庁の手伝いに魔獣退治。
初日にセルゲイから説明されていてわかっていたが、本当に遊撃士が受け持つような支援要請や巡回中市民の信頼が薄い警察という現実。それらを見せ付けられたなか、なんとか仕事を一つ一つこなしていたロイドたちだったが、セルゲイからの緊急通信により旧市街にいる不良グループの喧嘩の仲裁に向かい、なんとか抗争寸前で止めることに成功する。ただしそれは一時的な凌ぎでしかなかった。武器を向けあっていた互いのメンバーを諌めにきた両者のヘッドであるワジ、ヴァルドも今回は手を引いたものの互いにやり合う気満々で、準備が出来次第今度は本気で潰し合いをするつもりらしい。殺し合いになってもおかしくない、そんな雰囲気なのに警察本部は旧市街のことは気にも止めていないので応援は頼めない。市民たちへの信頼にも関わることだ。なんとかできるのは自分たち特務支援課しかいなかった。
このまま放置しておくわけにもいかない。そういうロイドにエリィ、ティオ、ランディは賛成し、ここまでの争いを行おうとする理由を捜査官らしく聞こうと両チームや周囲の人間に行動をとっていた。途中、ロイドとサーベルバイパーのヘッド、ヴァルドが一騎打ちをするということがあったものの、結論からすると、原因は互いのチームの一員が同じ日の五日前、の同じ時間帯に違う場所で闇討ちにあったらしい。
目撃者もなくテスタメンツ側はまだ意識不明、サーベルバイパー側は犯人を見ていないため特定するものは襲われたときの傷だった。テスタメンツ側の被害者アゼルが受けたものはサーベルバイパーが使う釘付きの棍棒による打撃と裂傷、サーベルバイパー側の被害者コウキは遠くから跳んできた石の攻撃後タコ殴りにされ、攻撃の初手はテスタメンツが使うスリングショットによるもの。だがその日互いのチームはお互い闇討ちにあったそのことに気付かなかった。


何かがおかしいことを感じながらそれを埋めるパズルのピースが見つからず困った状況で現れたのは先日会ったクロスベル通信社の記者、グレイス。
彼女は食わない笑みで支援課を煽るだけ煽ってくれたが、必要になるかもしれない情報を聞かせてくれる気らしい。そのためにはこちらも情報を出さなければならないと警察としてそれはどうなのだろうと悩むロイドだったが手詰まり感も否めず仕方なく指定された場、《龍老飯店》にむかうのだった。

食事をしながら情報交換をした結果、グレイスから貰った情報は予想外そのもの。欠けたピースとして上げられた組織の名前は「ルバーチェ商会」であり、表向きは正式に認可された法人ながらその詳細はクロスベル自治州の裏社会を牛耳るマフィアである。何故その名前がこの場で出てきたのか。彼女によるとそのルバーチェが今回の騒動に関わってる可能性が高く、旧市街で人目を避けるような格好で彼らの姿が目撃されているらしい。まさかの第三の容疑者に戸惑いを隠せないメンバーだったが、ロイドが更に気になったのはどこか楽しそうなグレイスの様子だった。


「……」
「なによロイドくん。心配しなくてもお姉さんお墨付きの嘘偽りのない情報よ?」
「いえ、ここまできたら貴女が嘘をつくとは思えません。寧ろ気になるのは別のことです」
「別のこと?」
「グレイスさん、貴女はルバーチェの動きを探るために旧市街にきていたといった。そこで俺達をたまたま見つけてついてきたと。それは本当に偶然ですか?」
「それは…確かに」
「タイミングよすぎかと」


いきなりのロイドの発言にポツリと呟いたのはティオだったか。だがエリィとランディも同じような表情をしているのだけは見て取れた。
行き詰まったところに現れた貴重な手懸かり。ルバーチェという存在に驚きマフィアが介入する理由は未だ不明なものの、それでもこんなにすんなり第三者の情報を与えてくれた存在に不信感を抱く。グレイスがかなり有能らしいことはなんとなく感じはじめているロイドだったが、それでもあのタイミングでグレイスが現れたことになにか策略めいたものを感じる。疑惑を抱かれている記者はそんな不信感に顔を歪めることなく寧ろどこか楽しげに笑ってみせている。そういえば始終こんな表情を浮かべていた。それが彼女のスタンスなのかはわからないものの、どこか振り回されている感がして仕方ない。
これは彼女がいう自分たち特務支援課に向けての期待というものなのか。それとも別の意図があるのか。


「どうなんですか、グレイスさん。貴女は一体何を考えて」
「うーん、やっぱり良いわね君達」
「は?」
「グレイスさん?」
「一体何を」
「いやいや。ちょっとサービスしちゃったけど、サービスついでだしもういいわよね」
「何の話ですか?」
「予想以上に君達は見守られてるってこと。しかも結構な大物からねー」
「!」


結構な大物、という言葉でピンとくるのは先日遭遇した《風の剣聖》アリオス・マクレイン。もしやこの事態にとっくに気付いて…と先日のこともあり思わず顔を強張らせる支援課だが、グレイスはそんな反応にからからと笑って手を振る。


「違う違う。確かにアリオスさんも期待はしてるんだろうけど、今回君達のこと教えてくれたのは別の子よ」
「アリオスさん以外の…?」
「私たちの行動を知っていたってこと?グレイスさん、それは一体」
「おっと、これ以上は怒られちゃうか」


問い詰めようと立ち上がった様子にそそくさと身を翻したグレイスは、「じゃあ頑張ってねー」と軽やかな足取りで去っていく。勿論奢りだということも忘れていなかったのか、料理の支払いは済ませて。どの道あれ以上は口を漏らすことはなかっただろうが、腑に落ちないものを最後に投下していかれたロイドたちはその素早いフットワークに唖然としつつ、完全に彼女の姿が見えなくなったときには肩を落としていた。


「なんだありゃあ…」
「意味深すぎです…」
「アリオスさん並に大物って、とんでもないことを言っていた気がするんだけど…」
「同感だ…」


4人は、はあ、と仲良く同時に溜息を落とす。ルバーチェに不良グループ、それに自分たちを見守る謎の大物。それらの情報に、もはや困惑するしかなかった。
特に謎の大物ってなんだ、謎の大物って。《風の剣聖》、市長、IBC社長、アルカンシェルのアーティスト、クロスベルで大物といったら怱々たる面々が浮かぶものの、自分たちを見守るというと彼らは違うだろう。顔を合わせたのはアリオスだけだが、彼は否定されていたし、それ以外となるとしばらくクロスベルを離れていたロイドには検討がつかない。他の3人も同じようで、困惑の表情を浮かべているだけだった。


「しかしこれからどうするよ。記者のねーちゃんをけしかけた人物はともかく、不良グループの喧嘩はなんとかしないとまずいだろ」
「そうね…でもルバーチェが出てきた以上これ以上私たちにできることなんて…」
「……仕方ない。課長に一旦報告もかねて相談しよう」
「ですね。ああ、そういえば遊撃士協会の受付の人があとで顔を出すよう言ってましたがどうしますか」
「丁度帰り道だし寄っていこう。今後関わっていきそうだし、何か話も聞けるかもしれない」
「ミシェルさんだったかしら。あの人も中々食わせ者っぽかったわね」


市内巡回中挨拶しに立ち寄った、今後自分たちのライバルとなりうる遊撃士協会クロスベル支部の受付の男、ミシェルの言葉を思い出しながら、その決して好意的だけではなかった視線にもちょっとプレッシャーを感じてしまう。一体何を言われてしまうのだろうか。グレイスとは違う食わせ者の雰囲気を持った男を思い出し、少し肩が重く感じてしまうロイドだった。
だがぐずぐずはしてられない。マフィアの件もどうにかしなければならない中、席を立ち上がり店から出た4人。時刻は昼過ぎており、問題を解決するためには、今日中にもう市内巡回の続きはできないだろうことはわかりきっていた。



(あいつ、今どこにいるんだろ…)



ロイドの脳裏に浮かぶのはとある幼なじみの幼い姿。クロスベルを離れてから3年、その間会うことも連絡すらもなかった彼女に休暇中も市内巡回中も会うことができず、それもまた気落ちさせる要因になってしまった。
彼女が今なにをしているのか、それすらロイドは知らない。唯一わかるのは幼なじみの家族や同じく昔馴染みであるウエンディやオスカーから聞いた「クロスベルにはいる」ということだ。仕事などはタイミングが合わず聞くことが出来ず、仕方なくかつての面影がいないか探していたものの結局出会えず。
だがしかしロイドはこんなことで緊急である仕事に影響を出すわけにはいかない。今は幼なじみのことより、旧市街の不良たちだ。なにより同じクロスベル市にいるのだったらきっと近々会えるだろう。今引きずられる余裕などなかった。

立ち上がったロイドに続き、エリィ、ランディ、ティオもそれぞれ動き出す。
特務支援課として任務を全うしようとする彼らだったが、その動向を見守る彼女の姿にはついぞ知ることなどなかった。





擦れ違うこともなく





(ギルドか…ミシェルさんが余計なこといわなきゃいいけど)
(ここまでくればあとはセルゲイさんがなんとかしてくれる。それからはあいつら次第ってところね…)
(さて、ウルスラ病院行きますか)




あとは原作通り囮捜査官してます。ユウリは仕事してます。エステルたちもくるよ。やったねユウリちゃん!