スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

『きっかけは悪戯から』

(黒バス/帝光中/青峰)先輩





髪は女の命というものの、目の前にいる年上の彼女、杉原伊澄には当てはまらないだろうとたかをくくっていた青峰大輝は普段の彼では有り得ないくらい顔を青ざめさせていた。肌は黒い。だが青ざめさせていた。


きっかけは何だっただろうか。
ふと青峰の視界にはいった茶色い柔らかそうな髪の毛を持った頭に既に反射のように手を伸ばし、まるでいつも扱うバスケットボールのように掴んだことだったか。悪戯に笑う後輩をキョトンとした無表情とも言えない微妙な顔で彼女が見上げたのもいつものこと。
ただこの時違ったのは、普段気にも止めない伊澄の髪を青峰がぐしゃぐしゃにかき回しながらふと彼女に聞いたことだった。


「そういえば伊澄の髪って長ぇよな。伸ばしてんのか?」
「いいえ。切りに行くのが面倒だったからそのままにしているだけだけど」


どうして?と目を瞬かせる伊澄に、青峰が髪が変な感じに柔らかいから気になった、なんて言えず目をそらしたのは何故だろうか。ただ伸ばしっぱなしという女と思えない言葉が彼女に言われると否が応でも納得するのだからそれだけ伊澄が強烈な存在感を得てきたということなのだろう。青峰は無理矢理納得させた。
しかし自分の幼なじみが聞いたら発狂するようなセリフである。ちなみにこれは比喩じゃなく、最早宗教並みに桃井が伊澄を尊敬しているならば事実発狂するのだろう。考えるだけでも面倒だ。今この場にいない桃井のことは気にしないことにした。


が、ふと青峰はそこで思った。彼女が髪を切るとどうなるのか。


どう、と言うのは周りのこともあるが、やはり気になるのは伊澄本人の印象だ。

髪型然り、化粧然り。女は身につけるもの、その傾向1つで外見をガラリと変えてしまう。それは男も同じだろうが、そんなものを鬱陶しい程気にするのはモデルである黄瀬ぐらいだ。本人が聞いたら喚きそうだが、青峰自身バスケが出来ればそれで良いと考えている為か人並み以上自分のことは気にするものでもなかった。
実際女は凄いのだ。最近になって益々磨きをかけている為か周りからも注目されている幼なじみを知っている青峰はまるで対称的な伊澄を見る。磨きをかける理由は言うまでもなく目の前の女だが、そんな特殊な世界に足を踏み入れたくない青峰は頭の中から無理矢理除外した。
それに比べ、気にしないというより気にしなすぎである伊澄。彼女が自分から外面を変えていくことはないだろう。だからこそ髪型を変えた伊澄を想像出来ない青峰。


彼は、小さな好奇心で大きな過ちを犯したと心の底から後悔していた。


手に持つのは工作用のハサミ。ハラハラと床に落ちていったのは後ろ髪と同じ位長かった彼女の横髪だったそれ。
試しに短くしてみねえ?
そう伊澄が問い返す前にジョキンといった青峰は、初めて彼女があんぐりと口を大きく上げ、本気で固まった姿を見た。

そしてその伊澄から、今現在流れているものは何者でもない、怒りでも驚きでも、ましてや悲しみでもない感情だ。

内心無頓着な彼女なら許すだろうと軽く思っていた青峰が、反応のない先輩に気付いたときはまさに時既に遅し。
そして冒頭の展開である。


「い、伊澄、せ、先輩?」
「…………」


狼狽えながら珍しく先輩と呼ぶ青峰だが、伊澄の反応はない。
女ならば当然の反応と思える涙、もしくは悪戯に対する怒り、それか慌てふためく驚き。これらのどれもがないことが、こんなに重いとは思う筈がない。感情ってすげえと内心どころか外面も冷や汗を流す青峰は思った。普段当たり前なものがなくなると、あと感じるものは恐怖だけだ。
幸いに切った横髪は――この場合耳より前のものを示すが――大した量ではなかったが、胸元までのそれを耳元で切った為長さが変わったのは明白。それどころか左右非対称になったのも明白であった。つまり誤魔化せるものではない…と思う。この日初めて青峰は、自分の考えの足りない頭を呪った。
と、完全に固まっていたと言って良い伊澄がピクリと動く。青峰の体がその倍以上に反応したのも同時だった。


「青峰…流石にこれはどうかと思うわよ」
「い、いず…す、杉原、先輩?」


普段より低いその声に、呼び捨て所か名前を呼ぶのもはばかられる。
怖い。何が怖いって、普段から呆れたように怒られることはあれど、青峰が今回は本気で後悔しているからこそ恐怖は増していた。今まで彼女に怪我を負わせてしまったこともあり、そのときだって後悔はしたが、それは事故であり故意ではない。だからこそ伊澄はその時は怒らなかったし(あっけらかんとしていたのはどうかと思うし、チームメイトから十分に報復は受けたが)青峰も柄にもなく安心した。
だが今回は明らかに事故ではない。じわじわと足元から登る悪寒のようなそれに、少し手が震える。ぎゅう、と誤魔化すように握った青峰は、口を開く伊澄の姿に息を飲み込んだ。


「青峰。あなたがそんなこと他の子にやるような後輩だったら、私は二度と顔合わせないし口も聞かないからね」
「………は?」
「横髪か…まあ左だけだから美容院には大丈夫かしら」


ああ良かったと変な所で安心している伊澄だが、バラバラに切られたそれを鏡で確認して少し鏡に向き合う。と、思いついたのか青峰の手から強引にハサミを取ると、

ジョキン

と、勢いよくそこにハサミを通していった。
これに慌てたのは、思わぬ反応にいつも以上の不意をつかれた青峰である。


「ばっ、何してんだお前!?」
「何ってこの部分だけ整えようと思って」
「うぐっ…や、でも自分でしなくたって、…ッ、つーか怒んねーのかよ!!」


自分の招いたこととはいえ、今では平然と器用な手つきで髪を切りそろえられてゆく伊澄に戸惑いを覚えたのは青峰だ。
伊澄は満足したのか、片方は全てが耳元、片方は後ろ髪程の長さの横髪で、青峰を見上げた。今まで見たことのない少し泣きそうに見える表情に首を傾げる。


「そりゃあ怒ってるわよ。いきなり人の髪切るなんてバカにも程があるし、下手したら虐めだし。そんなこと故意にするような奴だったら最低だし失望するし関わりも持ちたくないし」
「っ、」
「でも青峰、他の子にしないとは思うし、後悔してるみたいだもの。普段有り得ないような顔してるわよ。まるで迷子の子供?」
「ま、!?ばっか、誰がだよ!!」
「青峰が、だけど。でも言っておくけどまたしたら本気で許さないわよ」


その時は赤の他人よ。
真顔でいわれたゾッとするような言葉に、青峰は肯くが、同時に込み上げる安堵のような暖かいそれに思わずしゃがみこみ顔を隠すように頭を抱える。
そんな青峰に目をパチパチとさせた伊澄は、彼の元により「何してるのよ」と声をかけるが、青峰は黙ったままだった。

顔は見えないが自分の頭をポスポスと痛みも感じない強さで叩きながら駅前パフェ一週間で良いわよと言っている伊澄の言葉には、おう…と肯く青峰だったが、熱くなっているのが分かる顔や耳元を起こすことは暫くなかった。





きっかけは悪戯から





(馬鹿みたいに体が熱い。自分がどうなってるのか理解出来なかった)
(嘘だろ…今までさつきがアソコまで執着するからってだけの興味だったのに、)



青峰だって後悔しますよなお話。
本気で後悔したときの後ろめたさはハンパないものだと思います。そしてあの青峰だってそれを味わったことぐらいあると思うのだよ、そりゃ想像出来なかったけど←
んで今まで青峰→先輩は自分の幼なじみからくる興味で、ただのオモチャ感覚とか珍しいものなだけだったのよ。それが本気で青峰→先輩になったのよ。ってことが書きたかった。それだけ。馬鹿みたいに後悔してホッとして無性に嬉しくて自覚する青峰はピュア峰でよろしくお願いします。ピュア峰だって少しはひねくれてた筈だ。多分。

ちなみに桃井→先輩はこの場合百合百合で。当サイトの桃井は異常な程の愛を先輩に捧ぐ桃井から、黒子と先輩の両方に愛を捧ぐ桃井へと変化していく予定です。でも桃井は結局両方OK。そんな百合でもノーマルでもいける可愛い桃井さつきちゃんです。よろしく←

ちなみに先輩の髪は本当に横髪が左右非対称に描いてるよ。片方だけちょろんと出てて片方は短いよ。…あれ、そう描いてたよな←
あれだったら書き直そう。そうしよう。
前の記事へ 次の記事へ