確かに、収納を工夫しなければ2畳あるかないかのブースで生き延びることは出来ないというようなことを言った記憶はある。だけど、それが日曜大工の話に飛躍するとは思うはずもなく。
収納って何から揃えればいいのかなと暢気な顔をして聞く大石に、果たして俺は望む答えを示してやれるのか。ホームセンターまで来ておいて難だけど、俺の専門は極小空間と百円均一だ。
「ねえ朝霞、トンカチはあった方がいいよね」
「何を作るか具体的に決めてからの方が良くないか?」
「あ、そっか。さすが朝霞は頼りになるなあ」
「俺が頼りになるんじゃなくてお前がふわふわしすぎなんだ」
「よく言われる」
そもそも、どうして大石の買い物に俺が付き合っているのかだ。住んでいる方角も、星港駅を中心にして考えれば逆だ。インターフェイスの定例会で顔を合わせていたけど、とうに代替わりは終わったし。
同じ星大に頼れる人間がいないのか。それとも、俺の話がそんなにオーバーに聞こえてしまったのか。いずれにしても、収納のことなら朝霞だと思われてしまったのには違いなさそうだ。
「で、何を収納したいんだ」
「いろいろかな」
「アバウト過ぎる」
「だっていろいろなんだもん」
「なんだもんじゃねーよ、そんなデカい図体して「もん」はねーだろ「もん」は」
「しょうがないじゃん出ちゃったんだもん」
「だああっ、言ってる側からまた言う」
図体ばっかデカい男の“もん”についてはこれ以上言ってもキリがないから打ち止め。山口じゃないから殴って言うこと聞かすワケにもいかねーし。
木材の匂いが籠もる一角で、何を欲するかのイメージは大石の中にしかない。お前もプロデューサーだったなら、描いてるイメージを俺に伝えてくれ。
「一言でいろいろっつっても、何でもかんでも突っ込むと余計ごちゃっとするし収納の意味ないじゃんな」
「なるほど」
「最優先は何なんだ、収納したい最優先は」
「美容グッズかな。その次は靴だね」
そう言うと、大石はきょろきょろと上を見上げて歩く方角を決めた。俺はその広い背中について歩く。見えてきたのは主に女性層を狙った美容機器のコーナー。こういうところを歩くのは少し恥ずかしい。
症例を聞いていくと、こういう機器が結構いっぱいあるのに毎日使うからずっと出しておいても問題ないと言って同居人が片付けてくれないらしい。しかもそれが油断すると増える。
「そしたら出し入れが簡単な棚か。キャスター付きだとそのまま台にもなって良さそうだな」
「やっぱり朝霞は頼りになるなあ」
「まだ何も解決してねーよ。大体どこに置くかの寸法もわからないしだな」
「じゃあメジャーだけ買って帰ろう。朝霞、付き合ってー」
「えっ」
「だって俺寸法とか全然わかんないんだもん」
だから180センチに迫る男が“もん”って言うな“もん”って。
そして気付けば俺は来たときと同じ、大石の車の助手席に座っていた。大石の言動に特別勢いがあるワケでもないのにどうして言われるがままになっているのか。
「ほら、テレビでも匠は現場検証から始めるよね」
「え、それよりいつから俺が日曜大工まで手伝うような話になってんだ? 相談だけじゃなくてか」
「収納の匠、そこをなんとか」
「そもそも匠じゃねーし」
「知ってるよ、薫だよねー」
「そういう意味でもねーよ」
end.
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ビフォーアフターw 極小空間と百均の匠・朝霞Pである。あと今回もダジャレ回です。最近多いなあ。
ベティさんの収集癖に悩むちーちゃんと、極小空間の収納で戦ってきた朝霞P、需要と供給。でももっと言えば戦ってたのってつばちゃんなんだよなあ……
確かに中肉中背175としっかりした体つきの179の男が2人で美容機器のコーナー歩いてたらビックリする。ホームセンターにそんなコーナーがあるかどうかはげふん