「おーい千景、そっち品番何だった」
「MAJ71812のGPですー」
「うーい。ミヤ、検品票貼っといて」
「はーい」
フォークリフトに乗って颯爽と現れたのは、俺がバイトしてる倉庫の社員、塩見拓真さん。今日は出荷作業はないけど荷下ろしの作業があって、俺はトラックから延々と荷物を下ろしてはパレットに積みを繰り返している。
塩見さんは今26歳で、社員としては5年目。アルバイトから社員登用されて、とにかく仕事が出来る人。あまりに仕事が出来るから、早く仕事が終わった日には「2時間有給もらいまーす」って言って帰ることもあるくらい。
「では、改めて行くか」
夜が明けてすぐ、私たちは西へ向けて走り出した。4時半に始まった今日という日を24時間過ごすことを目的に。まずは「そうだ、西京行こう」というノリで目的地を西京エリアに設定した。
今日はリンの誕生日。リン本人はどう思っているかわからないけれど、少なくとも私にとってはいつもより少し特別な日。用意していた紅茶の茶葉は、いつでも渡せるようにしてある。
「しかし、勢いで西京へ行くことにしたのはいいが、西京で何をする」
「対策委員です」
初心者講習会が終わってしばし。対策委員は夏合宿に向けて動き出していた。今は参加者を募っている段階で、参加率はどうなるかなー、誰が参加するのかなーというところがここのところの関心事。
ただ、俺たち向島からもたらされるビッグニュースはいい意味でも悪い意味でもとてつもなくビッグだ。何て言うか、躁鬱じゃないけど「ドヤァ!」と「どうしよう……」の波が交互に襲ってくる感じ。
「ねーねー洋平センパイ、アタシこないだ局の人からすっごい美味しいらしい立ち呑みの店教えてもらったんだけどさ、餃子食べに行かない? 6時までに店に行けば餃子1皿とる〜び〜1杯がなんと500円!」
「奢りはしないけど〜」
「は〜つっかえ」
「それは気になるでしょでしょ〜。餃子1皿と生1杯がワンコインは良心的だし〜。行きたいね〜、行こっか〜。朝霞クンも行く〜? 餃子好きでしょ〜?」
「たまには立ち呑みもいいな。それじゃあ早いトコ切り上げて行くか。源、お前はどうする」
「あっ、すみません、俺は遅くなるって連絡もしてないのでまた今度お願いします」
「そうか」
ここ最近の火曜日は第1学食の“ぼっち席”で岡崎と飯を食うようになっていた。それと言うのも、ワールドカップイヤーであるのをいいことに、伊東が昼放送でやりたい放題しているのだ。下手すりゃ暴走とも取られかねないだろう。
「へー、第1学食にこんな奥まった席があるんだねー」
「おう、来たのか宮ちゃん」
「だって、面白い物が聞けるって言うから」
「それで、面白い物って?」
「浅浦、お前も来たのかよ」
「伊東の冷やかしと聞いて」