「高木、伊東に何かかけといてやってくれ」
「はい」
飲み会では早々に酔い潰れてしまういっちー先輩だけど、今日の飲み方は何となくいつもよりも自棄になっていたような、そんな感じ。タカちゃんのベッドですやすやと眠る顔は安らかだけど。
「今日の伊東先輩はどうしちゃったんですかね」
「ま、あれだ。昔を思い出したんだろ」
「昔ですか。でも、ビックリしました。果林先輩も対策委員で大変なんですね」
「タカちゃんみんなには内緒ね」
飲み会をしていても、時期が時期だけに初心者講習会の話にシフトしていった。本来1年生のタカちゃんの前で対策委員の裏側のような話をするべきではないのはわかっていたけど。
高ピー先輩といっちー先輩が2人揃っているとなると、アタシが愚痴り出すのにもさほど時間はかからず。先輩たちも話を聞いてくれちゃうものだから、つい喋りすぎて。
「まあ、伊東は三井と因縁があるからな。対策の話で三井の名前が出て、酒の効果もあって自棄になったんじゃねえか?」
「何ですかそれ、気になるんですけど」
「俺らの学年で未だに語り草になってる事件があんだけど」
高ピー先輩によれば、三井先輩はインターフェイスでも有名な告り魔。青女や星大の人がよく狙われるらしく、ちょっと喋るとすぐ惚れる体質だとか。
3年生が1年生の頃、三井先輩が惚れたのが今じゃMBCCのレアキャラと化している育ちゃん先輩。1回会っただけのタカちゃんは記憶の奥底から育ちゃん先輩を引っ張り上げようとしてる。
「同じMBCCのミキだし伊東を踏み台にして武藤に近付いたのな」
「うわー、引くわー」
「そんなことをする人が本当にいるんですね」
「俺からすれば武藤を恋愛対象に出来るのが理解出来ねえけど、アイツは突っ込める穴がありゃ何でもいいんだろ」
「高ピー先輩穴だなんてタカちゃんの教育によくありませんよ!」
「あ? 18禁の域にすら行ってねえだろ」
「それで、武藤先輩は告白されたんですか?」
タカちゃんの好奇心に高ピー先輩が何を思い出したのか、飲んでいたビールを吹き出しそうになってる。と言うか何が気持ち悪いって、高ピー先輩の思い出し笑いだ。
「それはもう。俺が武藤の行動を賞賛したのはそれが最初で最後だ」
3年生の間で語られているある種の武勇伝がお披露目になれば、アタシもタカちゃんも笑いを堪えることが出来なかった。とんでもないフラれ方をしたもんだと、思わず手を叩いて。
「あーおもしろ。でもいっちー先輩が自棄になる理由って結局何だったんですか?」
「恋バナ的なことをしてたときに、三井が見たこともねえ宮ちゃんをディスり始めたんだ。アイツの他人下げなんざ今に始まったことでもねえし、真に受けることでもねえんだ。でも伊東はマジギレしてだな」
「伊東先輩のマジギレ…!?」
普段ニコニコしてる奴ほどおっかねえっつーのは強ち間違ってねえ、と高ピー先輩は神妙な面持ちでビールを煽った。いっちー先輩のマジギレの方は、そっちは聞かねえ方がいいぞとアタシたちを遠ざける。
相変わらずすやすやと眠っているいっちー先輩を見ていると、とても高ピー先輩がおっかないと言う風には見えない。でも、人は状況によるのかもしれない。
「果林、これで三井に何か言われても笑い飛ばせるだろ」
「はい、間違いないですね」
「高崎先輩」
「あ?」
「穴があればいいということは、告白の対象は女性に限らないということですか?」
「ぶはっ」
「ちょっ、高ピー先輩噴かないでくださいよ!?」
「うるせえ、高木がおもしれえコト言うのがわりィんだろ。あーでも、今の伊東に聞かせたかったな」
end.
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まさかの伏兵タカちゃんw タカちゃん男子校卒だからね……でも一応三井サン女好きだから! 疑惑はあるけど天性の女好きだから…!
高崎が思い出し笑いをしてたりビール噴きそうになってたりと若干のキャラ崩壊をしつつも、それくらい面白かった3年生の間の伝説。
いっちーのマジギレは高崎でもおっかないと感じるらしいよ! でも確かにいっちーがキレるととんでもなさそうだ!