「おー、菜月ー!」
「亮介ー、去年ぶりやんなー! えっと、ヤスは?」
「ちょっと遅れるから先やっといてーやって。店行くか」
「やね」
夏振りに実家に帰ってきた。年末だからと言って特に何をするでもなく、強いて言えば悪友と忘年会をやるくらいだ。悪友の片割れで、今は青丹エリアに出ている橘亮介とまずは落ち合う。奴は高校の同級生だ。
こっちに友達があまりいないというか、わざわざ会おうと思うような間柄の人間がいないと言う方が正しいかも知れない。進学の度に友達関係はリセットされるけど、それで残る人は友達と自信を持って言える。
「亮介、今回何の店?」
「串カツ」
「いいやん」
「やろ? 去年鍋やったし、今年は別のモンにしようかと思って」
こっちに戻ってくると、向島にいるときとはまた違う言葉が自然と出てくる。言葉と言うか、方言とかイントネーションとか。放送サークルのアナウンサーだったという事情もあって気を遣っていた部分だけど、こっちでは関係のないことだ。
今回の忘年会会場の店に着くと、赤提灯の掲げられたいかにもな店だった。路地を1本入るし、うちの地元ではないからここも知らない世界のように見える。1人ではちょっと怖くて歩けないかもしれない。
「じゃ、先入っとるか」
「そやね」
席について、最初の一杯を。意外に果実酒や甘い系のお酒もあるようでうちも困らなさそうだ。亮介はビールを頼んで、串も少々。レンコンや椎茸は絶対に外せない。肉よりも根菜やキノコがうまーだと思います。
「そんじゃ、ヤスが来る前に乾杯の練習でもしますか」
「いえーい」
「そんじゃ、かんぱーい。くーっ、美味いねえ」
「林檎酒うまー」
互いに緑風エリアを離れているし、今年あたり1回どっちかがどっちかの方へ遊びに行くかという話にもなっていたけど、タイミングが合わずに話は流れてしまった。果たして来年は遊びに行ける、もしくは遊びに来れるのか。
「そうそう菜月聞いて、俺こないだバドの大会で優勝したよー」
「ホンマに!? やるやん」
「いやー、頑張ったよねー」
亮介は中学の時にやっていたバドミントンを、大学に入ってからサークルでやり直したらしい。確か高校では帰宅部だったと思う。3年もブランクがあってよく大会で優勝するよなあと素直に感心する。
「オリンピック出る的なこと?」
「さすがにそこまでは行かんね。大学のサークルのエリア大会レベルやからね。あ、そうや菜月。菜月って確か向島大学やろ?」
「そやね」
「前原君て人知らん? 俺らとタメなんやけど」
「知らんよそんな人。えっ、捜さんなん?」
「捜さんくてもいいけど、知っとったならいいなーと思っただけ」
「ちなみに、どういう関係なん?」
「中学ン時にエリアの大会で当たって負けてんだよなー。向島でバドやってるって風の噂で伝わってきて、あれーもしかして菜月と同じ大学じゃねって思って聞いてみただけー」
「再戦したいん?」
「まあ、それもちょっと」
ビール片手に語る亮介の饒舌なこと。って言うかその前原君とかいう人もこの時期だったらこっちにいるんだろうし、お前の人脈で誰か知ってる人を探せないかと思ったけど……ああ、最初の候補がうちだったのか。
「亮介、ヤス遅い」
「まあ、ヤスだし。最悪俺らのデートでよくね?」
「レンコンと椎茸追加。あとササミと」
「はいはい」
今年は年末年始の休みが短いと言うけれど、学生にはあまり関係のない話だったりもする。明日のことを考える必要もなく、うだうだとくだらないことを話しながら酒を引っかける。そんな路地裏の一幕。
「菜月、お前はどーなの最近」
「どーもせんよ」
「イヤリングどうした。耳飾り変えた?」
end.
++++
菜月さんの地元でのお話。モブだと見せかけて長期休暇には出てくるかもしれない拳悟ポジキャラになったらいいなあ、亮介。土地柄難しそうだけど。
この話のポイントは菜月さんの喋り方が緩くなっているところ。ノサカなんかが目の当たりにしたら感動して涙を流しかねない。
菜月さんの耳飾りに関してはお察しの案件。結局いいメガネケースは見つかったのかね……新年明けてからかな