「野坂、7700円足りない!」
「マジで」
星港大学サークル室に、バチバチと電卓を叩く音が響いている。夏合宿が終わってからも夏合宿の呪縛からは解き放たれることはない。ちゃんと会計を閉めて、全体打ち上げをして、というところまでが合宿に関する仕事だ。
対策委員の会議とは言え今回はお金を扱う仕事がメインということで、会場もいつものコーヒーショップではなく星大のサークル室。それならばと番組の同録をコピーしようと考えた班長も多い。
果林がコピーしている4班の番組が流れる中で、会計のつばめが何度も何度もレシートや帳簿を確認している。帳簿が7700円も合わないとなれば大事件だ。
「だって備品ってレシート全部もらってるしもうお金返したよね?」
「うん、もらってる」
「そしたらあとは施設利用料くらいしか思い当たるところがないんだけど。誰かここから立て替えてるとかないよね?」
班長連中が記憶を擦り合わせながら、つばめはもう一度電卓をものすごい早さで叩き始めている。さすが経営学部、そういう数字に強いんだな。そんなことを言うと、経済と経営ってやってること全然違うから、と一蹴されるのだ。
「洋平は経済だから簿記もやってるし電卓叩いてナンボみたいなトコあるけど経営は必ずしもそうじゃないから」
「へー、そうなのか」
「あーやっぱ7700円足りない。やっぱ誰も立て替えてないよね?」
「7700円って言うと、ちょうど一人分の施設利用料だけにやっぱ怪しいよな」
施設利用料に関する記憶を擦り合わせて1班から順に1人ずつ聞いていくけど、やっぱり誰も立て替えていないと答えるのだ。消えた7700円の行方につばめが頭を抱えていると、啓子さんの携帯が鳴る。
「はいもしもし。ああ、直。どうした?」
相変わらずつばめが電卓を叩いている音がバチバチと響き、そこに折り重なるのは啓子さんのため息。お疲れ、と電話を切れば、オーケストラの指揮者がするようにつばめの電卓演奏を止めるのだ。
「つばめ、7700円の件解決」
「どゆこと?」
「ヒロ、アンタ7班の子のお金、直に立て替えさせたでしょ」
「そう言えばそんなコトもあったかもしれん」
「直が、ヒロが対策の予算から7700円くれたって言ってた。で、お金忘れた子からも7700円返ってきたみたいだから直の手元に7700円多くある、って感じかな。はいつばめ、とりあえずアタシ今出しとくからこれで合わせといて」
「はーい、Kちゃん確かに。そしたら後はKちゃんと直クンの間のやり取りになるんだよね」
足りないお金が戻ってきて、つばめは安堵のため息を。それも束の間、次に降って沸いてくるのはこの事件の元凶への怒りと呆れ。
「てかヒロアンタ会計の袋触るなら許可取れっての」
「ゴメン、会計の袋ノサカ持っとったしつばちゃん見当たらんかったし急ぎやったし。てか何でノサカボクが会計の袋触ったん覚えとらんかったん」
「俺の所為にするなよ。って言うか俺お前に一瞬袋預けただろ、その時に持ってったんじゃないのか」
「向島の仲間割れはどうでもいいけど、持ってったなら持ってったでどっかに書いとくとかさ」
「ボク対策の予算から出すって言ったんにさっとお金出せてしまう直クンのイケメンさにも問題があると思うんやよね」
「直クンの所為にするな。イケメンを妬むとかやってることがこーたレベルだぞ」
「あっそれはないわ」
「はー、何はともあれ合宿の会計はおしまーい! 今日はる〜び〜飲むぞー!」
そして部屋には相変わらず4班の番組が流れている。1秒1秒重ねていく数字を眺めて果林がぽつりと呟くのだ。
「あ、そうだつばめ、同録のMDって対策の予算から出るんだよね? はいレシート」
「……もっと早く出せ果林のバカ!」
end.
++++
よーく考えよー、お金は大事だよー、の会計回。つばちゃんの電卓捌きは激しそうですね。
ヒロの班の副班長をしっかり者の直クンにした対策委員、地味にファインプレイなんじゃないかなど。あと向島(ノサヒロ)の仲間割れは基本。
そして、本人のいないところでボロクソに言われる神崎www ウザドルが地味に酷い扱いですね、いないのにw