「お餅焼けたよー」
「みんなそろそろ取りに来てよー」
バスケサークルGREENsの新年恒例行事となっているのがお雑煮大会。お雑煮って言ってもおだしと醤油で味を付けた簡単なすまし汁にネギを浮かべただけの汁で、他に具はないんだけど。何が主な目的かと言えば、お餅の消費。
この大会は美弥子サンが1年生のときから始まったんだとか。伊東家でお正月にやる餅つきの規模が本当に大きくて、伊東家と浅浦家、それからその周りの人たちだけじゃ到底消費しきれないからってサークルで焼き始めたのが定着した。
今ではこのお雑煮大会が今年はまだかなと催促されるほどに成長した。コムギハイツの駐車場にみんなで集まって、初夏のネギパの時にも使った七輪でお餅を焼いている。もちろん鵠っちの部屋の台所を借りてすまし汁を作って。
「さっちゃん、そこに器並んでるからボウルのネギまいてってくれる?」
「はーい! 盛り盛りでいーっすよねみんなGREENsですし!」
「基本盛り盛りでいいけど、1枚だけは空のままにしといてあげてね。ネギ入れるとサトシが拗ねるから」
「相変わらずおこちゃまですねーサトシさんは」
そのサトシは七輪の前でお餅の番をしてくれている。今の件が聞こえていたのか、ギロリと鋭い視線がこちらに突き刺さってくる。どクールなサトシに「おこちゃま」と言えるさっちゃんて本当に怖いもの知らずだなあと思う。
薬味狂の美弥子サンに洗脳された結果、GREENsメンバーは大体みんな薬味を一般的な量以上に盛るようになっていた。サークルに入るまではネギ嫌いだったさっちゃんにしてもそう。だけどサトシだけは未だネギ嫌いのまま。
「ネギまけましたっす! かわいい三浦をねぎらってくーださい!」
「ネギだけに? サトシ、お餅入れてっていーよ」
「慧梨夏、何個ずつ入れる。例年通り男が3個、女は2個からスタートでいいか」
「そうだね、そうしよう」
サトシが器にお餅を入れてくれれば、最後にうちがその上からおすましをかけていく。お餅はまだまだ残っているから、食べるのもそこそこにサトシはお餅の番に戻っていく。曰く、程よく柔らかい方が好きだから敢えて置いてある、とのこと。
「ねえサトシ」
「何だ。おかわりか。まだ焼けてないぞ」
「おかわりは後でするけど今は違いますー」
「じゃあ何だ」
「ちょっと汁の味だけ見てみてくれる? ネギないから純粋な味がわかるでしょ」
「ん。……ごく普通の汁だ」
汁の味見ついでに箸を取り、餅を睨みながらお餅をうにょりと伸ばし伸ばし食べる。サトシの様子を見る限り、その言葉に嘘はない。ごくごく普通のお汁。美味しい、普通、マズイで言えば普通。お餅は美味しいって。
「で、それがどうかしたか」
「今回のお汁、うちが作ったので評価が気になりました」
「うえっほ! げほっげほっ!」
「ちょっと何で噎せるの!」
「お前の料理音痴は俺も知っている。お前が作っただと? 殺す気か」
「でも普通って言ったじゃん」
「何をした、何か良からぬことをしたんじゃないか」
「うちも近い将来のことを考えて花嫁修業的なことをしてるんですよ。で、まずは包丁を使わない料理から始めたの」
「それがこの汁か」
浅浦クンを巻き込んで作ったぜんざいとか、今回のお雑煮の汁とか。包丁を使わないことだったら多分カズも止めないだろうなーと思って。だけどやっぱりこういう反応をいただきますよね。うちがどれだけ料理が下手かっていうのはみんな知ってるし。
「うちはね、便利グッズを使うことを覚えたんですよ。別に自分で昆布とかかつお節からだしを取らなくてもいっかなーって」
「それは一理ある」
「今回の汁はね、水にだしパックを入れて、そこに醤油をちょっと入れただけなんです。前までのうちならそこにもっといろんなものを入れたがってたからね。余計なことしないの大事」
「蛇足という言葉の意味を知ったか」
「もうね、小説も料理も一緒! この一文が要らない的なことって多々あるしね」
「小説と料理は違うだろ」
ブツブツと文句を言いながら、サトシは器をうちに向かって差し出す。うちも空になった器をサトシに差し出して、焼けたばかりのお餅をひとつもらう。2人分の器を持ってやることは、汁のおかわりを注ぎ足すこと。
「はいサトシ、おかわり」
「ん」
「新キャップ、今年の抱負を」
「無病息災、安全第一」
「なにそれ」
「今の1・2年には落ち着きがない。特に三浦だ。明るく楽しく元気よくもいいが、ろくでもないことでケガをされてもな」
「うっわ、マトモ。さすがキャップ。さっちゃん風に言ったら「もちつけおちつけ」的な?」
「俺にはあのダジャレ癖も理解に苦しむ」
end.
++++
多分いち氏がそこそこ保存の利く形にしておいてくれたのであろう正月のお餅でGREENsのお雑煮パーティーです。
さっちゃんは相変わらずダジャレだし、多分真面目にさっちゃんはサトシの天敵。さっちゃん加入前に比べると大分丸くなったんじゃないかなサトシ
そして慧梨夏の花嫁修業的なことです。確かにいち氏は何を一番危ないって言ってるかっつったら包丁だからね。使わなきゃセーフ理論?