月曜日がやってきた。星ヶ丘大学的には今日から春学期の期末試験。しかしそんなことは俺には関係ない。何故なら出席100%またはレポートのみで成績が決まる講義しか履修していないからだ。つまりこの1週間はステージのことだけやっていられる。
「あ〜さ〜か〜ク〜ン、お〜は〜よ〜」
午前8時半、部屋のインターホンが鳴らされる。ステージの準備期間でなければまだ寝てるかぼやぼやしてるかのどっちかだけど、今日はバッチリ支度まで出来ている。デザートのプリンも食い終わっているし、完璧だ。
「うーす、来たぞ」
短いインターホンの後に、ドンドンとドアを叩く音がする。高崎先輩だ。10秒待たすと怒られる。はーいと返事をしてドアを開ければ、いい匂いが漂って来る。
バイト上がりらしい高崎先輩の手には、バイト先で焼いてすぐ持ってきたピザがある。社割で安く買えるそれがちょっとしたつまみになることは多々ある。
そして俺の方も準備は整いつつある。台所にはバットの上に敷き詰められた餃子、部屋には卓上コンロにフライパン。今日、ここでこれから行われるのはちょっとした宴だ。
「先輩お疲れさまです」
「ビール買ってきたぞ。すぐ飲まねえ分冷やしといていいか」
「突っ込んじゃってください。こっちもあと焼くだけなんで」
「あと、ついでだから焼いて来た。ちょっとつまもうぜ」
「俺ピザ食ったらすぐ腹いっぱいになるんすよね」
「お前食わなさすぎだろ」
今日は山口先輩とつばめ先輩と買い物に行くことになっている。明日からはテスト期間だし、ステージ前最後の日曜日ということでじっくりと準備が出来る最後の機会。
「おはようございます!」
「ゲンゴローおはよ〜」
「さて、今日のスケジュール確認するよ」
つばめ先輩が今日の予定を読み上げてくれる。これからどこへ行って何をして、というタイムテーブル。山口先輩もそれに頷きながら、そうだね〜と一緒に予定を確認。
朝霞先輩はやっぱり出て来れないみたいだ。こないだのリハ日に熱中症で倒れて、週末は丸々休養に充てているとのこと。山口先輩もつばめ先輩も朝霞先輩ならどうするかって考えながら今日の行動を計画している。
「醤油お待ち」
「あっ、スガノ君醤油来たよ」
「ああ」
目の前には、3人分のラーメンと餃子。それから、宇部の前には生中。今ラーメンを食べに来ているのは俺と洋平、それから宇部という変わった面々。どうしてこうなったのかはよくわからない。敢えて言うなら成り行きか。
カウンター席で、右から洋平、俺、宇部の順に並んで座っている。俺を挟んで右と左でポツポツと会話が成されている。洋平は塩ラーメンを啜りながら、とんこつの匂い強いね〜と宇部のそれに興味を示している。
目が覚めると何故か目の前には越谷さんがいて、まあ飲めとスポーツドリンクを差し出される。はて。俺はこの人を部屋に入れた覚えはないのだけど、まあいいか。いや、良くない。ステージの準備をしないと。熱中症で2日ロスしたんだ。のんびりしてる場合じゃない。
「まあ待て、朝霞」
「え?」
「俺がここにいるのは洋平からの伝言を寄越すためだ」
「山口の?」
「お前が目覚めたらこの手紙を渡してくれって頼まれてんだ」
そう言って越谷さんから二つ折りにした紙を受け取り、それを開く。