「みなも、USDXのTRPG見た?」
「見た! プロ氏が初っ端からクズでたのしーデース!」
みなもから沼に突き落とされてしばらく。当然うちはどっぷり浸かってしまって脱出不可能ですよね。ゲーム実況グループの「SDX」改め「USDX」にドカバマり中。本人たちの動画もそうだしファンアートも熱いなーって。
うちとみなもは基本ジャンルかぶりがないけれど、うちがみなもから沼に突き落とされた場合は話が別。今はこうしてみなもがしたり顔なのを知りつつ喜んでズブズブになってるような感じ。玄関先でのおしゃべりが過熱する。
うちはTRPG、テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲームっていうジャンルは名前を聞いたことがあったくらいであまりよく知らなかったんだけど、それを知らないなりに彼らの動画は面白い。
「それじゃあ乾杯するけど、1コ抗議していい?」
「どうぞ」
「ハマ男の誕生会をやるのは全然いい。だけど、どーして「ハマ男と仲がいいから」とかいう事実無根な理由で幹事やんなきゃいけなかったワケ?」
今日は真司の誕生日ということで、何かすっげー荒れてるけどつばめが幹事で飲み会が開かれている。各々の飲み物を手にした状態で、乾杯と言われればグラスを掲げられる状態で始まったつばめの抗議だ。
「はー、真面目にやるとやっぱ体力使うわー」
「せやわー」
「何言ってんだヒロ、ほとんどの説明を俺に投げたじゃないか」
「だって理屈っぽいことはノサカにゆーとくわーゆーて高崎先輩もゆーとったやん」
「お前がそんなだからだろ、いい加減にしろ」
今日の対策委員は時間を拡大して星大さんからお送りしています。それというのも、野坂とヒロがダブルトークとは何ぞやという話を聞いて来てくれたそうで、まずはそれを対策委員内で共有しましょうという回。
「はー、まだまだ寒いですねー」
「えっ、少しずつあったかくなってますよー」
「寒いって! ミドリ君寒くないの?」
今日も今日とてセンターに籠る生活が続いていると、外気温のことを言われてもあまりピンと来ない。センターから出ても行き先は大体ゼミ室だからという事情もあるだろう。基本的に屋内で過ごす日々だ。
例によって研修生を自称してセンターに入り浸る綾瀬は寒い寒いと大騒ぎしている。冷えているのであろう指先を必死にさすり、A番で受付席に座る川北に寒さに関する同意を半ば無理に得ようとしている。
ただ、その川北はのほほんとした顔をして言うほど寒いかというニュアンスのことを綾瀬に訊ね返している。春山さんや土田は寒さに強いという印象があったが、川北も寒さには強い方なのか。
「ターカーちゃーん」
「あっ、果林先輩。どうしたんですか?」
「タカちゃん相変わらず怠惰な生活だねえ。髭伸びてるし」
「ゼミ合宿から帰って来てから手付かずでした。特に誰と会う予定もなかったので。あ、じゃあ髭剃るんでちょっと待っててもらっていいですか?」
「はいはーい。急がなくていいよ、慌てたらまたカミソリで切っちゃうでしょ」
タカちゃんが住んでいるマンションのオートロックは、最近になってその解除番号を教えてもらっていた。バイトをしていないタカちゃんであれば、よっぽどのことがない限りは部屋にいるだろうと思って来てみたら、やっぱりいた。
アタシがタカちゃんの部屋に来たのにはちょっとばかり事情がある。ただ、悪い話ではないとは思う。アタシ基準ではね。去年までの当たり前が通用しなくなって、行き場を探していたというのもある。