コンクリート打ちで、さらに奥まった廊下の突き当たりにあるサークル室は、暑さが外よりこもって大変なことになっている。ダイヤル式南京錠を解除して扉を開けた瞬間の熱気を想像すると……うわあ。
――というのを覚悟しながら扉を開けると、涼しい顔をして出迎えたのは直。ミキサー席に座って、機材のあれこれを調整しているようだった。ヘッドホンをしているから声はまだ届かないだろうけど。
「あれ、おはよう啓子」
「おはよう直。暑くない?」
「さすがにちょっとはね」
「ちょっとで済んでるとか」
用事も大体終わったし窓開けようかと直が窓を開けた瞬間、縦に長い部屋を通り抜けていく。入った瞬間は気付かなかったけど、うっすらとスースーする匂い。
どうやら直は、機材いじりの前にサークル室の整頓をしていたらしい。植物園イベントでしか使わないような物を収納する棚を組み立てたり、細かいゴミを片付けたり。物が散乱していた今までよりも、風の通り道も広くなっているように思う。
「何かスースーした匂いするけど、洗剤とか使った?」
「洗剤じゃなくて、部屋の何ヶ所かにハッカ油をちょっと。虫避けになるってLから教えてもらって」
「へー、そういうのでもいいんだ」
「あと冷感ローションみたいなのを作ってボクもつけてるから。あっ、ちょっとキツかったかな」
「ううん、大丈夫」
むしろハッカの香りでちょっと気分がさわやかになると言うか落ち着いてくると言うか。作業で集中力を高めたい時とかにもいいかもしれない。
水やエタノールなんかで薄めた物をスプレーするだけでも少しは違うらしい。市販のローションじゃなくて手作りしてしまうところがある種の直らしさかもしれない。
「おはよー、暑いねー、やってらんないわー」
「あ、Kちゃんに直クンおはよう」
「ヒビキ先輩紗希先輩おはようございます」
サークル室にやってくるなり机に突っ伏せたヒビキ先輩もこの暑さにやられているようで、一緒にやってきた紗希先輩は仕方ないでしょ、とヒビキ先輩を宥めている。
ヒビキ先輩を宥めながらも紗希先輩はタオルで汗を拭っているし、こうまで直が涼しそうにしていると、そこだけ異次元なんじゃないかとも思える。
「直クンは暑くないの?」
「ボクは、我慢できないほどでもないと言うか」
「こんな暑いのにイケメンオーラが崩れない直クンマジ神なんだけど!」
「ヒビキさっきからアイス食べたりしてたのに」
「何しても暑い物は暑いの食欲も湧かないし! 紗希、サークル室に冷蔵庫置こう!」
「場所も電源もないのにどうするの。あと、そう言いながらお菓子の袋開いてる」
吹き抜ける風だけじゃどうやらヒビキ先輩は落ち着かないようだった。直が作ったハッカ油のローションを霧吹きでちょっと撒いた方がいいんじゃないかと思う。
「あの、ヒビキ先輩、クエン酸ドリンクあるんですけどよかったら」
「ウソー! えっ、凍ってるじゃんすごーい! 直クンさすがイケメン!」
「直、アンタそれも手作り?」
「ハッカ油と一緒に買ったんだ。薬局でレシピ書いた紙取ってきてそれをアレンジしてみたんだけど」
半分凍ったままのお手製ドリンクにヒビキ先輩は上機嫌だし、紗希先輩もようやく一息ついたようだった。直は相変わらず涼しそうな顔をしているし、みんな落ち着いてアタシも少しずつ落ち着きを取り戻す。何というセラピー効果。まるでABCのギャルソンだ。
「直、そのローションって今持ってる?」
「あるよ。啓子も試してみる?」
end.
++++
ヒビキが単なるわがままっ子になりつつあるけどきっと気の所為、ということにしたい青女2・3年集合回。
今度は1年生も集めてみたい。でも青女6人が揃うとカオスなんだろうなあ……2年生が良識なんだろうね!w
そして直クンがだんだん掃除係みたいになってきてるけど、これは間違いなくLの影響なんだろうな!