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『生み出す治癒士と護る剣士』

(OP/ゾロ)木馬



「あ。」


雲一つなく日差しが強すぎることもなく風が強すぎることもなく絶好の航海日より。雨だろうが雪だろうがタイフーンだろうが関係なく常に昼寝を貪る筈のゾロはこの日珍しく甲板に横になることもせずただただ頭を抱えていた。
彼が常に身につけていた腹巻きが切れてしまったのだ。
ルフィといえば麦藁帽子、ゾロといえば腹巻きというくらい既にチャームポイント(といったら変なイメージだが)というよりも体の一部として迎えられているもの。今まで戦闘を前線で繰り広げてきた為だろう、生地が弱っていたことは誰にでも分かることだった。


「…流石に無理か?」


巻ければ問題は無かったのだが、既に腹巻きというよりヨレヨレの布切れといえるほど一枚の布と化してしまっている。布を睨みながら試行錯誤を繰り返していたが、ベローンと元腹巻きを持ち上げながら大きなため息をついた。


「あれ?どうかしたんですか、ゾロさん。」
「あ?アルに…チョッパーか。そいつ寝てんのか?」
「あはは、今日はいい天気ですからね。」


近くで話し声がしても起きないということは熟睡しているのだろう。鼻提灯まで立てているチョッパーを抱えて苦笑をしながらこちらに来たのは、この船にしては珍しい常識人であるアラベスクだった。ちなみに彼女は厄介な病を抱えているせいで誰かしら傍に居なければ命に関わるのだが、今はチョッパーで発作を止めているようだ。
いつもと同じ姿なゾロに何か違和感を覚えたアラベスクはそのままチョッパーを抱きしめながらゾロの下に歩く。


「おい、お前さっきまでルフィと一緒にいなかったか?」
「それがルフィさんとウソップさんも寝てしまいまして。そういえばゾロさんは今日は横にならないんですか?見張りは確かサンジさんだったと思うんですけど。」
「…ちょっとな。」


いつもと違う煮え切らない調子のゾロに小首を傾げると彼が布を持っているのが目に入る。そういえば彼がいつも身につけている腹巻きが見当たらない。


「破れちゃったんですか?それ。」
「……」


別に隠していたわけじゃないがバレたかと言わん限りに溜め息をつきながらビローンと元腹巻きを持ち上げる。見事に一枚の布切れに変身してしまったモノをみて、アラベスクはありゃーと感嘆の声を上げた。


「これは流石に巻けませんね…」
「だな。縫うしかねーか…」
「それだったら私がやりましょうか?」


普段所か滅多にすることのない作業を甘受していた矢先のアラベスクの発言。思わず出来んのかと問いかけてしまったが、アルは気にすることなくニッコリと笑った。


「これでも私、仕立て屋の孫ですから。」









「へえ、上手いもんだな。」
「父に鍛えられてましたから。こういっては何ですが、うちの父親センスは無くても仕上げるのは凄かったんですよ!」
「じゃあ器用さは親譲りか。」
「少なくても父のセンスの悪さは譲ってもらわなくて安心してます。」


迷うことなく動く手によってどんどん形が戻っていく自分の腹巻き。それを見ていると彼女の手と自分の手は全く違うモノに感じられた。


「ゾロさん?」
「…あ?なんだ?」
「ついでに他の所も補正しておけば暫く保つと思うんですが…いいですか?」
「ああ、よろしく頼む。」


性別の差もあるのだろうが、それ以上に自分の武骨なモノとは違う白く細い手。指どころか手首まで直ぐに折れてしまいそうなくらい華奢だとゾロは思った。この手、指が芸術に精通していない自分でも言葉を失うほど綺麗な芸術品を短時間で生み出す姿を見ているからかとても繊細なモノに見えてしまう。

自分の人を斬るモノと違う、生み出すモノ。


「…すげえな。」
「え?」
「あんなだったのがもう身に着けられるようになってる。」
「あ、ありがとうございます。仕込んでくれた父に感謝しなくちゃですね。」
「それでもこれを直したのはお前だろ。」


もう一度どすげえ、と零す。人を斬る道に進むことに後悔をしたことはない、が、こうやって何かを修復したり産み落とす手を見ると素直に感心してしまう。それを聞いたアルはキョトンとしたあと少し恥ずかしげに笑って糸を切った。


「私からすればゾロさんの方が凄いですよ。」
「は?」
「だってゾロさんの手は護る手でしょ?」


いっつもその手で私達を護ってくれるじゃないですか。そういうとチョッパーをちゃんと抱き上げて、はい、と元の姿に戻った腹巻きを渡す。固まった表情のゾロに首を傾げれば、ゾロは黙ってそれを身につけ寝転がった。腕で顔を覆うのは日差し除けだろうか。


「ゾロさん?」
「…なんでもねーよ。ありがとな。」


斬る手じゃなく護る手。ただそう言われただけなのに酷く嬉しいと思うのは気のせいだろうか。おやすみなさいと優しい声が聞こえる中、いい気分だと思いながらゾロは目を閉じた。






オチが短いのに長い。SSじゃない。うちのゾロと一護はそっくりです。単純です。
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