「トリックオアトリート〜! はい朝霞クンど〜ぞ〜」
「それ、お菓子もらう方が言うヤツだろ」
「細かいことは気にしないで〜。ハッピーハロウィーン」
案の定、朝霞クンはブースに籠って作業をしていた。大学祭前で、大祭で何かをやる学生が授業に行く行かないは半々くらいになるけど、朝霞クンは余程のことがない限り出ないタイプだから。
来る途中で買ってきたコンビニプリンとスプーンを置いて、目の前に迫った、でも実際当日にはやらないであろうハロウィンの言葉をかけた。
「ナニ人のこと眺めてんだ」
「朝霞クン、プリン食べて」
「は?」
「いいから。今すぐ食べて。振って飲むの無しね。スプーンを使って一口一口を味わいながら食べて」
「何で食い方まで指図されなきゃいけないんだ」
「いいから」
つばちゃんからも聞いているし、椅子の向こうに積み上がった缶とパウチが何よりの証拠。ここ最近の朝霞クンは固形物を食べていない。
そもそも人間というのはレッドブルとゼリー飲料だけで動けるようには出来ていない。仮に動けたとしても後に響く。最大限妥協した結果のプリンは、Pの命を繋ぐため。
「ねえ朝霞クン、返事しなくていいから聞いてね。学祭までもうすぐじゃん。それが終わって、引退して。朝霞班を解散した後の俺たちって、どうなるのかな」
今までよく言ってきたのは、俺と朝霞クンはあくまでマスターオブセレモニーとプロデューサーの関係だということ。それ以上でも以下でもない。
当時の川口班で活動を始めて、互いに自分のやるべきことを意識し出したらどことなくビジネスライクって言うか、相互理解はあるけどオフは必要以上に踏み込み過ぎないみたいなところがあって。
俺としてはそれがありがたいと思うことも多々あった。だけど、一緒に映画を見るのもステージのため、ごはん食べてても話題の中心はそれ。じゃあ、それが無くなったら何が残るのかなって。
こんなに互いを理解して、多分信頼し合ってるのに。前にも朝霞クンには言ったけど、俺は最後に友情のような物が少しでも残れば嬉しいと思う。
「何て言うかさ、ステージだけで終わっちゃうのも寂しいよネって」
朝霞クンは俺が一方的に喋ることを聞きながら、プリンを一口一口、ゆっくりと運んでいる。食事中にはよくある構図。そして朝霞クンは一旦スプーンを置いた。
「学祭が終わったらどうなるかなんて、まだ考えてない」
「そうだよね」
「だけど、俺はお前との関係がそこで途切れるとは不思議と思わない。俺はお前の店にも普通に飯食いに行くだろうし、お前は学内で俺の顔を見つけたら声をかけるだろ」
「うん、だろうね」
「続くんじゃないか? この生活がたたって俺が死ぬとかでない限りは」
それだけ言って朝霞クンはまたスプーンを取って、プリンと一緒に底のカラメルをすくって口に運ぶ。
「続くならさ、朝霞クンにお願いがあるんだ」
「ん?」
「笑って」
「は?」
「今はまだいい。だけど、学祭が終わって、ステージとか部活とかそんなのが全部なくなったら、俺に向けて笑ってほしい。今までずっと俺に対してはより良いプロデューサーであろうとして力入ってたでしょ。俺は朝霞クンのことは大体理解してるつもり。だけど、俺は朝霞クンの笑顔を知らないんだ」
そのお願いに対する返事も今は求めていない。朝霞クンのことだから、イエスでもノーでも大学祭が終われば言葉じゃなくて態度で示してくれるはず。
そして朝霞クンは無言のまま最後の一口を飲み込み、ごちそうさんと手を合わせた。ステージがなくなっても、明日は来るんだ。
end.
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星ヶ丘ブーストで大学祭前の洋朝。ちょっとしんみりしたお話。ステージを取ったらこの2人に何が残るのか。
エナジードリンクとゼリー飲料よりはまともな食べ物としてチョイスされたのがプリンである……一応卵料理に分類されるかしら。
この生活がたたって俺が死ぬとかでない限りは。……ないとは言い切れないところが朝霞Pの怖さである