「浅浦クーン」
「どうぞ」
やってきた彼女の手には、タッパーと紙袋。伊東家からの言付けとかおつかいという名目での訪問だという。さっそく嫁としての初仕事かと思ったけど、そんな話でもなかったらしい。
伊東家では毎年正月に本家で餅つきをしている。伊東の祖父に当たる人(アイツはじっちゃんと呼んでいる)がこの餅つきにかなり気合を入れるのだ。そうやって出来上がる餅は、配っても配ってもなくならないほど。
そうやって大量につかれた餅は鏡餅として飾られた後、ご丁寧に木槌で割って分配するのだ。今ここに来たのはそのおこぼれと言ったら難だけど、伊東家だけでは処理しきれない分だ。毎年のイベントでもある。