何の気なしに立ち寄った図書館で見つけた姿は女生徒らしからぬ、と言ってしまっては時代にそぐわないと言われそうだけど、スポーツ新聞を読む女生徒なんて、大学の図書館ではそう見ない。
しかもその人が俺のよく知っている先輩だ。確かに、図書館にはいろいろなスポーツ新聞があるからそれを読んでるとは聞いたことがある。申し訳程度に置かれた家電雑誌には目も暮れず。
「菜月先輩、おはようございます」
「ノサカじゃないか。おはよ」
「野球ですか」
「野球だな」
向島大学放送サークルMMPの関心事と言えば、プロ野球のあれこれ。スポーツ全般に興味のない圭斗先輩とサッカー派のヒロ以外は、何となく野球のことを気にしていたりする。
向島にも球団があるけど、菜月先輩はこっちに住むようになってから生活目線で少し気にするようになった程度で、本命の球団は別にある。ただ、野球関連のローカル番組なんかはご覧になられるようだ。
「まあ、今じゃ本命よりそっちの方が知識がついた感があるな」
「地元だとそうなります」
そもそも球団のない地域の出身でいらっしゃる菜月先輩が、どうして縁もゆかりもないチームを好きになったのかは謎に包まれている。物心が付いたときにはとは聞いたことがあるけど、球場には行ったことがないらしい。
「ノサカ、お前はドームに行ったりするのか?」
「昔に何回か行ったきりですね」
「そうか」
すると菜月先輩は、ローカル局ならともかくキー局の地上波放送はゲームや何かの体験版みたいだな、と怒りを伝えた。
ゲームの体験版と言えば、途中までは無料だけどストーリーを進めるには課金する必要があったり製品版を買わなければならない、あれか。
「9時までに試合が終わらないなんてザラじゃないか」
「そうですね。ちょっとしたビッグイニングがあれば確実に放送枠は越えますね」
「それなのに連中と来たら20時54分きっかりに放送を終わるだろ。地上波での放送が終わった直後に試合が動くとか嫌がらせ以外の何でもない。全部見たければCS放送を契約しろと言うのか」
その問題には俺もぶち当たったことがある。今なら対戦カードによってはネットでも見られるし、BSでの放送なら地上波よりも比較的長くやってくれたりするけどなかなかに。時代だろうか。
「確かにその辺りは世知辛いですね。野球中継の延長のおかげでその後の番組が繰り下がって行くことを嫌がる視聴者も多いでしょうし」
「そんな世の中だからサッカーは攻守交代がわかりやすいけど野球は勝手に裏表が変わるから意味不明とかいう頭の弱い奴ばかりになるんだ」
「菜月先輩、全国民が野球のルールを把握していて当たり前だとは思わない方が。それと、公共の場所ですので暴言は謹んでください」
すると菜月先輩は、新聞に隠れて顔までは見えていないだろうと開き直るのだ。決してそういう問題ではないのだけれど。と言うか、野球が勝手に裏表が変わるという発想はなかったな。
「まあ、行けるのであれば球場で観戦するのが一番だとは思いますが」
「解説がないとうち程度の付け焼き刃だと辛いからな。でも、卒業までに1回はドームにも行きたいな、せっかくだし」
――となれば、その時までにしっかりと解説出来るように俺も少しは勉強しておかなければ。いやいや、何を一緒に観戦する前提で考えてるんだ、恥ずかしい恥ずかしい。
「急に雑誌なんて広げて、どうしたんだ」
「いえ、AV機器に興味が…!」
end.
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菜月さんのワガママ放題と暴言を吐かせてみたかったですね! 野球は勝手に裏表が〜って……3アウトになったらって、明確なんだけどな
ただ、菜月さんもサッカーが嫌いとかってワケじゃないし、やってたらチャンネルを合わせたりするけど、あんまり詳しくはないよね。
「サッカーってどうして転んだら大袈裟に痛がって起き上がろうとしないのか意味分からない」とか言っちゃいそうだね。いっちーに怒られそうだ!