サークルが終わって、今日はみんなでご飯を食べに行くことも装飾の作業をすることもなく直帰。部屋に戻って荷物を置いて、これから必要な道具をカバンに詰めていく。それらが済んだら、服と髪型を変えてまた外に。ちょうど約束していた時間だ。階段の踊り場から下を見下ろせば、白いビッグスクーター。
「よう」
「ん」
夏合宿を除けば7月以来になるだろうか。今日は高崎と会う約束をしていた。ご飯でも食べながらちょっと話しますか、くらいの感じで。受け取ったヘルメットをかぶり、ビッグスクーターの後ろに乗らせてもらう。
「圭斗悪い、ちょっとお手洗いに」
「ん、わかったよ。僕たちは店の外で待ってるから」
夜は随分と冷え込むようになっていた。会計は済んでいたので、僕と三井は店の外に出た。今日は何と、MMPの3年が3人だけで夕食を食べていたという、過去に前例は1度しかない激レア案件が発生していた。
それと言うのも、インターフェイスに加盟している大学ではほとんどが大学祭を境に代替わりをする。それに伴い、次期の役職などを話し合わなければならなかったのだ。まあ、つまりそういうことだね。
結論から言えば役職は一応ちゃんと決めさせてもらった。2年生は人数が多いから代表職と会計職を分けることにしたり、総務の仕事がゴーストライターから代表へのツッコミになったりと些細な変更点はある。
軽く2回ノックをして、重厚な扉を押し開く。失礼しますと一礼すれば、中からはどうぞと返って来る。
いつ来てもこの文化会役員室という部屋の雰囲気には慣れない。絨毯の床に皮張りのソファや観葉植物が置かれていて、本当にどこかの会社の応接間のよう。この建物自体は殺風景なのに、扉の向こうはまるで別世界のように思えた。
文化会役員の中でも、さらに限られた役職の者しかこの部屋に席を持つことは出来ないそうだ。監査席で書類仕事中だった萩さんは、私の顔を見ると応接用のソファに移動した。
「やだ! やーだ! 俺はゼミに出るんだ!」
「いい加減にしなさい飯野! アンタこれまでの出席ボーナス全部持ってるんだから1回出なくたって余裕でしょ!?」
「バカ言うな! 今日出なかったら今日もらえるボーナスがもらえないじゃねーか!」
「前夜祭まで1週間なのにゼミに出てる余裕がどこにあると思ってんの仮にもナンバーツーで現場の責任者が!」
「うるせー! 俺は卒業が危ういんだ! 出席ボーナス全部取った上でゼミにも全部出なきゃ単位貰えるかどうかも怪しいんだぞ!」
「それはアンタがバカだからでしょ!? いーから準備手伝って!」
「や〜だ〜! 助けてくれ〜!」
大学祭だなんだと学内がバタバタしている中、俺たちは同時進行で別のことでもバタバタしていた。社会学部では2年からそれぞれがゼミに所属して本格的な学問を修めることになる。そのゼミを決めるのは今なのだ。
秋学期が始まった頃、学部ガイダンスで各ゼミの説明会やら見学についてのアナウンスがあった。配られた資料を見ながらここは行ってみる、ここは行かないといった具合に候補を絞りながら。
社会学部は現代社会学科、メディア文化学科、社会福祉学科という3つの学科に分かれているのだけど、ゼミは別に学科問わず入ることが出来るそうだ。俺はその制度を大いに利用させてもらおうと考えていた。