今日も今日とて対策委員の会議が行われている。6月アタマの初心者講習会に向けて、準備することはいっぱいある。講師はどうするとか、場所はどうするとか。
今日は20分だけの遅刻で済んでみんなから拍手で迎えられた野坂が話を進めていくのにはまだ慣れない。誰が話を進めようが、アタシたちの前にある問題をひとつずつ潰していくだけ。
「ところで、初心者講習会の場所はどうする?」
「今年も青女かなあ」
思い当たるのはやっぱり去年の会場である青葉女学園大学。アタシは女子だからそのまま入ったけど、男子は学校の敷地に入るときに「入校許可証」と書かれた札を服につけていたのを覚えている。
「ゴメン、青女は無理」
「え、どうしたの啓子さん」
「最近学校の制度が変わって男子は完全に敷地内に入れなくなって」
「あ、そうなんだ。じゃあ青女以外で考えるか」
そうなったときにどこでやるのがいいのかを考えると、やっぱり移動のことだとか機材のことだとか、いろいろ考えることが出てくる。緑ヶ丘と向島はラジオの設備が充実してるけど遠いし。
「まあ、星港市内の方がいいよね。星ヶ丘は」
「あの幹部連中に言うだけムダでしょでしょ〜、ってか」
「消去法で星大になりそうだけどツカサ、大丈夫そうか?」
「大丈夫だと思う。ウチの上の人と相談してみる」
「それじゃあ、頼む」
場所のことはツカサに任せて、ひとつはとりあえず解決。そして始まるのは雑談……じゃなくて他校との情報共有。これは定例会でもよく行われているぐだぐだな……じゃなくてれっきとした活動。
「つか青女ガチで男子禁制になったんだな」
「あー、って言うか原因はウチの人のやらかし」
「ウチって、サークルの?」
「ほら、ウチらの2コ上にシーナさんているじゃん。あの人が部室棟に男連れ込んだ挙げ句救急車沙汰になってさ」
「うわっ」
「え、シーナさんてあれだろ、バタやんの彼女」
「ええっ!?」
ツカサがぶっこんできたこの情報には全員食いつく。バタやんというのは星大の2年アナの男の子。男子と言うより男の子っていう方がしっくりくるタイプ。名前も津幡瑞季だし。
青女のシーナさんとバタやんが付き合ってる、というまさかの情報にアタシたちは騒然となる。何故って、アタシたちは外の世界に出るときに「シーナさんとは関わるな」と強く言われて出てきてるから。
「ツカサそれマジか!」
「最近彼女出来たって言うからUHBC2年で取り囲んで事情聞いたらそうだって」
「ツカサ、悪いこと言わないからやめさせた方がいい、今なら間に合うから。止めるなら青女総出で協力するし」
「ほら、俺とかテルは対策とか定例会で情報入ってるからあの人がヤバいんだろうなってわかるけど、バタやんは疎いトコあるし大石先輩もふわふわ〜っとしてる人だから、ヤバいっていうのに気付いてないのがヤバい、みたいな」
この話に全員が「うわあ」と引き始めていた。ちょっと青女事情を聞いてただけなのに思いがけずガチなヤツを突きつけられたから。すると、その空気を断ち切るように野坂がパチンと手を合わせる。
「とりあえず、瑞季死ぬなと対策委員からお見舞いを申し上げて次の議題に行こう」
「どしたの野坂、アンタ野暮ったい恋愛話好きじゃん」
「これ以上この話すんの怖くて」
「アタシは別に、誰が恋愛で身を滅ぼそうが内輪の気持ち悪いゴタゴタじゃなきゃ関係ないけど。他校同士の恋愛ならノータッチでーす」
「俺たちも一時的につばめのこの精神を見習って、次だ次。このままだと情報共有で会議が終わってしまう」
end.
++++
とりあえずいろいろとぶっこんだ対策回である。2〜3年かけてヤバさをじわりじわりと出していければ儲け物である。
対策委員の活動でも「去年」と「今年」の違いというものが少し出て来たりもして、掘り下げれば下げるほど闇に突っ込んで行く感じにしていきたいとかいうヤツ。
そしてこのままだとちーちゃん無能説が2年生にまで広がってしまいそうだけど……