「たとえば殺人事件があったとして――いえ、別に殺人でなくともいいんですけれど――いわゆる犯罪者が、報道ベースに乗ったとしますよ。
そういうときに『一歩間違えれば、自分もまたこの犯人のようになっていたかもしれない』――とかなんとかそんな風に、ある種加害者に同情的になる風潮が、昔から世間において強いことに対し、否定的な人間なのですよ」
「………」
「ベクトルは逆でも、それは成功者に対して『自分も頑張っていればあんな風になれたかもしれない』と思うのと同じようなものでしてね――犯罪者は犯罪者で、特別で特殊なんですよ」
「大した努力もなく野球選手になれたかもしれないと思うのが不敬であるように、大した悲劇もなく犯罪者になったかもしれないと思うのは――それはそれで不敬なのですよ。
ワイドショーを見た程度のことで、相手のことがわかったみたいな気持ちになられても挨拶に困ります」