「旅行のシーズンだねえ。アオキちゃんどっか行く予定ある?」
「そんな予定があれば働いてません」
「そりゃそうだ」
星港市某所写真屋。行楽シーズンということでカメラを買う人がいたり、記録メディアを買う人がいたりと地味に忙しい。まあ、世間の行楽シーズンが終わった後の方が忙しいんだけど。
ウチの店ではスタジオ写真なんかも撮っていて、最近はこどもの日の写真を撮っていく親子連れなんかが多かった気がする。ちっちゃな兜はまだまだ店先に佇む。
大学入学と同時にここでバイトを始めたアオキちゃんと、人の波が途切れた束の間のコミュニケーションを。ただ、このアオキちゃんがなかなかクールな子で打ち解けるのに時間がかかりそうでね。
「青山先輩は4年生ですからそんな暇もありませんよね」
「そうでもないよ、4年でも休みは休みだし遊ぶときは遊ぶよ」
「一般的な4年生は就職活動で絶え間なく動いているのでは?」
「まあ、そうだろうね」
青山和泉、星港大学4年。本来なら就職活動真っ盛り。あ、いや、誤解のないように言っておけば就活をしてないワケじゃなくてごく普通にバイトもしてるってだけで。
軽音サークルもそれまでと変わらない頻度で出ているし、勉強だってちゃんとしてる。学科では外国、とりわけ中国をはじめとするアジアについて専攻している。
就職活動はツーリストとかそっちの方をメインに動いていて、この写真屋のカウンターから見える真向かいの旅行代理店にも一応思うところはある。アオキちゃんが思うよりはちゃんと考えてるよ。
「勉強と遊びとバイトと就活のバランスってヤツだよね」
「意外とちゃんとしてたんですね」
「って言うかアオキちゃん俺をなんだと思ってんの」
そう聞くと、いっつもへらへらしてて何も考えてないように見えていると率直に言うものだから。うん、知ってた! でもちょっとくらいの辛辣さなら何てこたない慣れてる!
図体ばっかりデカいとか、変態とか、ごく普通の黒縁なのにメガネが胡散臭いとか、笑顔に裏がありそうとかよく言われる! でも他の交友関係だと殴られたり蹴られたりは当たり前だからね!
「俺の場合海外に行くことも勉強かなって思うよ。行かなきゃわかんないこともあるし。でも結構お金かかるじゃん。だから働かないといけないの」
「言い分は理解できます」
「あ、そういうワケだからアオキちゃん後でスタジオ付き合って。証明写真欲しいから」
「どういうワケですか」
「履歴書用の写真。大学のスタジオで撮ってもいいんだけど、社割使うとここの方が安いの」
「そうなんですか」
「ついでにアオキちゃんと赤ちゃんプレイで」
「は?」
ただでさえ鋭くて冷たいアオキちゃんの視線がさらに突き刺さる。せっかく打ち解けかけてたのに引かれたような目。確かに言葉の選び方は失敗したけどちゃんと意図があったのに!
「違う違う、俺を子供だと思ってあやすの! 接客の練習! アオキちゃんこないだも子供に泣かれたじゃない!」
「こればっかりは仕方ないですし、大人相手に練習しても」
「うーん、それでも一応ね」
そういうことなら付き合ってもいいですけど、また変なことを言ったらタダじゃおかないですよと睨みをもらえばスイマセンと謝るだけ。誰彼構わず殴られたいワケじゃないからね。
end.
++++
蒼希&青山さん、多分今期初登場。蒼希はともかく青山さんはこんなことでもなければなかなかに出番がね。うん。
殴られ慣れてるとか辛辣なのには慣れてる、というのは春山さんのあれこれである。ブルースプリングだけじゃなくて何気に同じゼミでもあったりする。
蒼希は例によって子どもに泣かれるのがデフォなようだけど、まあ、そのうち丸くならないものか……いや、無理かw