夜遅くに鳴り響く電話を非常識だと思わず喜んでしまうのは、ディスプレイに映し出される名前の所為だろう。日付が変わるか変わらないか、そんな時間だと部屋の電気も消している。パソコンこそ当然のように立ち上げているけれど。俺の夜はまだまだこれから。
「はいもしもし、野坂です」
『もしもし、今大丈夫か?』
そもそも、こんな時間に用事なんてあるはずがない。世間は盆だなんだと帰省が始まっていたりするけど俺には関係のないイベントだ。友達も大体向島エリアの中にいるし、ここ最近は対策委員の会議で遊ぶどころではなかったから。
ただ、この帰省ラッシュで向島を離れた人もいる。特急電車で3時間少し、高速バスでも3時間のところにある緑風エリア、この電話が発信されたのはそこから。
ドーナツで、感じる季節は抹茶かな。字余り。
今年もこの季節がやってきたが、それをもたらしたのはいつもの1.6野郎ではない。
「俺バナナ超好きなんだよねー! えっと、あれとこれともう1個ー」
「そんなに食うのか」
「全然食べるよー、余裕余裕〜」
月曜は基本仕事が休みだから遊ぶぞ、付き合えと受信拒否リストに登録したくなるくらいの勢いでメールを送ってきた川崎に引きずられて至る今。とりあえず何か食うぞと目に付いたドーナツ店に入る。