「野坂、ちょっといいかな」
「はい、いかが致しましたか圭斗先輩」
「明日の昼放送の収録のことなんだけどね」
今日は金曜日で、明日は土曜日。つまり、昼放送の収録があるということだ。今年度の収録は明日を含めて残り3回。毎回のように暗黙の待ち合わせ時間である午後2時には遅れてしまっているので今度こそ無遅刻で行きたい。
さて、昼放送の話だ。ただ、圭斗先輩からその話を持ちかけられるというのに少し驚いたと言うか、どうしたんだろうという疑問が先に出て来る。ペアの相手は菜月先輩だし、昼放送は曜日ごとに完全に独立した活動だから、別の曜日の人が何の用事だろうと。
「あら、あずさ。いらっしゃい」
「あっ、あずさ」
一生懸命勉強をして疲れたから、自分へのご褒美じゃないけどハルちゃんのお店に寄り道。そしたら今日はちーまでお店にいて、お手伝いをしてるみたい。今日は倉庫のバイトお休みなんだね。
「ちーいー、疲れたぁー。モスコミュールぅー」
「どうしたの、座るなりへたり込んじゃって。今日は立てなくなるまで飲まないでよ」
「大丈夫でーす。今日はねえ、ゼミのペア研究の方で勉強してたんだよね、朝霞クンと一緒に」
「あ、そうなんだ。お疲れ」
「今年の冬はヤバいらしい」
高ピーが深刻な顔をして言うものだから、きっと本当にヤバいのだろう。今年の冬の何がどうヤバいのか。場合によっては俺にも何か関係のあることだったら……うーん、怖すぎる。それだけ高ピーの顔が迫真って感じなんだもんなあ。
「高ピー、何がどうヤバいの?」
「エルニーニョ現象が起きてるらしい」
「それがどうしたの」
「エルニーニョ現象が起こってると、向島は雪が降りやすくなるそうだ」
「あ、それは確かにヤバいね」
「死ぬぞ、マジで。食料の備蓄は十分にしとかねえとな」
「あ、リン君。来てくれてありがとう」
「それで青山さん、話というのは?」
「リン君、芹ちゃんに復讐したくない?」
青山さんから某所カフェに呼び出され、席に着くなりふっかけられた話だ。オレはやってきた店員にロイヤルミルクティーとティラミスを注文し、話の続きを促す。春山さんへの復讐? それは非常に心躍る響きだが、青山さんの言うことだけに裏があるような気がする。
「春山さんへの復讐であれば常に機を窺っていますが、それが何か」
「ちょっと、この資料を見てくれる?」
「さァーて、そろそろ年末特番のことについても考えヤすよー」
「わぁーい、もうそんな季節なんだねー」
「こーたウザ。で、何をどうしヤしょーか」
さて、律を中心に始まった話し合いだ。大学祭を境に代替わりをしたMMPは、律を代表に何やかんや動き始めた感がある。話し合いは大体律とこーたの茶番から始まるという形も出来上がりつつある。これから始まるのは年末特番についての話し合いだ。
年末特番というのはその名の通り、年の末に作られる特別番組のことだ。それをどこに発表したり提出したりすることはないけれど、思うがままに1時間程度の番組を作るのだ。一応毎年やっていて、企画番組だったりラジドラだったり内容はいろいろだ。