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『嬢、震える』

(ぬら孫/初代時/雪羅)





パンケーキの材料は一番簡単なものが小麦粉、卵、牛乳。それは江戸時代、大変ながらも揃わないものではなかった。

何度もいうが、こういうとき金持ちでよかったと思う。
漸く屋敷の外に出れた私が向かったのは京の都でも賑わいたつ市。久しぶりだと足を運んだのだが、予想以上の成果にホクホクと笑みが零れた。両腕で抱える風呂敷の中は戦利品の数々。それが外に出られた喜びと相俟って足取りを軽くさせる。
早く帰りたいなーと思わず鼻歌混じりに呟き、顔を緩ませながら戦利品をギュッと抱きしめる。とりあえず目的だったきめの細かい小麦粉を手に入れたのが凄く嬉しい。村で貰った蜂蜜も使えるし、小麦粉なんて普通市に出回るものじゃないからこそ、喜びはひとしおだ。あと現代の時から好きだった乾物。これには流石にテンション上がり過ぎて店のおじさんに多少引かれてしまったのはたったの数刻前だが、浮かれた今はそんなことどうでもよかった。
だって久しぶりの果物の乾物!魚の干物は良く食卓に出るけど、干し葡萄に干し杏、胡桃が手に入ると誰が思おうか。浮かれ半分で他にも木イチゴやクコの実らしきものまで買ってしまったが後悔はしてない。とりあえず帰って何か作りたい。そして我が妹と共に食べたい。


「花開院家さん方にも差し入れしようかなー」



と、最近会話は疎遠ながらもお世話になっているからと考えながら、何を作ろうか膨らむレパートリーににやけが止まらない。
ふと、ブルリと震える体に、冷えてきたのかと立ち止まり肩を抱いた。あまり日は落ちてないけど、現代の時より大分気温の低い時代だ。初めての四季への感想は地球温暖化恐るべしだったのは懐かしい。


「…でもまだ秋前なんだけど」


鳥肌立った腕をさすりながら周りを見回せばそこらへんの木はまだ緑緑しく色の変わる気配がそろそろ来るだろうというところ。薄着し過ぎたかなとブツブツ呟くが、風邪を引く訳にはいかない。とりあえず早く帰ろうと足を動かした。
体調を崩した時点できっと迎えられるのは珱姫の看病&説教フラグだ。ぬらりひょんさんと会ってから過保護さが増してる気がする妹のじと目を思い出して先程と別の意味でぶるりと震える。ヤバい、早く帰ろう。
引かない寒気に腕をさすり小走りに帰路を辿ると、ふと目の前に白い着物を着た髪の長い女性が見える。あげられた顔は肌が白く妖艶で、うわ、超美人と思わず零してしまうほどだ。


「…?」


と、その女性が私の顔をじっと見ているのに気付き、首を傾げた。ってかあれ?私もこの人見たことあるような…。
うんうんと思い出せないがなんとなく既視感を感じるそれがあるものの、パッとした答えは浮かばなく、仕方なく家に帰ってから考えようと彼女の隣を横切ろうとする。が、会釈をしようと横にいる女性を見ようとした瞬間、女性が思ったよりも近くにいることに漸く気付き、つか顔!近い!(ぎゃあ!)思わず謝ろうとするが、女性から何故かギンッと睨まれピシリと固まった。


「……あんた」
「ひ!?す、すいませ!」
「あんたがあの恵姫ね」
「………はい!?」


え、ちょ、ま!わ、私この人と初対面だよね!?
まさか知り合いだったかと記憶を掘り起こすが、女性の鋭い眼光に思い出す前に逃げたくなる。無意識に引ける体は正直もので、内心走って立ち去りたかったが後々その方が痛い目にあう気がするのは何故だろう。逃げる気満々の体に、逃げるより立ち止まる方が危険が少ないと本能が訴えかけていた。でもどっちにしろ危険なんじゃないのこれ!?


「め、め、恵姫って名前ではないですが…!」
「でもそう呼ばれてんのはあんたでしょう」
「(ち、超怖い!)そそそそそうかもしれませんすいません!!」
「………やっぱりあんたか」
「ひっ!?」


俯く女性にガッと腕を掴まれ、その力強さと人では有り得ない気がする冷たさに思わずぎゃあと声を上げてしまう。
ななななんなのこの人!?ってか人!?人なの!?だってなんかおどろおどろしいし有り得ないくらい冷たいし冷気みたいなの出てるしまるで雪女みたいじゃ―――


「あ」


泣き出す手前で浮かんだ言葉がピタリと当てはまった。
思わず声を出すが、目の前の彼女はブツブツ呟くのに精一杯らしく聞こえなかったらしい。っていうか髪長いのが相俟って滅茶苦茶怖いです腕痛い痛い力入ってるいたたたたた


「――なんで」
「(あたたたた)(痛い痛い今ギリッていった!)は、はい!?」
「なんで…なんでなんでなんでどうして、あんたみたいな何の取り柄もない人間の小娘、ぬらりひょんが気に入るのよーー!!?」
「(あああやっぱりか!)」


感情が込み上げて来たのか、うわああんと泣き出してしまう女性に、微妙な顔をしながら立ち尽くしてしまう。
泣かれたのは正直衝撃的だ。うん、ビックリしたさ。それでも彼の名前が出てきた時点で、女性の正体がわかってしまった時点で、私に襲いかかったのは驚きなんてものじゃなかった。


「(……雪女かよ)」


思わぬところからの彼――ぬらりひょんさん関係の妖怪との初対面に、ドッと疲れが押し寄せる。

とりあえず腕離してくれないか。

相手が女性だし泣いているから見捨てては置けないものの、泣き出した彼女から段々強まってくる冷気に、こっそりこちらも泣きたくなってきた。ぶるりと無意識に震える体に、人知れず笑う。
……こりゃ説教ルート行きだな。





嬢、震える





(ああ…この際ぬらりひょんさんでも秀元さんでもいいから来てくれないかな)
(うわあああああん!こんな、こんな人間に!私がッ!…ひく、う、うえええん!!)
(………マジ泣きしたいのはこっちだよ)





嬢、雪女さんに目つけられました編。別名雪女の失恋。
久しぶりに書いたら急展開になったのでちょいとお得意の回り道戦法をとってみました。じわじわ埋め立てて行くのが大好きです←
しかし今更ですが雪羅さんは本当に可愛い人だと思います。珱姫も好きだが雪羅さんも好きだ。殺してやるー!とか可愛すぎる。だったら仲良くしたいよねが私のモットーだ。俺得万歳。

アニメが始まるからというのと某っちの煽りのおかげでじわじわ再熱。とりあえず過去編は頑張ろう。
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