(軌跡/遊撃士主)


・タングラム門からも列車乗れるよね?あれ乗れない?じゃあ特別措置でいいや(適当)な続き







タングラム門で手続きを済ませアルタイル市行きの列車に乗せてもらえることになったユウリは待ち時間中ふとエニグマを取り出した。
繋げた番号は――セルゲイは携帯通信端末を持っていた筈だが一度かけて繋がらなかったので今手元から離れているのだろう。警察本部にいないことは既に理解しているし遊撃士と警察との微妙な確執もわかっているので余計な藪は突きたくない――大分迷ったものの、特務支援課のビルとなった元新聞社ビルにかけることにする。今日は休日にする予定だと先日セルゲイから聞いていたしここまで警戒する件の幼なじみであるロイドは恐らくガイのところにいっている筈。そう腹をくくり、支援課の番号を入力してゆく。


「……」


アイツが出ませんように。
固い表情で祈りながら、入力を最後まで行うとプルルルルと一般的なベルを鳴らす通信を耳に近付ける。数秒でガチャ、と音が鳴り、通信が繋がったのがわかり、瞬間ユウリはエニグマを持っていない方の拳をぎゅっと握る。


『はい、こちら特務支援課ですが。どちら様でしょうか?』


聞こえてきたのはまだ幼さが多少残るものの甘く響く女の子の声だった。

――ティオ・プラトーか。

事前に様々な情報を聞いていたその声に安堵しそっと息を吐く。端末越しに『あの…?』と聞こえてきて、認めたくないがあまりに緊張していたからか自身応答してないことに気付いた。


「ごめんなさい、私セルゲイ課長の知り合いのユウリといいます。セルゲイさんの携帯端末に一度連絡して繋がらなかったのでこちらに連絡させてもらったのだけど…セルゲイさんいらっしゃる?」
『課長ですか…少々お待ち下さい』


静かに告げられた言葉ののちパタパタという音が聞こえてきたので、探しにいってくれたのだろうと思う。しかし14歳だと聞いているが声だけ聞いても本当に幼い。その割にしっかりとした声色にただの14歳でないことは安易に理解できた。


『お待たせしました。すみません、どうやら今課長は外に出ているようでして。携帯端末も部屋に置きっぱなしだったので繋がらなかったのはそのためでしょう』
「あー…まああの人基本面倒臭そうだしね。じゃあ伝言だけお願いできますか?」
『はい』
「伝言っていっても一言だけなんだけど…『今後余計な報告はいりません』とだけ伝えておいて頂ける?」
『はあ、それだけ、でしょうか?』
「うん、それだけ。きっと私の名前とそれだけ伝えれば通じるから」


戸惑うような声色に少し微笑むが、これ以上にセルゲイに伝わる言葉はないだろう。欲をいえば、『わざと関わらせることだけはやめてくれ』とまで伝えたかったがさすがにそこまでティオ・プラトーに伝えると不審がられるだろうからやめておく。
端末の向こうで少し沈黙したあと同意の声が聞こえ、ユウリはお礼をいった。


「そうだ、あと一つお願いがあるんだけどいいかしら」
『はい、なんでしょう』
「私のことはセルゲイさん以外に言わないで欲しいの」
『え?一体なんで』
「今は秘密。きっとこの先意味はわかるだろうから」
『……』
「お願い」
『……わかり、ました』


本当に渋々だが、同意の声が聞こえてきてホッとする。彼女はきっと嘘はつかないだろう。声からも真面目なことが伝わってきたので、通信機越しにしか話していないもののなんとなくだがそう信じられた。


「じゃあそれだけだから。休日だった筈なのに邪魔をしてごめんなさい。明日から頑張ってね、ティオ・プラトーさん」
『え!?あのっ』


言及されるだろうが構わず通信機を切る。丁度列車も到着するようだし全くナイスタイミングである。ぐっと伸びをし乗り込む準備をする。
しかし、


「しまったな…」


少し喋りすぎただろうか。こちらから一方的に知っているからか途中から敬語も使わなくなっていたし、何より最後は余計な一言だった気がする。今頃眉をひそめているのではないかと思うが、まあ信頼はできるだろうと周りに言い触らさないことを願うばかりだ。
とりあえず今の自分は依頼を済ますことが先決だろう。アルタイル市に住む顔見知りの富豪からの依頼を早く済ませてクロスベル市に戻ろうと手帳を確認する。


「今日中にあと4件か…」


このタングラム門でも待ち時間の間に捜し物依頼を達成できたので残り4件。これらはクロスベル市に戻ってやることばかりだ。ただ今日中には終わらせることができるだろう、いや、終わらせる、と手帳を閉じる。


「さて、頑張るか」


到着した列車に乗り込み特例だったので改めて検問を受け一息つける。
たった数分なのにその数分で他国に行くことができ、検問は他の国よりも特に気を張ったものなのはクロスベルという自治州の在り方によるものである。


「……」


思うことはあるものの、今それを考えても仕方がない。しかもユウリは遊撃士という立場であり、尚更そこに首をつっこめるだけのものなどない。そんなことは自分が一番よく理解していた。が、大事な故郷への思いや考えを放棄することなどできないでいた。
列車が走り出す。窓の外で変わりゆく景色と線路を走る音にユウリは目を閉じ、次に目を開いたときには遊撃士の顔に戻る。
自分が今できることは一つだけだ。





14歳の少女は好きですか私はすry
アルタイル市探索したかったのは私だけじゃない筈