公式学年+1年
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「うわっ、超降ってきたじゃん!?」
「ほーら! 傘持ってたアタシマジ勝ち組だし!」
「機材どうしよう! 安曇野さんパス!」
「ちょっと高木押しつけんなし!」
「だって傘差してるから!」
バタバタと駆け込んだアーケードの下。フィールドワークの最中で雨に降られるということは、割とあること。天気予報でも言わなかった突然の雨に、濡れたメガネを拭きながら。
今は、ゼミの課題で音声作品を作っているところで、その素材としてインタビューをしたり音声素材を録音してるところなんだけど、こんなに激しい雨が降っちゃ中断せざるを得ない。
「佐竹、どうだ。これが我らが雨神様の実力だ」
「すごーい、ホントに降るね」
「鵠さん、俺いつから雨神様になったの? こないだまでただの雨男じゃなかったっけ」
「こないだ安曇野と3人で多数決採ったじゃん?」
部活やバイトの都合などで初めてフィールドワークに来てくれた佐竹さんもビックリの降られっぷり。班の話し合いの中で俺の雨男っぷりは酷いと言われてたけど、それを目の当たりにして感激している様子。
今日は大丈夫だろうと傘を持ってこなかった鵠さんを結果として裏切ってしまったのは、俺が雨の降った直接の原因じゃないにしろ申し訳なく思う。こうなることを予測した女子2人は傘を持っていたし。
「由香里さんすごいっしょ、今んトコウチらの班が降られる確率8割だからね。高木がいるときは100%だけど」
「天気予報見て日程決めてんだよね?」
「降水確率20%以下の日に行くようにしてんだけどな」
「でもアタシと鵠沼が2人で行った日は晴れすぎて暑いくらいだったし、フィールドワーク自体が雨イベントってワケでもないよね」
この局地的な雨は一体何なのか。本当に俺の所為だとすれば、俺が何をしたと言うんだ。これこれこうすると雨が降るみたいな迷信はちょいちょい聞くけど、そんな行動をした覚えもないし。
「でも、この力は何かに使えないかな」
「何かって?」
「3年になったら技術表現技法の授業で映像作品撮るじゃん」
「そういや、果林先輩が言ってたなあ」
「雨のシーンを撮りたいときに高木君を連れて行けば、雨待ちの必要もなく撮影もスムーズにいきそうじゃない?」
そう佐竹さんが切り出したのを発端に、何だか大喜利が始まりそうな気配。雨に降られる男の使い道はいかに。
「それなら夏の水不足で断水した時とか、どーしてもシャワー浴びてーって時に高木を連れて外に出りゃ水浴びくらいなら出来そうだな」
「鵠さん、それはどうなの」
「それなら枯れてるダムに連れてった方が良くない? 人工降雨装置使うより自然に優しいし」
「俺に報酬は出るのかな」
みんな言いたい放題だなあ。俺は雨に降られるおかげで部屋の傘立てから溢れるほど傘が増えて困ってるっていうのに。常に持ち歩くのもバカみたいだし、折りたたみ傘は使いにくいし。
「高木、お前ゼミの活動以外では大丈夫なのか?」
「こないだ果林先輩とご飯行った時も降られたけどすぐ止んだなあ」
「降りはしたのな」
「一瞬ね。果林先輩は晴れ女なんだって」
すると、みんな真剣な表情で何かを話し合い始めるんだ。蚊帳の外にされている俺は、雨神を通り越して疫病神か何かか。
「佐竹、次はお守りとして千葉ちゃん呼びてーな」
「千葉先輩にお願い……してみる?」
「次のゼミで頼むだけ頼んでみるし!」
「ちょっとみんなそんなに話大きくしないでよ!」
end.
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果たして果林の晴れパワーはタカちゃんの雨パワーに勝てるのか! 雨男タカちゃんがアップを始めたようです。
いつものフィールドワークに由香里さんを初めてぶち込みました。言っちゃえば由香里さんも最近のキャラだもんなあ。
――と言うか、タカちゃんは毎回傘を買う方がアホらしくないのかね。傘立てのバケツにも入りきらなくてエイジに怒られてるだろうに。