左手薬指にキラリと輝く指輪が、俺の目を奪っていた。確かに俺が仕掛けたサプライズだったんだけど、まさか。えっと、呪詛返しじゃなくて何て言うんだ。人を呪わば穴二つ。いや、これも違う。
慧梨夏の誕生日だということで久々に外でのデート中だ。水族館へ行って、港町の夜景を見下ろす観覧車に乗って。その観覧車の中で慧梨夏に小さな指輪を渡した。将来の約束のつもりで。
ブルーサファイアが慎ましく輝くシルバーリング。元は右手薬指にはめたんだけど、慧梨夏が「予約のつもりならはめる指が違うでしょ」なんて言うモンだから、左手にはめ直した。
歩くのも一段落した今は、串揚げの店に入って食事をしている。自分たちの席で好きな物を揚げるというシステムで、主に俺が揚げた物を慧梨夏が食べて、ご機嫌そうにしている。
その姿を眺めるだけでも満足だけど、今日はそこに指輪が加わって。何て言うか、やっぱり俺には慧梨夏しかいないなとか、何年経っても、家族が増えてもこうしていられたらいいなと思ったりする。
「カズ、食べてる?」
「食べてる食べてる」
「うちばっか食べてる気がする」
「ほら、しいたけ」
「わーい」
考えとしては確かに甘いかもしれない。事実、高々二十歳すぎたばっかでまだまだの若造が、就職もしてないのに家庭のことを考えたりするということ自体がおかしいのかもしれない。
俺には慧梨夏しかいないということに関しても、若気の至りとか、お前は世間知らずでまだまだ盲目なんだと言われても仕方がない。だけど、知らないからこそ貫けることだってあると思わなければ。
現時点での俺が、ただひとつ貫き通している覚悟というのが慧梨夏とのことだ。今までも、そしてこれからも。それだけは絶対に揺らがない。天に誓って言い切れる。
「ねえ、カズ」
「ん?」
「あっダメ」
「どうした」
「あのね、カズがいなくなっちゃったらどうしようって不意に思っちゃって、泣きそになってて」
大きな目を潤ませて、不安に震える慧梨夏を何とか出来るのは俺だけ。俺がその不安を消さないといけないんだ。そんな風に思うのは、俺の覚悟か、傲慢か。
机を挟んで向かい合った席から慧梨夏の隣へ移動して、何を言うでもなく左手を握った。ここが公共の場所で、誰に見られるともわからない場所だとか、そういうことは関係ない。
「ねえカズ」
「ん?」
「カズの誕生日に一緒にいさせてもらえなかったんだから、今日はずっと一緒だよね?」
「もちろん」
店を出て駅まで歩く道中、繋いだ手に指輪の存在をはっきり感じた。自分が仕掛けたサプライズだけど、改めて慧梨夏と歩む未来のことを考えることとなった。
互いにどんな仕事に就いて、どんな生活になるのかはわからない。だけど、慧梨夏といるということだけは確かでありたい。そのためには物質的な約束だけじゃなくて、言葉で伝えないといけないんだ。
言うとすれば、ひと月と少し後。付き合い始めた記念日が妥当。決意と覚悟が揺らぐことはない。あとは、少しの勇気とタイミング。イエスのパターンしか想像しないのは、不安を消すため。慢心と言われても仕方ないけど。
end.
++++
久々にバカップルがいちゃいちゃとしている話。「君に捧ぐブルーサファイア」参照のお話でもあります。
今年のいち誕はワールドカップ、じゃなくて初心者講習会の影響でなかなかぐだぐだと言うか駆け足だったようなので、せめて慧梨夏誕はしっかりやろうと。
そして2か月後に含みを持たせた感じにいち氏が覚悟を決めつつあります。君に捧ぐ〜の頃は学生結婚設定がまだなかったよなあそう言えば