「なぜ菜月はああまで無防備なのか」
タン、とこたつ机に打ちつけられるグラス。今日の議題はこれに決まった。村井サンと麻里さんと僕が集まれば大体は下世話な方向に話が進んでいくけど、これは深刻な問題だ。
「えー、追いコンだ何だと飲み会の増えるこのシーズン、おじちゃんは菜月の無防備さを危惧します」
「マーさんが危惧とかいう難しい言葉使ってる」
「本当ですね」
「静粛に!」
「でも確かに深刻な問題ではあります。今度、山口君主催でインターフェイスの3年生で集まるんですが、そこでもやらかさないという保証はありません」
菜月さんの酒癖の悪さはいつだってMMPの最重要課題だった。学年が上がるにつれてまともになってきたけど、それでもまだヒドい。よく今までヤられてないなと思うくらいには。
ただ、今回の議題は酒癖の悪さに限った話ではなく、シラフのときにも適用される無防備さ。あ、何故だろう。某「ナンダッテー!?」な犬の顔が思い浮かんできたよ。
「アタシは割と本気で高崎と野坂が手を出さないから悪いと思ってるんだけど」
「そりゃ暴論だろ」
「男が手を出さないから何をしたって手を出されないと思い込んじゃうんじゃないの?」
「でも実際手出したら殺すんだろ?」
「当たり前じゃん」
「でしょうね。ですが菜月さんの性格からすればその2人なら強く拒否はしないと思いますよ、体なんて減るものでもないという考え方でしょうしそもそもが破滅志向です。そこで、僕は別の説も提唱したいと思います」
「ほう」
高崎はともかく、野坂には好きな人がいるという話はMMPでもたまに言われること。それが菜月さんであるとはみんな思ってないようだけど、それは菜月さん本人にしても然り。
そもそも菜月さんは自己を卑下しまくるタイプで、自分なんかを好きになる奴はいないというようなことは常に言っている。だから、好きな人のいるノサカが自分を襲うことはないだろう、と思っている。
「――という説を僕は提唱します」
「つまり、野坂は好きでもない女に何も感じないだろうってこと?」
「事実そうですよね。菜月さん以外の女性はカボチャかジャガイモですから」
「それは野坂が菜月を襲わない理由であって菜月が無防備な理由にはならなくないか」
「ん、自己を卑下しまくるという部分ですよ。自分なんかが襲われるワケがない。襲う価値がないという意識のすり替えです」
「なるほどなー」
「て言うか、恋愛感情と性欲は別でしょ?」
言いやがった!
そんな表情で僕と村井サンが固まっている。さすがお麻里様、ここぞというところでぶっこんでくるぜ! 俺なんか足下にも及ばないな、ハハハ!
「の、野坂は理性の生き物ですし……」
「ケダモノの圭斗とは大違いだな!」
「その理性がいつまで持つかなー、お姉さん楽しみだなー」
「つか圭斗、野坂の中の獣はどうした。存在するにはするんだろ、獣とやらが」
「野坂の中の獣はうまい棒レースで現れるもので……」
4年生方が完全に面白がっている。野坂、すまない。4年生追いコンでは覚悟をしてくれとしか忠告出来ないし、それでいて当日は敵に回ることを許してくれ。僕もお前と菜月さんの動向は気になるんだ。
「ですが、菜月さんも三井に対するガードは鉄壁ですし、イヤなものはイヤなんでしょう。家にも入れなくなったそうですし」
「さすが三井としか言えねーな」
「――となると、高崎か野坂の次の一手が待たれるね!」
「ですが麻里さん、手を出すと殺すんでしょう?」
「それはそうだよね。未遂ぐらいまでに止めといてくれれば。アタシの中の菜月さんは結婚するまで純潔を守ってるから」
「麻里、お前どんな都合のいい妄想だ。でもナイスです。菜月は天使であるべきだ」
そして僕はすべてを見守ることを約束させられる。すべてを見通す目を持ち、よほど危険だと思ったときには神の手を出し彼女の運命に干渉する。単なる愛の伝道師のはずが、どうしてこうなったのか。
end.
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圭斗さんがケダモノで、ノサカは理性の生き物。果たして。まあ圭斗さんはケダモノだろうけど。
ムラマリさんが好き勝手にわちゃわちゃ話しているようですが、まあ、例によって下世話なのはこのお三方なのでデフォルトです。
と言うか圭斗さんがついに神になるのか……そうだね、単なる愛の伝道師のはずなんだけど、神になるのか……