Maniacer's Spiral (R)

　無理だ、しんどい。咳が止まらない。今年もか。まあ、今年もやるかなって思ってたから、今まで授業はなるべくサボらないようにしてたし、それに備えた食べ物や飲み物もある。今週は休もう。薬を買うお金もないし、気力もない。
　喉が痛いし、咳が止まらない。体力は奪われるし、食事も喉を通らない。寝ようにも咳が出て眠れない。それでなかなか休息が取れなくて体の具合が良くならない。大学に入ってから、そんな感じの夏風邪をやらかすようになった。
　手元には、先週行ったカラオケの名残。高音の曲を歌いまくった結果生じた喉の違和感をごまかすために買ったのど飴。用法容量がしっかり書いてあるタイプのヤツだ。とりあえず、残り１個になっていたそれを舐める。１回３個だけど、足りない。

「遅い。秒数を文字通りに解釈する奴がどこにいるんだ。キューが振られるまでの時間、逆キュー振ってミキサーがフェーダー操作する時間、それからスムーズに曲に入っていくまでの“間”を計算に入れろ。はい、もう１回」
「はい！」

　サークル室に走る緊迫した空気。果林先輩が高崎先輩から猛特訓を受けている。アナウンサー先には果林先輩が、そしてミキサー席には高崎先輩が座っている。
　高崎先輩の眼光は鋭く、果林先輩の一挙手一投足、そして一言一句までもを見ている。今のイントロ乗せにしても俺が聞く分には普通のイントロ乗せだけど、先輩たちからすれば全然ダメなのだろう。やっていることのレベルがさすがに１年とは違う。