「シャワーあんがと」
「ああ。あ、ドライヤーそこな」
「ん」
「「ん」じゃねえよ」
鏡の前に座って、トントンと自分の後ろに座るよう俺を促した菜月は、コンビニで買った1泊用スキンケアセットの封を開ける。まあ、大方お前が髪を乾かせとかそんなようなことなのだろう。酒の入った菜月のワガママは素面のとき以上だ。
久し振りに飯でも行くかという話になって、現在に至る。菜月は昼放送の収録を終えてから、俺はバイトを終えてからから菜月の部屋の最寄り駅で6時に待ち合わせ。相方が野坂だけにもしかしたらという予防線は張られていたが、合流は時間通り。
飯を食ったら俺が飲みたくなって、飲むなら二輪をどうにかしなきゃいけねえし、何かノリと勢いでムギツーに戻ってきていた。一夜を越せるだけの買い物をして、酒を飲んで。気付けば夜は更けていた。
「はい。30分00秒、押しなし巻きなし。今日の収録も無事終了しました」
「……5時半か」
「申し訳ございません、今日も例によって1時間も遅れてしまいまして、これを無事と言うには少々烏滸がましかったかと」
土曜日はいつものように菜月先輩との番組を収録する予定が入っている。暗黙の待ち合わせ時間は午後2時だ。毎回のように遅れてくる俺の悪癖は健在で、今日も息をするようにやらかしてしまう。毎回反省はしているが、結果が伴わない。
それをちょっと番組が上手く行ったからって1時間の遅刻をひっくるめても「無事」だなんて俺ごときがよく言えたなと。収録も残り2回だというのにそろそろ俺は無事に2時に間に合うように来てみたらどうだ。