*永戸サイド。

「…ね、永戸(ながと…)」

ニッコリ、と、柔らかな微笑みを浮かべ、俺の名を呼ぶ幼なじみ。

その笑みは…平凡な少年のもの。
けして可愛いとか美人といった類いではない。
はっとするような、顔でも、表情でもない。

でも…もう十年以上もその笑みを見ているというのに、微笑まれれば、つい顔が赤らんでしまう。


可愛い。

皆が皆、夢中になってしまう、天真爛漫な幼なじみが。


無性に、可愛い。
抱きたい。俺のモノにしたい。
女のように、抱きしめて、キスをしたい。
俺のモノを、こいつの尻に挿れたい。

ぐちゃぐちゃに泣かせて、喘がせて、必要とされたい。

そう思う俺は、異常だろうか。



「永戸…永戸は、俺の事、好きだよね…?」

「…あぁ…」

「愛してる?」

こてん、と首を傾げ、聞くその姿。
愛してる。愛してる。

こいつを愛してる。

いつも愛してる?と聞く幼馴染に、その数だけ俺は返事を返す。

自分の想いを込めながら。


「…あぁ」

「ほんとに?」

「ほんと…だ…」


愛してる、俺は幼なじみである鳩山羽住(はとやまはずみ)を愛してる…。

俺のすべてをかけても。

羽住が好きだ。

他の誰にも渡さない。
渡したくない。
俺だけのものにした。

みんなが夢中になる、幼馴染を。

たとえ、何かを犠牲にしても。
それでも、俺だけのものにしたい。

自分が悪者になっても、羽住を愛している。

だから、何回だって、その問いに愛していると囁ける自信がある。


「俺は羽住を愛しているよ」

 俺の返答に羽住は、嬉しそうに笑い、
「じゃあ…俺のお願い…聞いてくれるよな…?」

ふふ、と声を出し甘えるように俺の首に腕を回した。

俺の返事はいつだって同じ

「あぁ…」

羽住…お前の為ならば。

「なんだってきいてやる」

なんだって、聞いてやる。

お前の望みをすべて。

すべて叶えてやる。


けして、お前は俺を愛してはくれないだろうけど…。



     
          *
お友達になろう≠サの一言から始まった。

俺の羽住への執着は。



 俺と羽住は、幼稚園の時からの付き合いで、家が隣同士の幼馴染だった。
俺の家の窓から、羽住の部屋が見える。
それほどまでに近い距離に俺たちの家はあった。


 母子家庭の俺と、家族に愛され育った羽住。
平凡、なのに家族に愛されて育った羽住は、とても心優しく、母子家庭の俺にいつも優しく接した。

昔は、母子家庭で裕福な生活が送れなかった為、学校の備品を買えないことが多々あり、それが元で、クラスメートからはかなりからかわれた。

貧乏貧乏な永戸貧乏。


昔から、俺は可愛らしい性格をしていない。しかも、目は鋭く、無愛想だから、よけい疎まれたり、怖がられる。

俺をからかってくる奴は、張り倒し、逆に泣かせることが多々あった。
そんな俺を、周りはいつも遠巻きに見ていた。

傍にいてくれたのは、羽住だけだった。
俺を必要としてくれたのも。


「永戸がどんな人間であっても、僕は永戸が好きだし、必要としているよ」

中学の時。
沢山悪さをした。夜中出歩くことが多々あった。
母親が嘆いたことも多かった。

そんな中、羽住は、けして遠ざかることなく、近すぎることもなく、俺を見ていた。
時に一人で泣いていた俺の母親のそばにいて。


『永戸は今、ちょっと、羽目を外しているだけだから。すぐまた、おばさんのところに戻ってくるよ』

そう言い続けたらしい。

今でも、母親は羽住がお気に入りで、俺よりも羽住を実の子供のように接する。
俺はいつまた、暴れるか、夜遊びして喧嘩三昧の日々に戻るか気が気じゃないんだろう。
どこかいつも俺たち親子には距離があった。

そんな距離を埋めてくれるのが、羽住の存在だった。
羽住がいなくては、ダメ。
俺には羽住がいないとダメだ。

俺は羽住を必要としている。
俺は羽住に恋してる。
恋に気づいてしまえば、時間も抵抗なかった。
ただすんなりと、羽住を必要としている自分に気づいた。


 高校はなんとかして、羽住と同じ学校に入った。
高校受験するころには、俺も落ち着いていて、反抗期を過ぎていたし、なにより羽住への感謝の気持ちが大きかった。
同じ学校に入れたときは本当にうれしかった。


ただ、羽住は平凡なのに、昔からどんな人間も惹き付けてしまう。
一緒にいられれば、それでいいと思ったのに。

傍にいればいるほど、もっともっと、と欲が出てしまう。
ただ傍にいるだけじゃ、満足できない。


 入学した高校で、羽住は学校の人気者を次々とひきつけた。

生徒会副会長、書記、会計、風紀委員、学級委員…。
羽住は自然と、その人間の淋しさやら必要とするものを嗅ぎ付けるんだろうな。

みんながみんな、羽住に狂い、自分のモノにしようと躍起になった。

唯一、羽住の虜になっていないのは、この学園で一番の人気を誇る、生徒会長くらいだった。

そんな生徒会長を、羽住が好きになったといったのは、ちょうど、学園に入学してから2か月目のことだった。



「ながと…俺、会長のこと、好きになっちゃったんだ…」

そう、顔を赤らめて話す羽住。

「永戸…永戸は俺のこと、好きでしょ?だから…」

俺の言うこと、なんでも聞いてくれるよね?


恋は、した方が負けだという。たぶん、想う量が多い方が、自然と惚れた相手の言うことを聞いてしまうのだ。

好きなくとも、俺は。

「ああ…」

羽住の言葉をノーといえなかった。




永戸、お願いがあるんだ・・・。
あのね、日向会長に色目を向ける、上山をね、レイプして欲しいんだ。
もう学校に来られないくらい、めちゃくちゃにしてほしいの。
上山がいるから、会長は俺のモノにならないから。

いつもの羽住からのお願い。
羽住から相手を痛めつけレイプをしろ、と言われるのは、多々あった。
羽住は、それだけ会長が好きなのだろう
俺が羽住を好きなように。


「永戸だけだよ、こんなこと頼めるのは」

そういわれたら、俺には、逆らうすべはなかった。

狂ってる?そうかもしれない。
あいつが手に入るのならば。

誰が傷ついたって構わない。


 あいにく、俺は目が鋭く顔は強面で、黙っていればいつも不機嫌そうで、目があえば誰にでも殴りかかる不良、とうわさされていた。

だから、羽住にお願いされて、羽住の気に食わないやつにそれとなく忠告≠してきた。

といっても、素直に俺の言葉を聞いてくれる人間なんていないだろう。
だから、決まって、俺は「俺に無理やり強姦させられたくなければ、学校を退学するか、会長に近寄るのをやめろ」とくぎを刺す。

大抵、羽住が気に入らないというやつは、ちわわみたいに可愛い男ばかりだったから、俺が脅したらすぐにおびえ、学校を退学したり、会長に近づくのをやめた。

何人かは、俺の忠告を聞かず、会長に近寄ったようだけれど。
そんなやつらは、大抵、他の羽住シンパの餌食になり、学校をやめていった。

そんな学校をやめていった人間を見て、皆は「俺がレイプしたからやめていった」と誤解した。俺は今まで一度だって、誰かを無理やり抱いたことはないんだけどな。

まぁ、別に周りが何を言おうと関係なかった。羽住さえいれば。

そんな羽住狂いの俺は、周りから見ても一目瞭然で、いつしか羽住の犬と言われるようになった。

羽住が気に食わないやつは、俺に強姦されおもちゃにされる。
羽住が恋をしている会長に近づくものは、俺が強姦する。


羽住に内緒で制裁し、飼い主である羽住の安全を守るドーベルマン。
そう学園で言われるのが俺だった。


 今回、羽住がレイプしろといった、上山は、男にしてはかなり可愛らしい男だった。
ばさばさとした長い睫に、憂いを帯びた唇。長い前髪に、襟足までかかるくらいの男にしては長い髪。

男にこういうのは変だが、どこか上山は浮世離れした、色気があった。
ふっと微笑まれれば、たちまち、皆虜になるという。

羽住と違い、容姿に恵まれすぎた、その姿。

ただ、性格は羽住やクラスメートいわく内気で、いつも誰かの陰にかくれているような、そんな性格らしい。

人を引き付け、和ませる太陽のような羽住とは正反対的存在な人間だ。


 そんな上山は、会長とは幼馴染らしく、あの誰にも笑顔など向けたことのない会長が、上山には笑っていた。
それも、会長は上山の様子を気にかけているらしく、上山だけ、見つめる視線が違う。

会長は上山が好きなんだな…、と俺でさえわかった。
俺でさえわかったことを、会長に恋をしている羽住が気づかないわけがなかった。



「悪いな、上山」
羽住から、上山をレイプしろ、とお願いされて、二週間。
俺は上山を体育倉庫に呼び出していた。

大抵、俺を警戒して、呼び出しても俺から捕まえないといけないパターンがほとんどなのだが、上山は俺の呼びつけに律儀にも応じ、どこかこわごわと俺を見つめていた。


「あ・・・の…、」

黒い、大きな瞳。まるで女の子のように愛らしい小さくまとめられた顔。

羽住が嫉妬するのもわかる、可愛らしい少年。

上山は俺をじっと見つめ、俺を観察していた。


「ぼくをどうするつもりですか・・・」
うつむき震えながら、上山が俺に問う。
怖いんだろうか。
ぷるぷると震えるその姿は、まるで、小動物のようだ。


良心が痛む。
いや、今まで羽住が気に食わない人間は、毎回呼び出し脅してきたのに。
上山があまりにも可愛らしい顔で、怖がっているから、どうもいつもと同じではいられない。
でも、忠告しなければ。
このまま会長のそばにいるな、と言わなければ。
羽住が悲しんでしまう。


「会長と離れろ。これは、警告だ」
「けい・・・こく?」
「お前をよく思っていないやつがいるんだ。俺はそいつに頼まれた。だから・・・会長から離れ」

「いや・・・です」

きっぱりと、俺の言葉を遮る言葉。
予想だにしていなかった言葉に、一瞬息をするのも忘れる。


「だって、ぼく、会長のこと、好きだから・・・」

そういって、顔をあげる上山。
その瞳は、芯のあり、まっすぐ前を向いていた。


好きだから。
好きだから・・・か。
馬鹿らしい。

人を好きでいても、辛い思いをするだけなのに。

俺のように。


俺の忠告が聞けないならば、それでもいい。
傷つくのは、自分だから、
他の誰かに襲われてしまうのは、上山だから。

俺は忠告したまで、だ。


「そうか・・・」

そういって、上山に背を向ける。
いうだけのことは、した。
これ以上は、時間の無駄だ。
羽住には申し訳ないが、たたなかった、抵抗された、とでもいおう。

誰かしら、羽住のシンパが、上山をそのうち襲うかもしれない。
でも、それは俺の責任じゃない。


「・・・ど、どこへ・・・?」

どこか焦って俺を呼ぶ上山。

「忠告は、した」

「あ、貴方は・・・しないの?」
「…なに?」
「レイプ。貴方がレイプしたって・・・。会長に近づく人間を、あなたがレイプしたって…だから、僕…」

「・・・、」

俺がレイプした、ね。こいつもやっぱり噂を信じていた一人か。
震えていたもんな。

「あいにく、お前にゃたたねぇから安心しろよ」
そういって、今度こそ、上山に背を向けた。


他のシンパが上山を襲うのはいつだろう、

そうどこか他人事のように思いながら。
しかし、いつまで経っても、上山は学校をやめなかった。
それに、未だに会長のそばにいた。

俺同様、羽住に頼まれた委員長に上山のことを訪ねると委員長は青い顔をして、

「あんな子には、出来ません」

といっていた。
他のやつらも同様だった。


誰を差し向けても、けして学校を辞めない上山に羽住は焦れ…。

「お願い、永戸。俺あいつが会長の前からいなくなるなら、また、永戸に抱かれてもいいよ」
ついにはそういった。

また、羽住を抱ける。
羽住をこの腕に抱ける。

俺は羽住の言葉にうなずき、今度こそ、己の手で上山をレイプしようと決めた。


誰を抱いたって同じだ。それが羽住じゃないなら。
俺を嫌がっている人間さえ、抱くことだって、できる。



その日ものこのこと、上山は俺の呼び出しについてきた。
上山は危機感ってものがないのだろうか。
この間、俺は脅したというのに。

広い体育館。
上山は不安げに俺を見上げる。


「・・・、あの・・・」
「お前って凄いんだな」
「え・・・、」
「ここまで羽住の思い通りにならなかったのは、上山くらいだよ。みんな学校やめたり会長から離れたりしたし、な。

でも・・・悪いな。」


それも、今日まで、だ。
なぜなら、これからは、俺がこいつを抱くのだから。

会長のそばにいられないくらい、こいつを汚してしまうのだから。

羽住が好きな会長。その会長が好きなこいつを。


「大人しく、俺に、抱かれろ・・・」
「ぁ・・・、」

無理やり上山のシャツを引き裂く。
上山の白い肌が、あらわになり、俺は上山の肌に手を這わす。

「あ…や…、永戸くん・・・、」
「ごめんな…俺も、欲しいもんがあんだよ。絶対欲しいものが。だから、そのためにお前を抱く。お前はおとなしく抱かれろ」

眦にキスをする。
すると、上山は吃驚したように眼を見開いた。

怖いんだろう。
まぁ、いい。
いいんだ。

これで。
抱いてしまえばいい。

もう、会長に近づくことができなくなるくらい。

俺のモノで、汚してしまえば、いいんだ。




「あ…や・・・、永戸くん…ながと、くん…」

甘い声をこぼしながら、俺の名前を呼び、腰を振る上山。
可愛い顔が、淫らにゆがむ。

俺は、こいつをレイプしているんだ。
俺が好きな羽住。羽住が好きな会長が好きな、上山を。

俺が、喘がせている。

俺はどこか凶悪的な気持ちになって、上山の細い腰を本能のままにがしがしと自分勝手に動かした。


「やぁああああああー」


それから、何度上山を抱いただろう。
体育館で気絶した上山を抱いて帰り、意識のない上山に、また挿入した。

半ば事務的なセックス。
命令されたからしたセックスだったのに。

気が付けば、俺は上山の体を貪るように抱いていた。

体の相性が良かったのかもしれない。

さんざん抱いた上山の後始末をし、その日は俺の部屋のベッドで寝かせた。
次の日、朝起きたら上山がソファーで眠る俺を静かに見つめていた。

窺うような、視線。
どうして逃げなかったんだろう。

こんなレイプした男となんか、いたくないだろうに。


「わかった、だろ?会長に近づけば、俺はお前を抱き続ける。お前がここから出ない限り、俺はお前を抱く。だから早くここから・・・」
「抱いてくれる・・・の・・・?」
「は?」

よろよろ、とベットから降りて、ソファーへ近づいてくる上山。

まさかあいつ…昨日が初めてだったのか…。
そういえば、凄く血が出ていた気がするし、あそこが裂けてしまっていた。夢中になりすぎて、気遣う余裕がなくなっていたけれど。

ぐらり、と上山の体が前のめりに倒れる。
とっさに俺は、上山の体を胸で支え、腰を持った。

なにをやっているんだ、俺は・・・。
こんな無理やり抱いた男など、もう触られたくないだろう。


「すまない…」
そういって、体を離そうとすれば、上山は俺の首に手をまわして、ぎゅっと抱きついてきた。

「おい、なにを…」

つい声が上ずる俺。
だって、俺はこいつを無理やり抱いたのに。

顔をあげた上山をみると、とても晴れやかな笑顔で俺に笑いかけていた。


「や〜だ。抱いてくれるっていったじゃないですか」
「は?」
「ふふふ、変なかお〜」

上山は背伸びして、俺の鼻をきゅ、とつまむ。
な、なんだ…これ…。

口調も昨日までのおどおどした上山と違い、妙にはっきりとした明るい口調になっている。

「か、上山…?」
突然の上山の変化に、レイプした俺の方が焦っている始末。
そんな焦る俺をよそに、上山は俺にごろごろと甘えるように身をよせている。

な、なんだ…。


「あのね、誤解しておくようだけど、」

「誤解?」

「ぼくは好きで貴方に抱かれたんだよ?」

「は?」

俺が、好き?
俺が?

「まさか…」
「まさかじゃないよ、ほんとだよ。ぼくがすきなのは、貴方だよ。永戸君だよ。
ずっと見ていたの。ずっと抱かれたいって思ってた。だから、こうやって抱かれてうれしいんだ」


ふふ、と、本当にうれしそうに笑う上山。
ど、どういうことだ。
上山は会長が好きだって…。
なのに俺が好き?

どうしてそうなっているんだ?

「だ、だってお前、会長が好きだって」
「わからない?そういえば、君が抱いてくれると思ったから。だって、永戸君って、羽住君の命令しか聞かないし、眼中にないじゃない。他の子が告白しても見向きもしないし。だからね、羽住君経由で、君に僕を印象付けようと思って」

確かに俺は、羽住以外どうでもいい。
たまに、たまにだが、何を思ったか、俺に告白する人間もいる。
基本、羽住以外興味ないから全部断ってきていたが…。

上山は、背伸びをして、俺の耳元へ顔を近づける。

「あんな子より、ずっと僕は貴方を愛してる。だから、僕のものになって」

そして、俺のほおにちゅ、と口づけた。

なんなんだ、こいつは・・・。

俺はこいつを無理矢理抱いた。強姦した人間なのに・・・。
なんで…好きだと言える?
こんな…甘えられる?


「ね、ちゅーしましょ?」

なんで、こんなことを・・・?
なにかの罠か・・・。


上山の可愛い顔を見つめながら、唇にキスをされる。
自分の現状と心の変化に、俺は不思議でたまらなかった。