「あの、圭斗先輩、お話とは」
「ん、よく来たね野坂」
文系陣に聞かれたくない話をするには、やっぱり情報知能センターのロビーが最適だね。そう圭斗先輩に呼び出されて始まる話は、インターフェイス関連のことではなく久々にMMPの中のこと。
「僕は今昼放送のペアを考えてるんだけどね」
「はあ。それでしたら俺ではなく菜月先輩とお話をすべきだと」
「菜月さんとは少し話したんだよ」
「それではどのようなご用件でしょうか」
人数の都合上、MMP昼放送は最大でも4ペアしか組むことが出来ない。履修の都合や収録の事情を考えるとその幅はどんどん狭まり、正直、前に組んだことがあるとかないとかは問題ではなくなっていた。
現に、そういった都合によって俺は菜月先輩と過去2期に渡ってペアを組ませてもらっている。本来なら好ましくないとされるけど、サークルの活動を絶やすよりはいい、と。
「このまま行くとどうも3期連続になりそうなんだよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「野坂、もしお前がいいと言うなら今期も菜月さんとペアを組むことになるけど、どうだい? もちろん今すぐに答えを出せと言うつもりもない」
「あの、菜月先輩のご意向は……」
もちろん俺はそのお話を断るつもりも断るだけの理由もない。菜月先輩と一緒に番組を作ることはとても楽しいし、俺もいろいろな刺激を得られる。ただ、邪な動機がないとは言い切れないのが辛いけど。
「ほら、菜月さんはああだろう? 彼女の能力を如何なく発揮させるには、やっぱり慣れた環境の方がいい。彼女とペア決めの話をしてたときも、それとなく自分とお前を組ませようと操作してる感はあったね」
「はあ。菜月先輩が俺と組むことを望まれるのであれば光栄ですし、これ以上の幸せはありません」
「ああ」というのは菜月先輩が極度の緊張から起こされる過呼吸の発作のことを指しているのだと思う。俺も緊張には弱い方だけど、菜月先輩のそれは俺の比ではない。
幸か不幸か、これまで2期連続ペアを組んだことで菜月先輩の中で俺はやりやすい相手だと認識されているらしかった。俺も、菜月先輩を支えること、菜月先輩の話を聞くことが出来るのなら言うことはない。
「そしたら、菜月・野坂ペアは火曜オンエアで確定するよ」
「よろしくお願いします」
「いや、よろしくお願いするのは僕の方だ」
「えっ」
「野坂」
「……はい」
「菜月さんのこと、頼んだぞ」
「はい…!」
多分、番組のこと以外にもいろいろな意味があったんだと思う。圭斗先輩のその言葉に、俺は力強く頷いた。
3年生にはあと半期しか残されていない。その短い時間を充実した物にしていただくためにも。もちろん、菜月先輩だけではなく圭斗先輩にも。
ところで、圭斗先輩は最後の半期をどう過ごされるのだろう。出来れば、最後に1度だけ、5分でもいいいから圭斗先輩と番組を作りたい。いや、それは高望みし過ぎか。
「すると、ペアは可能な限り数を組んだのでしょうか」
「ん、もちろん。三井は誰とも合わなさそうだったけどほっといてもマルチでやるだろうし、僕はりっちゃんと2期連続だ」
「律の奴め! なんて贅沢な!」
「ん、お前はインターフェイスの誰もが羨む菜月さんと、1年半もペアを組むという最上級の贅沢を味わうというのに何が不服なんだい?」
「あ、いえ、ありがたいですとても…!」
end.
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MBCCでも似たようなお話を最近やったのですが、これがMMPだとどうなるのかなと思って書き始めたのがこのお話。
やっぱり人数の少ないMMPでは誰と誰がいつ組んだとかそんなことよりサークル活動をやることの方が優先されるので、2期だろうが3期だろうが関係なくペアになるよ!
そう言えばペアを組むのが禁止されているノサカと圭斗さんである。ノサカの高望みも意外と高望みじゃないのかもしれない。