昨日から大石がバイトをしている向西倉庫で吊り札付けのバイトが始まった。製品に付けられた吊り札に不備があるということで、その吊り札を取り換えるという作業と、とあるカラーの製品に関しては付属品の紐が付いていないということでそれを付けるという作業もある。
今日からはなっちと緑ヶ丘の1年生である高木君も一緒に働くことになっている。高木君は1年生だし、なっちは学科の都合で授業が多いとかで、昨日は来ていなかったんだ。大石の車で会社まで送ってもらって、作業小屋に入ると人材派遣の主婦さんのグループと学生グループに分けられた。
「――という感じの作業だな。この仕事の責任者は俺だけど、俺は他の仕事もあってこの部屋にずっといることは出来ねえから千景に常駐してもらう。何かあったら千景に言ってくれ。連絡を受け次第対処する。それから、仕事の流れについては朝霞が昨日やってるから大体わかってる。相談しながらでいいから午前中くらいで慣れてくれ」
「わかりました」
「でも、本当にゲーム上手な子連れて来たねえ」
「俺も下手な方ではないとは思ってたけど、まさかここまでガチでボコボコにされるとは思ってなかったんだよ」
こないだ、年末のシャッフルバンド音楽祭で知り合ったブルースプリングのピアノ君ことリン君と一緒にゲームをやる機会を設けた。音楽祭の現場でもいろいろ話してたんだけど、彼、ゲーム音楽を通ってるだけじゃなくて自分でも結構ゲームをやってるっぽかったから。
それで一緒にゲームをやったまではよかった。俺とコンも一応ゲーム実況をやってる身だし、そこそこ渡り合えるだろうと思ってたら完膚なきまでにボコボコにされて。リン君曰く、忖度と接待は出来ないとのこと。してもらう必要もなかったけど、ここまでボコボコにされると逆にその上手さにも感動し始めていた。
ここで考えていたのは身内にいるPSお化けと対等にやり合えるのではないかということ。そこで俺たちは詳細を伝えることなくプロさんの部屋にリン君を招き、SDXが誇るプレイヤースキルお化けのソルさんにぶつけることを画策したんだ。
「川北以外全員正座」
それはもう、センターの事務所でよく見る怖い方の春山さんの顔だ。俺全員正座と言われても、正直どうしたらいいかわからなくてあわあわするだけ。だって、林原さんはじめ今日の主催の青山さんにカナコさん、それからアオも正座させられて春山さんの恨み辛みを浴びせられている中でどうしろと。
今日は春山さんの誕生日だということで、新年会めいた誕生会が開かれることになっている。部屋にはセンターでよく見るようなお土産の山が築かれていて、春山さんが帰省から帰ってきたんだなあという感じがする。だけど問題は、春山さんの帰省中にこっちで行われていたこと。
「よくもまあ、私がいない時を狙って面白いことをやらかしてくれやがったなあ、アーン? で、主犯はどっちだー? リン、和泉ィ。ま、和泉だな?」
「そうです!」
「今日は村井おじちゃんのお誕生日ですねー! みんな、何をプレゼントしてくれるのかなー?」
「帰れ」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー! つかここは俺ン家だー!」
「じゃあ料理とお酒は撤収して、菜月さんの部屋か僕の部屋に移動しますか?」
「そうしよ圭斗さん」
「スンマセンっした!」
――と、いつもの件で始まったのは、MMP3・4年の新年会ですね。僕はここに照準を定めて熱燗の練習をしたり、料理を用意したりするのに忙しかったよね。MMPのおでん大会も、定例会のおでん大会も、あれもそれもこれも全部この日のための練習と言っても過言ではなかった。
お麻里様がいらっしゃる以上粗相は許されないからね。村井おじちゃんは割とどうでもいいんだけども、お麻里様の機嫌を損ねてはいけない。なので僕はホストとしていろいろ手を回していたんだね。料理の用意はもちろん、お酒の準備も。新年会は大体日本酒かな、とか。
「皆さん! あけまして! おめでとうございまーすSDXでーす!」
「いよっ! 新年! めでたい!」
さて、豊葦市内某所……と言うかプロさんのお宅に集合して始まったのはゲーム実況グループSDXの新年会だ。忘年会が中止になったということで、改めて新年会の様子を生配信ということで、それはもう。ええ、わちゃわちゃですよ。
ガチ新年会ということで食べ物やお酒なんかも用意してあるし、実際にゲームも出来たらいいよねっていうことでそっちの用意も済んでいる。実際に出来るかどうかは措いといて。何気にSDX4人揃うのが久し振りだったりする。年末の音楽祭の練習とかで忙しかったし。
実際、忘年会が中止になったのも青山さん主催のシャッフルバンド音楽祭に俺とカンが出ることになったからだった。現地に行ってみてビックリしたのが、ソルさんこと塩見さんもそのライブの参加者だったこと。現地では初対面の体で振る舞ってたけど、内心ちょっと焦った。