「そうそう、これこれこういうの!」
2月の中頃に、佐藤ゼミの卒論発表合宿というのがある。正当な理由なく欠席することは許されないその合宿は、山のリゾート地にある大学の施設であるセミナーハウスで2泊3日の日程だ。
正式にゼミに配属されるのは来年からだけど、ゼミに入ることが決まった1年生もこの合宿には参加することになっている。だけど、右も左もわからなくって不安ばかり。
こんなとき、身近に同じゼミの先輩がいて本当によかったと思う。果林先輩に合宿のことを相談したら、一緒に買い物に行こうと誘ってくれたのだ。これは本当に嬉しいし、助かる。
「ポケッタブルなんですか」
「そうそう、折り畳み出来るカバンがね、便利なんだよ」
何でも、果林先輩が言うにはそのセミナーハウスは本当に雪山の中にあって、ホテルとかでよくある売店やカップ麺とか酒の自販機はあるけど下界よりかなり割高。
それに、そういうところの食事は食べた気にならないから、ということで非常食を持って行った方がいいというのは代々ゼミ生に受け継がれる豆知識。
「晩ご飯がフランス料理のフルコースらしいんだけどね、白いご飯とか濃い味のラーメン食べたくなるから」
「ラーメンを食べるにしても、お湯はどうするんですか?」
「部屋に湯沸し器あるよ」
「あるんですね」
これこれこういうのと果林先輩が手にしたのは、手でつかんでちょうどくらいの大きさの物。ソフトボールみたいに投げて遊んでも楽しそうだ。それを広げると、軽くて大容量のカバンになるらしい。
「こういうカバンに行きはご飯とかおやつ詰めてって、帰りは畳んで帰るっていう感じ」
「そうなんですね」
「でもタカちゃんはここまでおっきくなくても大丈夫か、1年生お酒禁止だし」
「禁止なんですね」
「未成年っていう体だからね」
「鵠さんみたいなケースでもない限りはそうですよね」
結局、果林先輩が手にしていたブランド物のお高いカバンではなく、軽く口を閉じられるエコバッグを買うことにした。これなら後から使えるし、エイジも喜ぶだろう。
カバンを決めたら、次に大事になってくるのがそこに入れるもの。カップ麺は濃い味のものが恋しくなるというのはさっき聞いた通り。他に必要な非常食とは。
「防災のコーナーですか? そこまで本格的な非常食でなくてもいいような気がしますけど」
「最近の非常食は美味しいっていうからね。それに、白いご飯はここにあるから」
果林先輩について歩いていると、白いご飯の他にもかやくごはんとか、なんとカレーまである。最近の非常食は多種多様なんだなと。長期保存の利くお菓子もいろいろあるっぽいし。
「おかずは定番のやきとりに、サバの味噌煮はこれ絶対だから! タカちゃん騙されたと思ってサバの味噌煮持ってってみて! 嫌いじゃないよね!」
「鯖ですか? まあ、好きですけど。あ、きんぴらごぼうなんてあるんですね。おいしそうです」
「あー、きんぴらもいいよねごはんのおとも!」
白いご飯とサバの味噌煮、あとは少しのお菓子を。果林先輩ほど大量の非常食は持てないからこそ、取捨選択が必要になってくる。本当に必要な物は何だ。
「星港って缶詰バー的なところあったっけ」
「調べてみましょうか。……あっ、割とこの近くにあるっぽいですね」
「……行っちゃう?」
「行っちゃい、ますか?」
end.
++++
タカりんは2人できゃっきゃと出かけたりしてるといいなと思ったんだけども、佐藤ゼミの合宿が近いということでこういうことに。
雪山に閉じ込められる合宿だからこそ必要になってくるのが非常食やおやつ。学年が上がるとお酒になったりするよ!
そして今年のタカりんは缶詰バーというところに冒険してみたりするようだ。缶詰バーもどうやら星港近郊にあるみたいですね!w