公式学年+2年
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「高木君、君ねえ」
「げっ」
「わかってる? 「げっ」じゃないよ、聞こえてるんだよ。もうすぐテスト期間だよ? ちゃんとやってるの? と言うか君の場合ちゃんと人間らしい生活をしてるの?」
木曜3限が2年のゼミで、4限が3年のゼミ。その入れ替わりの時間は2年生も3年生も入り混じって大変なことになる。休み時間だからっていうのはわかるけど、みんながみんないるところでいきなりそんな話が始まるのは勘弁してほしい。
例によって先生に目を付けられているらしい俺に、普段なら一緒にいる鵠さんも近付いて来ない。近付くと自分にも飛び火するって経験から導き出されているから。疫病神と呼ばれるようになってからは2年弱。
「ササ、俺席にファイル忘れたの取りに行きたいんだけど、今行ったらマズいよな!?」
「うーん、あんまり良くはないかもしれない。でも置いとくのも良くないだろうからそっと取りに行ったらいいんじゃないか。どうですか、鵠沼先輩」
「話題が話題だけにあんま近付かない方がいいじゃん? 成績に自信があるなら大丈夫だろ」
「え、成績に自信って」
「テスト前になったら高木への釘差しが始まるのなんか毎度のことじゃんな」
「ササ、お前成績良いだろ〜、取って来てくれよ〜」
「嫌だよ、自分で行けよ」
――っていう件も聞こえてるんだけど、正直ササでもシノでもいいから横槍を入れて助けてほしい。ファイルって、今俺の手元にあるこの青いA4ファイルのことなんだろうけど。人質に取りたいなあ、これを返して欲しくばって。
ササは成績がいいみたいだからあんまり期待できないけど、シノは俺と似たり寄ったりのタイプだから巻き添えに出来ないかなって。ダメかな、そんなことを考えてたら怒られるかな。まずは鵠さんに怒られそうだ。
「君の成績、何なのこれ。私がSをあげてる実技系の科目がなかったらとても見られる成績じゃないじゃないの」
「はい、すみません」
「いい? 去年から言ってるけど君は座学が弱すぎるんだよ。ゼミのエースの成績が下から数えて1番じゃダメなんだよ。わかってる?」
「えっ、俺が下から1番なんですか」
「実技を除けばぶっちぎりで1番だよ」
「あらー」
「だから「あらー」じゃないよ君は!」
「でも、実技を含めればまだ大丈夫なんですよね?」
「ああ言えばこう言うね! 悪い意味でのんびりし過ぎだよ!」
ここ2、3年で一番出来がいいのか悪いのかわからない子だよ君は、と言われたってどうしようもない。生活習慣を整えるところから始めろともずっと言われている。先生が趣味でやってる家庭菜園で土いじりから始めろと。
そもそも俺はちょっと機材を扱えるだけのごくごく普通のゼミ生であって、エースだった覚えはない。だから下から1番でも大した問題じゃないんじゃないかなあ。……なんて言ったらまだ長くなるから言わないけど。
「あと、課題のレポートね。ただでさえ君は遅筆なんだから今からちゃんと始めなさいよ」
「はい」
「MBCCの子は歴代でも千葉君然りで実技に強い子の方が多いけど、君はちょっと酷すぎるよ。下の子で言えばアナウンサーの方の佐々木君はMBCCらしからず勉強も出来るし心配してないけどミキサーの篠木君だよ篠木君。彼には君の血が入ってるね間違いなく」
「はあ」
と言うか、俺の中の認識ではMBCCって勉強も出来る人の方が圧倒的に多かったと思うけどなあ、歴代の先輩たちを見てても。だけど、先生が知ってるのは自分のゼミ生くらいだからそういうイメージになるんだろうなあ。
そんな風に先生からロックオンされている間に休み時間が終わってしまっていたのか、14時40分のチャイムが鳴る。先生の話を聞きつつ、手元にあった青いファイルはススーッと滑らせて。それを受け取ったシノはササと一緒にバタバタとスタジオを出て行った。
ゼミの始まりは点呼から。学籍番号順に名前が呼ばれるけれど、「あ」から始まる安曇野さんの姿はない。って言うか、先生って安曇野さんに対してはここまでチクチク言わないよなあ。安曇野さんって来ないだけで成績はいいのかなあ。
「はい。それじゃあテスト期間も近付いて、卒論発表合宿もあるのでみんな気を抜かないように。学生の本分は勉強だよ」
end.
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TKGがヒゲさんからやんややんや言われているのを周りはあそこに近付きたくないなあと思いながら見ているお話。
タカちゃんは座学が弱かったり寝坊したり授業中に寝てたりするやらで何かもういろいろ残念。ヒゲさんもそれをわかっているので土いじりをしろと言う。
安部ゼミの「問題児ほどかわいい」っていう感じとはまたちょっと違うねヒゲゼミはやっぱり。ヒゲゼミでは問題児は問題児だ。