(黒バス/日向)
2年生になりました



春を象徴する桜が地球温暖化の影響で寂しくなる4月。
本日、今年また1年学年を重ねた伊澄は桜の木の下で黙々と弁当を食べていた。

去年は既に緑の葉が見え始めていたのに、今年は珍しく満開に咲き誇る桜の木は見事なものだ。それは入学式で『桜が見事に咲き誇るこの季節、』と校長が大々的に真実として語れる位に色鮮やかであり、今年入学する新入生のみならず様々な人々の目を奪う。だが伊澄がここにいるのはそんな乙女ちっくな理由なんかじゃなく、ただいつも使う校舎が騒がしいのが原因だ。
風通しもよく日陰もある。あとは桜の花びらが落ちてなきゃ最高だと、風情の欠片もない彼女は口をもぐもぐ動かす。


「……うるさい」


もさもさチマチマと、米粒1つ1つといっても過言じゃない量を箸で口元に運びながら伊澄はポツリと呟いた。
少し離れた所では真新しい制服に包まれ新たな生活に心踊らせる新入生や、それを自分のことのように喜びビデオを回しやカメラを動かすその親、去年からの新設校が故にたくさんの新入生に喜ぶ教師に、そして初めての後輩であり自分達以外の立場の生徒に浮き足立つ2年生がいる。その騒がしさは普段は周りなんて構わずマイペースな伊澄が逃げ場を探して右往左往するほどだ。
そのおかげで普段の倍疲れたのか、伊澄の口から溜め息は止まらなかった。


「…入学式なんて消えてしまえばいいのに」
「何物騒なこと言ってんだだアホ!!」
「、い」


頭に走る軽い衝撃に、伊澄はその衝撃の方向に従うように頭を揺らして眉を顰める。のろのろと振り向けばそこに想像通りの人物がいて、伊澄はむ、と頬を膨らませた。


「何するのよ、日向」
「お前が変なこと言ってっからだろ。こんな喜ばしい日に本物のアホか、バカ杉原」
「嘘じゃないもの」
「余計悪い!」
「…あ、お箸落としてる。日向、洗ってきて」
「何で俺が」
「じゃあ帰ろう」
「おま、今から新入生への校舎案内!」
「お昼食べないと私倒れるわよ」
「それ威張っていうことじゃねーし……お前と話してると部活前なのに疲れる」


ガックリと肩を落とす同級生を見ながら、じゃあ話してこなきゃいいのにと伊澄は毎度思う。結局日向はお人好しなのだ。その言葉を表すように叩かれた衝撃で落とした箸をぶつくさ言いながらも洗いに行く後ろ姿を見ながら、ついでに騒がしい人々の群を視界に入れた。


「…やっぱりうるさい」


新入生ってあんなものだったっけと丁度1年前の自分を思い出しながらポツリと呟く伊澄だが、その表情は不快感ではなく少し柔らかい。全く、1年って長かったような短かったような。
と、1年前の自分を思い描く……筈だった伊澄はなかなか思い出せないそれに首を傾げる。…あれ?1年前ってわたし、何してたっけ。全く思い出せない。


「…まあ1年も経てばそんなものよね」


自己完結する伊澄はうんと1人頷いた。正直言うと1年前どころか半年前の記憶でさえあやふやになっているし、その前に影かたちなくすっかり忘れることでさえ異常であるが、突っ込むことができる要員はこの場にいない。
と、おーい声をかけながら戻ってきた日向に、伊澄は手元の弁当に思考を戻した。ぐるるとタイミング良くなる腹の音に、ずいと手を伸ばす。


「日向、お箸」
「おいコラ、てめえ」


試合中のクラッチタイムのごとく真っ黒に笑いながら唸る日向に、洗われた箸を要求するために伸ばしていた手を引っ込めながら冗談よと首を傾げた。嘘だ、絶対嘘だ。伊達に1年クラスメートをしてない日向はこめかみをピクリと動かす。と、再度鳴る伊澄のお腹に、その切ない音を間近で聞いてしまった日向は深い溜め息を吐きながら仕方なく箸を彼女に渡した。ん、と受け取ったそれを弁当のご飯に刺し、伊澄はもくもく食べ始める。


「礼はないのかよ…」
「んー、じゃあ今度作った料理の差し入れ」
「……」
「お菓子がいい?」
「…弁当」
「了解」


交渉成立と言わんばかりに、完全に弁当に思考を向ける伊澄。ダメだ、かなわない。今まで何度思ったことか。最早数十どころか百超えてんじゃねーかと思う、日向は恐らく正しかった。
相変わらずちまちま食べ始める伊澄の横に、日向は力が抜けたのかぐったりとして座る。未だに少し離れた周りは騒がしい。首を傾げる伊澄に「人多いから、」と日向は呟いた。騒がしいからここから離れたくないだけだ。伊澄がそんな理由で納得するのだから、日向は更に溜め息をつく。


「……そういえばなんで日向がここにいるの?」
「(今更かよ…)あー、その、カントクがお前呼んでんだ」
「相田が?何」
「バスケ部の新入生勧誘手伝えって」
「無理。嫌。私帰る」
「……だよな」


ある程度予想していた日向は多少頭を抱えながらもその表情は呆れたようにしか見えない。大体呼び出しをかけた相田も一か八かだったのだ。断られる寄りの。


「大体私、バスケ部関係ないじゃない」
「…今年も手伝ってくれるんじゃねーの?」
「えー、面倒」
「お、前」


そこまでキッパリ言うか!?と若干傷付いた日向の叫びに構わず伊澄はもさもさ箸を進める。やっと半分が消化されたそれだが午後のHRまで残り十数分。
どちらにしろこの先が思いやられる。日向は眼鏡をしているというのに目にゴミが入った気がした。





桜の木の下で再始動





(あー、そういえばお前と初めて会ったときもこんな疲れた気がするわ。俺)
(あれ、そういえば私、なんで日向と話すようになったの?)
(は?)
(うーん、まあいいか)
(………………(もう突っ込む気力すら湧かねえ))




またまた始まりは日向から。1年前と被せたかったんだよ。うん。私が日向好きなだけだって?そうだけど何か←
クラスは誰と一緒にさせるか未だに決めてないので微妙に飛ばしながら書きたいとこだけ行きます。とりあえず次回はリコリコだな。それか小金井。黒子までの道のりは遠いけど…まいっか。

そういえばやっと先輩のキャラクターが定着しました。前に書いたのは再録するときに手直ししよう。そうしよう。

というわけで相変わらず気まぐれな原作沿いスタートです。