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『リベールの風と共に』

(軌跡/遊撃士)




国外からこのクロスベル自治州に入るためには、飛行船、鉄道、車の三経路が主であり、他国と陸続きのこのクロスベルでは海以外の全ての運路で行き来が可能である。交通の便がいいのはこの州の導力開発が盛んである証拠とエレボニア帝国とカルバード共和国に挟まれた存在だからということもあるが。飛行船以外の経路は必ず帝国か共和国のどちらかを通ることになり、今回帝国からここに来る予定の人物も、自国にはない鉄道を利用してこちらに来る手筈となっていた。


「ええ…そうですか、警備隊が…」


目的の人物を迎えようと駅構内のベンチに座りながらエニグマの通信機で会話していたユウリは、言葉を途切れさせることなく腕時計を見る。到着時刻はそろそろな筈だ。駅のホームに続く通路に目をよこすと既に列車は到着していたらしく、乗客が何人か通路をこちらに向かってきている。見知った顔はないようなので、通信機で会話を続けながらベンチから立ち上がり確認しようとしたそのとき、こちらに向かってくる元気がよく明るい声を耳にし立ち止まり、目をそこへ向けた。自由に靡く茶髪のツインテールがちらつき、彼女もその後ろに控えていた黒髪の少年も見慣れぬ景色の中でユウリの姿に気付いたのか、表情を明るめこちらにかけてくる。ユウリはそんな二人の様子に、わかりやすく顔を緩め片手を上げると、エニグマに意識を戻した。


「すみませんビクセン町長。ええ、ではまた後日必ず伺いますので……はい、いえ。それでは失礼します」

「――すっごいわね!それがエニグマに新しくつけられたっていう通信機!?」
「クロスベル自治州内では実用化可能だって聞いてたけど、普通に使うところを見るとやっぱり違うものだね」
「二人にも遊撃士協会いったあと使い方教えるわよ―――久しぶり、エステル、ヨシュア。三ヶ月ぶり?」
「そ、んなあっさり…」
「…君も元気そうでなによりだよ」


接続を切った通信機から手を離し改めて二人に顔を向けると、どこか疲れた様子の少年少女はユウリの顔を見て肩を落としている。
大きなリュックと背中に身の丈ほどの棍を携え長いツインテールを揺らす少女、エステル・ブライト。華奢な体型だが重そうな刃渡りの短い双剣を携え琥珀色の柔らかな視線を向けてくる少年、ヨシュア・ブライト。ユウリが一人のS級遊撃士に指導を受けるべく向かった先のリベールで、数年間共に過ごし共に戦い共に苦難を越えるべく歩んできた、大切な存在であった。
道が違えてもそれは変わらず、二人互いに欠けることなく共にいるのを見るだけで、穏やかな気持ちになることができるのはやはり特別だからだろう。二人もそれは同じなのか、仲間との再会だけではない、安堵や安らぎに近いものが滲み出ているのがわかる。
一年前の騒動が終わりを継げたとき、三人ともリベールを離れ、ユウリは見聞を広げるべく単独で各地を旅し、同じくエステルとヨシュアもとある目的の為に二人で大陸中を転々としていた。ユウリのいう以前再会した三ヶ月前というのは、そんな互いに離れた土地にいる最中、現実とは違う空間で予期せぬ事態によるものであり、そのときも今ではリベールの異変と呼ばれる騒動のときに近いくらい死力を尽くしたものである。特に、ユウリは文字通り死力を尽くす事態に巻き込まれ、エステルとヨシュアは肝が冷える思いをしたものだが――こうも実際あっけらかんとしている姿を見ると、あれだけ心配していたのはなんだったのだろうと思わなくもない。軽い口調のユウリに、怒るよりも先に呆れるしかなかった。


「ちゃんと無事に返れたって通信機でも連絡したじゃない」
「あったり前でしょ!?あんな姿で再会してまた危険なところに戻って、心配しない訳ないわよ!」
「通信機越しだと誤魔化されるかもってとこがまた不安だったんだよ…」
「ったく、他のみんなからも引っ切りなしに連絡やら手紙やら届くし、入院してる間は知り合いが引っ切りなし。私の周りは過保護ばっかか」
「「心配かけるユウリが悪い」」


今まで散々クロスベル内だけでも口煩く言われてたのに、こう直接ステレオで叫ばれるとどうにも耳が痛い。顔をしかめたユウリはそろそろ周囲から注目されるのにも限界であり、とりあえず駅を出るわよと二人に促し、出口を目指す。不満そうなエステルと「逃げたな…」というヨシュアの呟きには気付かなかったことにした。


「ところでさっきの通信は大丈夫だったのかい?」
「ああ、そういえば。もしかして友達とか?」
「仕事の話。どうせ後で自治州内回るんだろうから案内ついでにでも紹介するわ」
「ちょっと、こんなところでも仕事!?」
「ユウリ……ミシェルさんに、君がワーカホリック気味だって聞いてたけど、まさかここまで」
「さあ、あんたら二人の新居に荷物置いたらさっさと協会向かうわよ」
「こら、逃げるなー!」


どうにも旗色が悪いことに気付いたのか、先ほどのこともありそそくさと外へ出ていってしまう少女に声を上げて追いかけるエステルの背中を見て、一人ヨシュアは頭を痛めながら荷物を持ち直す。
ヨシュアがよく知るユウリは知性も戦闘力も高く更に凄まじいのはその成長率である。今では離れた土地にいたとはいえ、パートナーであるエステルに近い信頼を預けられるような、実力だけ見たら独立していてもなんの問題ない人物であった。だが、どうにも周囲を心配させる癖があるのか、実力はあるのに自分を省みない危なっかしいところや周囲に全く弱音を吐かず抱え込むところが顕著で、正直猪突猛進気味のエステルよりも酷い。自己犠牲というほど徹底している訳ではないがそれにしたって彼女が強く反動を受けることが多く、一番記憶に新しいのは三ヶ月至宝の余波といえる空間での戦いのときだろうか。結晶化から解放された彼女の姿が血に塗れて真っ赤になっているのを視界に入れたとき、冷静であった筈のヨシュアの思考も何の役にも立たず、命が失われるという可能性に、恐怖に襲われ、暫く機能しなかったものである。
あの空間でエステルを含めた他の仲間たちにつきっきりで介抱されたこともあってか回復するのは早く、周りに渋られながらすぐに参戦してしたのだが、現実世界に返ったあとヨシュアらが一番にユウリの安否を確認したのはいうまでもなかった。


これからきっと、今まで以上に苦労するんだろうな…。


エステルとユウリ、二人の違う意味でのトラブルメーカーに挟まれる位置にいるヨシュア。今後の心労度に重い溜息を一人つき、既に外に出てしまった二人を追いかけるべく足を早めるのだったが、そのヨシュア自身数年前まではエステルとユウリに一番心配をかけられた人物であり、二人が聞いたら「「ヨシュアがいうな」」と両サウンドで返されるに違いない。
エステルはエステルで、元気がよく真っ直ぐといえば響きはよく周囲もその太陽のような明るさに救われることも多いが、如何せんそれ故にトラブルさえも引き付けてしまうことが多い。正遊撃士になってからは周りを見る目も養え以前よりは少なくなったものの、ヨシュアとユウリはそんなエステルを助けるべく、よくサポートに回っていたのはいうまでもなかった。


そんなそれぞれの穴を補い、それぞれ強い感情を向け合い、強い絆で結ばれた二人と一人は三人とも口には出さないが、他の二人に不安を覚えようともそれでも彼らがいればなんでもできる、そんな不確定だが絶対的な信頼をそれぞれ抱いている。
エステルとヨシュア、二人で一つとなることができる彼らに、一番噛み合い近くにいることができるユウリ。三人が揃うのが一番楽しみだったのは、遊撃士協会クロスベル支部の人間ではなく、その本人たちに違いなかった。







「さっすがユウリ!遊撃士協会に近いし部屋は広いし荷物も片付いてるし、相変わらず仕事早いわねー!」
「正直ユウリがいて助かったよ。暫くクロスベルに滞在する予定だったからね」
「まあ私にとってホームみたいなものだし。帝国だとトヴァルさんについててもらったんでしょ?あの人元気だった?」
「ユウリに聞いてたけど毎日毎日徹夜ばっかり。でもいっぱいお世話になっちゃった」
「アーツに関しては本当に色々学ばされたかな。ユウリもそうだったんだろ?」
「まあね、帝国には一ヶ月しかいれなかったけどお陰でアーツ使いがかなり上達したんだから。言っとくけど、ここに戻って私かなり強くなったわよ?」
「こっちだって!」
「はは、楽しみだ」


クロスベル市東通り。ユウリが用意したエステル、ヨシュアの新しい本拠地ともいえる一室に荷物を置き、長い列車の旅に強張った身体を漸くゆっくり伸ばせた二人は、既に整えられた空間に満足していた。
ユウリからしてみれば当たり前だったが、やはり二人からしたらクロスベルは未知の土地であり、普段他の土地に行く際には必ず遊撃士協会からのサポートはあるが、それでもこの地をよく知る仲間がいるというのは心強い。
だが二人からしたら、ユウリはリベールというホームを共にした家族のようなものである。クロスベルに馴染むユウリというのは、今更だが少し違和感を覚えてしょうがなかった。


「でもそっか、ユウリの出身地はここだったもんね。なんか変な感じ」
「それだけ僕らが一緒にいたって証拠なんだろうけどね」
「たったの3年でしょう?大袈裟なんだから」
「む、いいじゃない別に」
「悪いとは言ってない」
「素直じゃないんだから」
「ヨシュアに言われたくない」
「あ、そういえばヨシュアも帝国出身だったっけ」
「忘れないでよエステル…」
「エステル…」
「わ、忘れてないわよ!ただリベールにいたのが当たり前だったから少しうっかりしてただけで!」
「はいはい、うっかりね」
「まあ僕にとってリベールも故郷になってるからいいけどね」
「ほら!」
「はいはい」


勿論エステルがヨシュアの故郷であるハーメルの悲劇の話を忘れていた訳なかったが、こうやってその故郷の話をこうやって明るく話せるようになったのは一重に彼女の力によるところも大きいのだろう。そのことをよくわかっているユウリはヨシュアの笑顔に陰りがないことを当然のように受け入れ、そんな二人にヨシュアは辛いだけでなかった故郷の話をこうやって自然に口にだせることができる。それだけ、たったの3年といえど重くて深い時間を共に過ごしてきたからだろう。ユウリにとってもクロスベルは勿論だが、リベールが特別だということはいうまでもなかった。


「っていうかなんでユウリと同じ部屋じゃないの」
「逆になんで同じにするのか聞きたい」
「だってユウリ、一人暮らしなんでしょ?私たちもそっちでよかったのに」
「流石に3人は狭いから無理」
「そういえば何で一人暮らしなんかしてるのさ。実家近いんだろう?」
「別に深い意味はないけど、一人の方が仕事しやすいしね」
「ふーん?」


遊撃士というのは請け負った仕事によって不定期な生活をすることも多いから、普通の生活を送る家族に迷惑や心配をかけないようにそうするなんとなく理解はできる。だが、リベールのロレントに戻ったら必ず実家に帰るエステルからしたら、どこか納得がいかないような、寂しい気もしてならない。今度ユウリの家族と友達、紹介してね。そういうエステルに、時間ができたらねと返したユウリの様子は普段とかわりなく飄々としていた。


「じゃあユウリの家はまた帰りにいくとして、まずは協会に挨拶しにいきますか!」
「別に来なくてもいいんだけど」
「行くに決まってるだろ。言っとくけど僕らは君が無理しないよう見張るのも込めてここにきたんだから」
「はあ!?なにそれ聞いてないわよ!」
「ミシェルさんに聞いた」
「あの人はまた余計なことを…!」


苦言を呟きながら部屋を出ようとするユウリの様子にエステルとヨシュアは互いに顔を合わせ噴き出す。新しい土地なのにどこか懐かしいこの感じがそうさせるのだろう。
だからだろうか、二人と再会して気負いが減ったユウリが、この地に更に重い感情を抱いてることに二人は気付くことはなかった。




二つに分ければよかったかorz

高校生真月くんの黒歴史

(ゼアル/同い年)

・高校生真月くんがベクター期を黒歴史ってる話
・ムラッとしてやった





「真月くんってベクターのとき目茶苦茶生き生きしてたよね」


本当にふと思い至って、ぽつりと投げかけてみる。すると、ボトリと何かが落ちた音がする。ファーストフード店で目の前の席に座っていた彼が、いきなりの話題に固まっているのを尻目に、私は気にせず言葉を続けた。


「な〜んちゃって!っていうときとかさ、あれは一種の才能っていうか?あそこまで嘲るって言葉が似合う笑い方知らないわー」
「……」
「っていうかギャップが凄い。あんなにヘコヘコしてたのに、あそこまで人を見下して尚且つ弱みを作るっていうのが凄い。あれは遊馬じゃなくてもショックだよね」
「……」
「いや、遊馬だったから立ち直れた訳か。アストラルとは喧嘩しちゃったけど。すぐ仲直りして、でも疑心暗鬼の心は残っちゃったけど」
「……」
「おーい、真月くん。聞いてる?」
「……あの」
「ん?」
「……お願いしますやめてください」


あまりの反応のなさに、ついに言葉を投げかければ、真月くん本人がぎこちなく頭を抱えてうなだれて机に突っ伏してしまう。顔がすっかり見えない状態で小さく「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と呟くのが聞こえてなんか怖い。だが気にせずポテトを頬張った。
真月くん。目の前の彼はまさしくあの時のベクター本人だったが、年を重ね、遊馬とぶつかることで落ち着いたのか。高校生となった今ではすっかり物腰の柔らかいイケメン少年になっていた。時の流れって凄いね。あ、でも遊馬はあの頃と変わらずいつもいつでも「かっとビングだ!」なままなんだから、真月くんが凄いのか。ただどうしても真月くん、ベクターってなると印象が強いのはあの頃で。


「あとはあれだ、仲間が遊馬のせいで危険な目にあうっていう煽り方とかさ。原因あんただったっつーの」
「……」
「ドルベさんやミザエルさんにも目茶苦茶嫌な顔されてたし。あそこまで外道だといっそ感動するよね。いやあの頃は果てしない絶望感に襲われたけど。仲良しって思ってたし。仲間だって思ってたし」
「………」
「そういえば、あのときの私服って真月くんの趣味?ああいうジャケットが似合う人って中々いないよね。真月くんはイケメンだったからまあ似合ってたけどさ。でも最近はああいう服着ないよね。割と大人しめのカジュアル系ばっかだし」
「…………」
「もう着ないの?あれ」
「…………あの、なまえさん」
「ん?」


一人ポテトかじってシェイク飲んでってしながら返答がないのに気にせず続けていたが、漸くのろのろと身体を起こしてきた真月くんに首を傾げる。なんだか変な哀愁漂わせてるね。相変わらず顔は両手で覆ったままだが、真月くんは小さく、少し震えた声で呟いた。


「怒ってます、か?」
「……」
「……」
「……」
「……あの、」
「……」


シェイクを口にしてズゴーとだけ音をたてる。返答は、しない。目の前の彼は青ざめたまま、身動きもしない。
怒る。ほう。なるほど、私は確かに怒っていた。心機一転、イケメンUPした目の前の男に。如何せん敬語がデフォルトで優しいからといって女の子に囲まれることが多い目の前の男に。あんなことがあったことなんて知らない女の子たちに黄色い声を上げられる目の前の男に。


私がどれだけ真月くんの黒歴史時代に振り回されたかと思うと、ねえ。
例え今の彼がベクターだった頃と決別して、尚且つあの頃の自分を恥だと思っていたとしても、八つ当たりくらいは許せるんじゃない?


ズゴー、ゴゴゴ。シェイクがなくなった音がして、意識を取り戻す。ハッとすると、真月くんの顔はまだ悪く、なんか切羽詰まっている。だが、私は気にせず満面の笑顔を向けてやるのだった。


「―――いや、別に?」
「―――ッ、本当に、すみませんでした!!!」


いやいや真月くん、こんなところで土下座なんてするもんじゃありませんよ。このイケメンくんが。目立ってる、ただでさえイケメンなんだから目立ってるよ、君。まあ私には関係ない話だけどね。ははは、じゃあそろそろ帰るわ。また明日学校でね!


「ちょ、待って下さいなまえさん!お願いですから、どうか許して…!!!」





五体投地の黒歴史





(ねー遊馬、あの頃の真月くんは忘れられないよねー)
(あ?ああ、ベクターのことか。確かにあの頃は凄かったよなーアストラル)
(……私はまだ許してないぞ)

(ああああもうお願いですからやめて下さい後生ですからああああああ)




ゲス改めた高校生真月くん。でも黒歴史化。いつまでも弄られつづけるヘタレ化するといいよ。可愛いよ。敬語デフォだよ。

『スタートしますか』

(デジF/お台場小5年(02))


・アド・02のデジタルワールドによく行ってた(巻き込まれてた)子
・選ばれし子供たちじゃないよ
・パートナーデジモンもいないよ
・でもよく巻き添えくらってたよ


・そんな子がフロにいったらなお話








私の知ってる、デジタルワールドはどこにいっちゃったんだろう。



なまえは、周囲の景色と前方を歩く数名の同い年くらいの子供たちを眺め、人知れず嘆息した。

現代の規律から大きく外れた未知の景色、常識、そしてデジモンと呼ばれる不思議な生き物たち。コンピュータネットワークの中の電脳空間であるデジタルワールドに存在し生息する彼らは、その身体がデータで構成されていようとも命があり感情があり、生きている。決してゲームとは違う、かけがえのない存在。選ばれし子供たちはそんなデジモンをパートナーにし、協力し、心をひとつにして、現代とデジタルワールド、二つの世界を救ってきた。
それがなまえの知ってるデジモンと人間の在り方。デジタルワールドの在り方。残念ながらなまえは選ばれし子供などではなくパートナーデジモンはいなかったが、それでも何故か戦いに巻き込まれたなまえを助けてくれていた彼らの関係は羨ましかったし、優しくて心強いデジモンは大好きだった。1999年と2002年、その年に大きくデジタルワールドに関わったことは、なまえにとってかけがえのない思い出であった。


ところが今はこれまたどうしたことか。




漸く安定を取り戻したデジタルワールドに安心し、デジヴァイスやD3がなくたってデジモンとは会えるから満足し、学生生活を満喫していたなまえだったが、ある日登下校中のなまえの携帯に謎のメールが届いたのがきっかけだったと思う。
曰く、


スタートしますか
しませんか

Yes No


見知らぬアドレスと不可解な内容になんだこりゃと思いながら、適当に押したのが悪かったのか。YesかNo、どちらを押したのか本人もわからず、ただ「あ、」と思ってしまったそのとき。なまえの視界は白く染まったのだけは覚えていた。
そして気付けばなんとなく心当たりがあるのに全く見覚えのない世界。そう、なまえはデジタルワールドにきてしまったのだった。


またか。
過去幾度となく選ばれし子供たちというトラブルメーカー共に巻き込まれ続けたなまえは、現代とは違うその景色に慌てることなくそう思った。無駄に鍛えられた順応性は押して図らず。どのエリアかなー見覚えないなー誰か知り合いのデジモンいないかなー。緊張感なく真っ先にディーターミナルを取り出したなまえはキョロキョロと辺りを見回すが周囲には人間は勿論デジモンの姿も一切ないことを確認する。デジタルワールドでは携帯は使えず、ここでとれる通信手段はディーターミナルの無線メール端末しかない。とりあえず、いつもPCを弄っているであろう泉さんか井ノ上さんにヘルプでいいだろう。
が、デジタルワールドだったら彼らを呼べば大丈夫だろうとある種の信頼を寄せていたなまえは、次の瞬間愕然とする。ディーターミナルから、メールが送信されなかったのだ。


まさか壊れたのか。デジタルワールドにいくら慣れてるとはいえ、パートナーデジモンも誰もいない今誰かに連絡をとることもできないなまえの状況は最悪である。仕方なくいくら押してもメールを送信してくれないディーターミナルを仕舞い、デジタルワールドの各エリアに必ず一つはあるはずの、ゲート機能を備えたテレビを探すことにした。それか知り合いのデジモンに会えれば万々歳である。肩を落として歩き始めたなまえは、スニーカー履いててよかったと真剣に思った。
のだが、

何分歩き回ってもテレビが見つからない。

知り合いのデジモンが見つからない。


それどころか、この場所がいつもと見慣れたデジタルワールドと、何かが違うことに、なまえは気付いてしまった。


歩き疲れ始めたこともあり、暗くなり始めた草原のど真ん中で再度愕然とし始めたなまえは、更に未知なるものに遭遇することとなる。



何故か興奮しているフライモンに襲われ、必死に逃げた先で出会った人間の子供たち。見知らぬ顔の彼らに、まさか新しい選ばれし子供!?と驚いた矢先、その一人である少年はパートナーデジモンを連れず、フライモンの攻撃からなまえを守ろうと立ち塞がる。思わず「危ない!」そう叫んだとき、少年は光に包まれ、そこには炎を纏ったデジモンの姿があったのだった。





スタートしますか





(は!?はッ!!?)
(大丈夫か?)
(危ないわよ、あなたは下がって!)
(いけー!拓也お兄ちゃん!)
(なにあれ!?なにあれ!?)
(何って伝説の十闘士の一人、炎の闘士アグニモンじゃマキ!!)

(バーニングサラマンダー!)

(……はあああ!!?)





アド・02に巻き込まれてた子がフロのデジタルワールドにいったらなお話。
パートナーデジモンはいない。デジヴァイスももってない。だがやたらめったらデジモンには詳しい。そんな子がフロいったらとりあえず人間が進化するって展開についていけないと思います。クロウォのゼンジロウは俺らの代弁者、みたいな()
でもお台場組と連絡つかないしテレビないしで仕方ないから拓也たちについていくよ。年齢は小5だよ。大輔たちと同い年だけど違うクラスだよ。あまりの自分が知ってるデジタルワールドとの格差に助けて知識の人状態だよ。そんなお話。

ついムラッとした結果がこれでした。
多分続かないよ

『擦れ違うこともなく』

(軌跡/遊撃士)

・そろそろ原作沿いっぽくなってきた気がする
・だが絡まぬ





『あらユウリちゃん?私に用だなんて珍しいわね。いきなりどうしたの?』
「グレイスさん」


旧市街の路地裏。誰にも見つからない場所で気配を隠しているユウリは、エニグマを片手にとある場所を見つめている。
通信機の先では仕事場で休憩中だったらしい記者のグレイスが不思議そうな声を上げており、視線の先には対立している不良グループの一方である「テスタメンツ」がたまり場にしているバー《トリニティ》。そこに青装束を身に纏ったメンバーとサングラスをかけた体格のいい男、それらのそのメンバーらが慕う小綺麗で中性的な顔をした男が階段を降りていく様子が見える。離れた場所からでもピリピリしている様子が伺え、これは本気で抗争の準備をしているのだろう。もう一方の不良グループ「サーベルバイパー」はヘッドである男もその一員も「テスタメンツ」より沸点が短いので、まず間違いない。この様子だとなにかしら対策を打たないと、近々確実に血が流れてしまうだろう。
物騒なことを考えながらもふっと口元を緩めたユウリは、静かで感情を読み取れない声で通信機に囁く。壁に背をもたれ悠々としたその姿勢は誰にも見られていないが、どこか支配者の風格を漂わせていた。


「――お願いがあるんですけど」








特務支援課始動日。

およそ三年ぶりでありながらその姿をがらりと変えていたクロスベル市に懐かしさを覚えながらこなした支援要請は物探しや市庁の手伝いに魔獣退治。
初日にセルゲイから説明されていてわかっていたが、本当に遊撃士が受け持つような支援要請や巡回中市民の信頼が薄い警察という現実。それらを見せ付けられたなか、なんとか仕事を一つ一つこなしていたロイドたちだったが、セルゲイからの緊急通信により旧市街にいる不良グループの喧嘩の仲裁に向かい、なんとか抗争寸前で止めることに成功する。ただしそれは一時的な凌ぎでしかなかった。武器を向けあっていた互いのメンバーを諌めにきた両者のヘッドであるワジ、ヴァルドも今回は手を引いたものの互いにやり合う気満々で、準備が出来次第今度は本気で潰し合いをするつもりらしい。殺し合いになってもおかしくない、そんな雰囲気なのに警察本部は旧市街のことは気にも止めていないので応援は頼めない。市民たちへの信頼にも関わることだ。なんとかできるのは自分たち特務支援課しかいなかった。
このまま放置しておくわけにもいかない。そういうロイドにエリィ、ティオ、ランディは賛成し、ここまでの争いを行おうとする理由を捜査官らしく聞こうと両チームや周囲の人間に行動をとっていた。途中、ロイドとサーベルバイパーのヘッド、ヴァルドが一騎打ちをするということがあったものの、結論からすると、原因は互いのチームの一員が同じ日の五日前、の同じ時間帯に違う場所で闇討ちにあったらしい。
目撃者もなくテスタメンツ側はまだ意識不明、サーベルバイパー側は犯人を見ていないため特定するものは襲われたときの傷だった。テスタメンツ側の被害者アゼルが受けたものはサーベルバイパーが使う釘付きの棍棒による打撃と裂傷、サーベルバイパー側の被害者コウキは遠くから跳んできた石の攻撃後タコ殴りにされ、攻撃の初手はテスタメンツが使うスリングショットによるもの。だがその日互いのチームはお互い闇討ちにあったそのことに気付かなかった。


何かがおかしいことを感じながらそれを埋めるパズルのピースが見つからず困った状況で現れたのは先日会ったクロスベル通信社の記者、グレイス。
彼女は食わない笑みで支援課を煽るだけ煽ってくれたが、必要になるかもしれない情報を聞かせてくれる気らしい。そのためにはこちらも情報を出さなければならないと警察としてそれはどうなのだろうと悩むロイドだったが手詰まり感も否めず仕方なく指定された場、《龍老飯店》にむかうのだった。

食事をしながら情報交換をした結果、グレイスから貰った情報は予想外そのもの。欠けたピースとして上げられた組織の名前は「ルバーチェ商会」であり、表向きは正式に認可された法人ながらその詳細はクロスベル自治州の裏社会を牛耳るマフィアである。何故その名前がこの場で出てきたのか。彼女によるとそのルバーチェが今回の騒動に関わってる可能性が高く、旧市街で人目を避けるような格好で彼らの姿が目撃されているらしい。まさかの第三の容疑者に戸惑いを隠せないメンバーだったが、ロイドが更に気になったのはどこか楽しそうなグレイスの様子だった。


「……」
「なによロイドくん。心配しなくてもお姉さんお墨付きの嘘偽りのない情報よ?」
「いえ、ここまできたら貴女が嘘をつくとは思えません。寧ろ気になるのは別のことです」
「別のこと?」
「グレイスさん、貴女はルバーチェの動きを探るために旧市街にきていたといった。そこで俺達をたまたま見つけてついてきたと。それは本当に偶然ですか?」
「それは…確かに」
「タイミングよすぎかと」


いきなりのロイドの発言にポツリと呟いたのはティオだったか。だがエリィとランディも同じような表情をしているのだけは見て取れた。
行き詰まったところに現れた貴重な手懸かり。ルバーチェという存在に驚きマフィアが介入する理由は未だ不明なものの、それでもこんなにすんなり第三者の情報を与えてくれた存在に不信感を抱く。グレイスがかなり有能らしいことはなんとなく感じはじめているロイドだったが、それでもあのタイミングでグレイスが現れたことになにか策略めいたものを感じる。疑惑を抱かれている記者はそんな不信感に顔を歪めることなく寧ろどこか楽しげに笑ってみせている。そういえば始終こんな表情を浮かべていた。それが彼女のスタンスなのかはわからないものの、どこか振り回されている感がして仕方ない。
これは彼女がいう自分たち特務支援課に向けての期待というものなのか。それとも別の意図があるのか。


「どうなんですか、グレイスさん。貴女は一体何を考えて」
「うーん、やっぱり良いわね君達」
「は?」
「グレイスさん?」
「一体何を」
「いやいや。ちょっとサービスしちゃったけど、サービスついでだしもういいわよね」
「何の話ですか?」
「予想以上に君達は見守られてるってこと。しかも結構な大物からねー」
「!」


結構な大物、という言葉でピンとくるのは先日遭遇した《風の剣聖》アリオス・マクレイン。もしやこの事態にとっくに気付いて…と先日のこともあり思わず顔を強張らせる支援課だが、グレイスはそんな反応にからからと笑って手を振る。


「違う違う。確かにアリオスさんも期待はしてるんだろうけど、今回君達のこと教えてくれたのは別の子よ」
「アリオスさん以外の…?」
「私たちの行動を知っていたってこと?グレイスさん、それは一体」
「おっと、これ以上は怒られちゃうか」


問い詰めようと立ち上がった様子にそそくさと身を翻したグレイスは、「じゃあ頑張ってねー」と軽やかな足取りで去っていく。勿論奢りだということも忘れていなかったのか、料理の支払いは済ませて。どの道あれ以上は口を漏らすことはなかっただろうが、腑に落ちないものを最後に投下していかれたロイドたちはその素早いフットワークに唖然としつつ、完全に彼女の姿が見えなくなったときには肩を落としていた。


「なんだありゃあ…」
「意味深すぎです…」
「アリオスさん並に大物って、とんでもないことを言っていた気がするんだけど…」
「同感だ…」


4人は、はあ、と仲良く同時に溜息を落とす。ルバーチェに不良グループ、それに自分たちを見守る謎の大物。それらの情報に、もはや困惑するしかなかった。
特に謎の大物ってなんだ、謎の大物って。《風の剣聖》、市長、IBC社長、アルカンシェルのアーティスト、クロスベルで大物といったら怱々たる面々が浮かぶものの、自分たちを見守るというと彼らは違うだろう。顔を合わせたのはアリオスだけだが、彼は否定されていたし、それ以外となるとしばらくクロスベルを離れていたロイドには検討がつかない。他の3人も同じようで、困惑の表情を浮かべているだけだった。


「しかしこれからどうするよ。記者のねーちゃんをけしかけた人物はともかく、不良グループの喧嘩はなんとかしないとまずいだろ」
「そうね…でもルバーチェが出てきた以上これ以上私たちにできることなんて…」
「……仕方ない。課長に一旦報告もかねて相談しよう」
「ですね。ああ、そういえば遊撃士協会の受付の人があとで顔を出すよう言ってましたがどうしますか」
「丁度帰り道だし寄っていこう。今後関わっていきそうだし、何か話も聞けるかもしれない」
「ミシェルさんだったかしら。あの人も中々食わせ者っぽかったわね」


市内巡回中挨拶しに立ち寄った、今後自分たちのライバルとなりうる遊撃士協会クロスベル支部の受付の男、ミシェルの言葉を思い出しながら、その決して好意的だけではなかった視線にもちょっとプレッシャーを感じてしまう。一体何を言われてしまうのだろうか。グレイスとは違う食わせ者の雰囲気を持った男を思い出し、少し肩が重く感じてしまうロイドだった。
だがぐずぐずはしてられない。マフィアの件もどうにかしなければならない中、席を立ち上がり店から出た4人。時刻は昼過ぎており、問題を解決するためには、今日中にもう市内巡回の続きはできないだろうことはわかりきっていた。



(あいつ、今どこにいるんだろ…)



ロイドの脳裏に浮かぶのはとある幼なじみの幼い姿。クロスベルを離れてから3年、その間会うことも連絡すらもなかった彼女に休暇中も市内巡回中も会うことができず、それもまた気落ちさせる要因になってしまった。
彼女が今なにをしているのか、それすらロイドは知らない。唯一わかるのは幼なじみの家族や同じく昔馴染みであるウエンディやオスカーから聞いた「クロスベルにはいる」ということだ。仕事などはタイミングが合わず聞くことが出来ず、仕方なくかつての面影がいないか探していたものの結局出会えず。
だがしかしロイドはこんなことで緊急である仕事に影響を出すわけにはいかない。今は幼なじみのことより、旧市街の不良たちだ。なにより同じクロスベル市にいるのだったらきっと近々会えるだろう。今引きずられる余裕などなかった。

立ち上がったロイドに続き、エリィ、ランディ、ティオもそれぞれ動き出す。
特務支援課として任務を全うしようとする彼らだったが、その動向を見守る彼女の姿にはついぞ知ることなどなかった。





擦れ違うこともなく





(ギルドか…ミシェルさんが余計なこといわなきゃいいけど)
(ここまでくればあとはセルゲイさんがなんとかしてくれる。それからはあいつら次第ってところね…)
(さて、ウルスラ病院行きますか)




あとは原作通り囮捜査官してます。ユウリは仕事してます。エステルたちもくるよ。やったねユウリちゃん!

『クエストを受領しました』

(SAO/嬢)

・誰もでてこない
・とりあえず一区切りはさせたい
・一区切りってどこや





RPGで新たな村に着いたらまずやることは一つだろう。

ここまでくるのにかなり無駄なことをしてしまい意気消沈気味ではあるものの、ゲーム初の村に無理矢理テンションを上げて向かった先は村の入口。既にこの村には何人かプレイヤーが到着しており(といってもほんの数人で一人パーティーばかりだったが)そのうちの一人からさっきこの村の情報もいくつかもらったわけだけど、やはりやっておかねばRPGって感じがしない。
入口近くで立ちっぱなしの野暮ったい青年に声をかける。青年の頭上に浮かぶアイコンはNPC。いきなり話しかけられてにこやかに笑う姿に、リアルとは違うそれを改めて感じとった。


「やあ、ここは《ホルンカ》。小さな村だけどゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」


これぞRPGの醍醐。味新たな土地にきたらまずモブに話しかけるのが当然だよね村の入口といえばこうだよねうっはテンション上がる。
定番の生台詞に叫びたいのを我慢してにこやかに無難な返答をするがそれ以降青年NPCは何もいわずただ佇んでいるばかり。ちなみに二回話しかけるのは鉄則だろうが二度目にも同じ言葉を二度頂き、よし、と翻し村の方へ向かう。途中宿と商店の場所もわかり、商店では嵩張りそうなアイテムを売りまくってコルに換えてゆく。貴重そうな素材アイテムやまだ使えそうにない刀は勿論残したままだが、大分コルが増えているように感じた。無駄だと思っていたがモンスターを倒しまくっていた分貯蓄はバッチリになっていたようだ。スキル獲得の為に曲刀は勿論、せっかくなので防具を新調することにしとく。
まずは曲刀。カテゴリを確認するとシミターとフォルシオン。二つのものがあり、攻撃力や耐久は似たようなもののようだが実際にオブジェクト化するとシミターの方が細身で少し軽い。勿論少しといっても筋力を全く上げていない私にとってはズシリとくる感触で密かにうげえと眉をひそめる。やはり今後は筋力にも配分をあげるべきだろうか…。先のことを考えながら、とりあえずシミターとフォルシオンを交互に振ってみる。


「…やっぱ軽い方にしよう」


重い武器に振り回されてアウトーとか笑えない。フォルシオンを元に戻し、とりあえずシミターを購入することにする。刀身が多少湾曲し海賊が持つようなものより大分細身だからかサーベルのように見えなくもない曲刀をぶら下げると、スモールソードより軽いことに安堵する。こんな村の商店で買えるものだから小洒落た細工はしていないものの使えればよしとする。スキルも《片手剣曲刀》を選び、準備はバッチリだ。


「あとは防具っと、」


今の服装は初期装備だしめぼしいものを見てゆく。男物女物と分かれているところに細かいなと思いつつ、魔術師が着るようなクロークのようなものは見当たらず、まあ確かに魔術系スキルはないし動きにくいだろうと納得する。ローブやマントはあるがどちらかというと防御というより影に潜むよう目立たないために着るような形状みたいで、着てたら怪しい人確定だと思ったがそういえばこのゲームの中では女性プレイヤーが圧倒的に少ないとクラインさんが言ってたことを思い出した。振り返ってみると、そういえばここにくるまで、いやここでも女性プレイヤーを見てはいない、気がする。容姿はともかくそれって目立つんじゃね?…今後買うのを検討しとこう。
とにかくそれらはあと。今は単純に防御を上げられるものを探してゆく。コート系、メイル系、何にしようか悩むまでもなく選ぶのはコート系だ。剣だけでも重いのに更に重いメイルなんて着てられっか。それに壁になるつもりはさらさらない。即決でコートを選び、レザーコートを購入し初期装備の上から身につける。身につけるといってもアイテムを装備ボタンを選択したら光って勝手に見についてるのだから全くお手軽である。膝丈で亜麻色をしたよく見る形状のコートを確認し、妙にフィットするのが気になるもののまあこれも徐々に慣れるものだろう。

コルはまだまだ余裕があるみたいだし、もう一つ胸につけるプレートを購入し装備する。うん、本当にファンタジーみたい。あとは回復ポーションを確認するがさすがに20個以上あれば大丈夫だろう。十分にあるコルも確認し、早速村巡りを再開させることにした。
とりあえず建物の外にいるNPCには話しかけ終わり、この近くにある森のダンジョンの情報をいくつか聞いたところで漸く民家の中に入る。気分はドラクエもしくはテイルズ。流石にリアルな世界観をもつこのゲームで定番のタンス漁りはやりにくく、ふくよか女性のNPCに話しかけるとそういうサービスなのか水を貰え、遠慮なく頂くことにした。そういえばこの世界って食事はどうなるんだろうか。RPGで料理はHP回復アイテムだったが、そのカテゴリに入るのだろうか、今後検証していくことは山積みだ。ただの水だが何故だか美味しく感じ、一気に飲み干す。すると喉の渇きがなくなったような気がして、ふといい匂いがする女性NPCの奥にはクツクツと煮られた鍋が見え食欲まで沸いてきたように思えた。一人「美味しそう…」と呟くとNPCがいきなり溜息をする。え、なに、なんかフラグ拾ったの私。
あまりのタイミングに一瞬ビビるが、ふとNPCの頭上を見ると、先ほどまでなかった金色のクエスチョンマークが現れていた。

これは、もしかして…。

ドキドキしながら、NPCにもう一度話しかける。困ったように話し掛けてきた女性に返したのは笑顔と了承の言葉だった。


その後想像通りクエストが発生し、初となるクエストに私はすぐに村を出、向かう先は西の森。なんでも薬を作るための材料を持つモンスターがいて、それがなかなか手強く更に出現率も低いらしい。曲刀スキルを鍛えるチャンスでもあるし、まさに一石二鳥だろう。なによりクエストという定番の響きが無性に心躍らせるもので、なんとか浮かれるのを抑えるのが精一杯で。
朝日が昇っているのに薄暗い森で一人、補食植物型モンスターであるネペントと初めて対立した私が放った言葉は「グロッ!!?」の一言だけだった。





クエストを受領しました





(ギャーきもいきもい!想像以上にリアルできもい!)
(フシュゥゥ)
(いやあああっぶねなんか吐き出したし!?なにこの液!?げっ、煙でてる)
(シャアアア)
(やだもう狼とか猪とかのがマシだったあああ)



キリトさんとコペル(故)はとっくにいなくなってる森で一人奮闘してる嬢。このあとリアルラック補正で30分もしないうちに花付きネペントがでてきてとっとと帰るよ。でも貰えたのが直剣でなんだかガッカリするよ。最終的にレベル上げの効率がよかったことに気付いてネペントさんただいま状態になるよ。大丈夫、1時間もすりゃ可愛さくらい見いだせるよきっと。