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マグロ番外編

マグロのゆきちゃんのお友達の和泉さんの話。



どうせ、上手くもないんだ。
だったらさ、誰も比べない人としたいって思うのは、普通デショ?

誰かと比べられるなんて、まっぴらごめん。
例え、誰かと比べて上手いねとも言われたくない。それって失礼でしょ。

プライドの上に成り立っている男にとって、比べられる行為ってのは、死活問題。
そう、男ってのはスッゴクナイーブなわけ。
オワカリデスカ?

些細なプライドも、見栄も虚勢もあるんです。
そう、男のプライドってやつで。

女の皆さまから見たら、それってしょうもないとお思いでしょうか。
だけど、仕方ない。其れが、男ってもんなんです。
人の目とか色々気にしちゃうんです、動物だってそうでしょ。
男の方が、色とりどりなの。雌を惹きつけるためにね。

本能ってあるでしょ?男はいつも、地位が上なやつがボスになるんです。
だから、誰よりも見栄とか地位とか気にしちゃうんです。
オワカリデスカ?

ただでさえ、見栄っ張りで、繊細な僕には、比べられることは何よりも辛いんであります。
だから、逃げちゃおうって、考えてしまったのです。
簡単思考ですね。
そう、オワカリデスカ?

 男ってね、見栄っ張りで、プライド高くて、繊細で。
でも、たまには甘えたいなんて、思っている訳です。

可愛いでしょ、男って。
存外、簡単なもんなんですよ。

知ってます?男の方が浮気が多いのはね、

男は寂しがり屋が多いからなんですよ。

だからね、浮気させない第一の方法は、寂しがらせずかまってあげる事、なんですよ。
子供みたいでしょ。

男ってそういうもんなんです。


―淫乱でも構いませんか?―

妖艶に、口端だけあげて。
流し目で、物欲しげに見つめる。

いつもかけている眼鏡がないぶん、視界が少し広く見える。
先ほどの僕と違うのか、僕を抱いている相手も、欲を隠そうとしない。

くらくらするほどの、淫靡。
欲情した、火照った身体。
愛撫にすぐ反応する、飢えた身体。
舌が、胸元を這う。ちろり、と恐る恐る滑らせる其の舌が堪らない。
男が動くたびに、声にならない声が漏れる。

「いいか…、」
「うん…」

相手のギラギラとした瞳、だけど、テクもありゃしない。
衝動的な行為。
だけど、そんな行為が、初々しくてかわいらしい。
きっと自信家だろうに…初めての経験に怖がっているのか。
途中で、ふと不安そうに、瞳を揺らす。


「うん…、すっごく、いいよ…、」

そう耳元で囁けば、相手は自信を取り戻したように、より強く腰を打ち付ける。
自信がついたのかな。なんて、簡単で可愛い相手なんだろう。
こういう人間は好きだ。扱いやすいから。

僕は、にやつく口元を押し隠して、相手にしなだれかかる。


「もっと、して…?」
「…、淫乱…が…、」
「うん、僕淫乱なんだ…、」

言いながら、こちらから腰をリズミカルに動かせば、男はうっ…と呻き、顔を顰める。

同時に、ドロリ、と、内部に熱いものが吐かれた。

ああ〜、早いなぁ。
俺様、の癖に、早漏なんて。
こらえ性のない。しかも、明らかに罰の悪そうな顔して。
もう、可愛いじゃない。


「イッチャたんだね…、すっごい、あつい…、」

繋がっている部分から出てくる、白濁を手にすくう。
見せつけるように、男に手を翳し、吐息を零せば、萎えていたはずの男のモノが再び擡げてくる。

「くそ…、」
「もっと、抱いて…、」
「淫乱が…、」
「うん…、」

そんなの、わかっているからさ。
早く抱いてってば。

五月蝿いお喋りする子は嫌いだな。

それ以上、男の言葉を聞きたくなくて、無理やり口を塞いだ。

「んっふ…、んん、」

絡み合う、舌。
室内に轟く、淫靡な水音。
熱い吐息と、媚びたような嬌声。

そして、愛のない、セックス。

「…んっ…ふ…んんん…」

それが、僕の日常だったりします。



情事後。
眼鏡をかけて、スーツを着る。
はい、どこからどうみても、エリートで生真面目なサラリーマンの出来上がりっと。
鏡を見れば、クールで、エッチなんか興味ありませんって顔のクールな顔。
冷たい美貌…ううん、可愛くはない。
美人顔、なのかな。
面長の、白い肌。すっとした、瞳。
目元の黒子は、妙にエロいとよく言われます。


僕を抱いていた男は、用は終わったとばかりに、既に部屋にはいない。
もう少しいたって、お金とかとらないのに。
もう少しいてくれたっていいのにね。ま、そんな関係じゃないけど。
一日だけの相手だったけどね。


周りを見回して、忘れ物確認。

「よし、なし」

わざわざ指さし確認し、部屋を出る。
ラブホに忘れ物、とか洒落にならないからね。
特に身分がわかるやつを置いて行った日には、もう大変ってレベルじゃないからね。うん。


抱き合った後の、軽い倦怠感。
えっと…何回やったんだっけ?
というか、相手の子、俺様の癖に雑なセックスだったなぁ。

あ、俺様だから、かな。今まできっと実生活でも奉仕ばっかりされていたんだろう。
男は初めてだけど、女は何度か経験しているみたいだったから、奉仕したことがないのかな。
先ほど抱き合った童貞君を思い出し、つい口が緩んでしまう。


 僕、和泉和己。趣味は童貞食いの童貞狂いの元バーテンダー。

童貞ばっかと寝ている、童貞食いだったりします。

童貞っていいもんです。特に年下って最高です。
何も知らないって可愛くないですか?
百戦錬磨の男より、なんにも知らない童貞男に色々教えるのが燃えるっていうか…。

そんな僕は童貞ばっかと寝ていたりします。
いや、男ですから、溜まるもんは溜まりますしね。

その欲を、童貞君で解消しているってわけです。
童貞の高校生とか、最高ですね。はい。


 恋人は、いません。
というか、作るの面倒っていうか…。

初めてセックスした時、マグロって言われて以来、トラウマが出来たのか、どうも他人と二回以上セックス出来ない身体になっちゃったんですよねー。

ま、不便ないからいいんですけど。


僕ってば、意外に美人らしいからね。
その手のお店にいけば童貞君は毎日抱き合えるし…。
一々相手見つけるのは、面倒だけどね。

今の生活にも満足しているし…。
また変にプライドを傷つけられるよりは、童貞相手にしていた方がよっほどましです。

今日の童貞君だって、荒々しかったけど、可愛かったし。満たされました。
ビッチですか?いいじゃないですか、誰にも迷惑かかっていませんし。

なんて、ほくほくした顔で歩いていたら…。

「「あ…、」」

ラブホの丁度出入り口で…、

「和泉…?」
「…ぶ、部長…、」

同じ会社に勤める、部長に会っちゃいました…。
あはは。
それも…腕には…、

「だぁれ〜?まぁくんの知り合い?」

生意気そうな、少年。ラフなTシャツに、ジーパン。
推定年齢…20代未満だろう。下手したら高校生くらいかもしれない。

う〜ん。部長、まぁくんって…。
あ、部長の名前って、小峰正行でしたね。だから、まぁくんっと。


「い、和泉…」

まぁくんこと、部長は、青い顔をして、汗ダラダラ。
そりゃあね…。会社では、いい部長として知られてますもんね。
僕も何度かミスを助けてもらいましたし。

あ、ちなみに。僕昔バーテンダーをやっていて、今はある会社の契約社員やっているんです。この部長が勤める同じ会社に…。

「こ、これはな…」
部長はどもりながら、目を泳がせる。
部下にこんなラブホ、しかも援助交際と思えるくらい若い男の子と一緒にいるの見られたらそりゃ、気まずいですよね。

いや、しかし…。
部長ってば、30過ぎの、結構男前でいい身体してるのに。
こんな、わっかいこと付き合ってるなんてなー。

というか、ゲイだったんですね、部長。
こんな身近にゲイがいたとは…。
それが一番の今日の驚きです。


「和泉…、そ、その…、」
「部長、こういうところで知り合いに会ったときは、スルーってのが相場ですよ?」
「あ…ああ…。その…」
「失礼しますね…、」

スマートに、去る。
僕は、会社用の猫を被ったまま、部長に別れを告げた。
会社では、僕、こう見えて、エリートでクールな男だからさ。

いつ、どんな時でもスマートなんです。

しっかし、こんなところで、部長に会うなんて驚いたなー。
部長も驚いていたけどね。

まぁ、僕、結構生真面目って噂立っていたから、ラブホから出てくるイメージなかったんだろう。

明日になったら部長も今日の事忘れてくれるといいんだけどな。


「部長、今日はお盛ん…かな?」

あの小悪魔みたいな子、部長はどうやって抱くんだろ。
他人事だけど、少し興味あるなー。

なんて、どうでもいいことを考えながら、帰路に向かう。


僕にとって、部長は…正直どうでもいい存在だった。
ただの、会社の上司。それだけ、だ。
そう、その日までは。



「部長、」
次の日。部長に誰もいない資料室に呼ばれた僕。
資料室につくやいなや、部長は僕に頭を下げた。

な、なに…。

「ぶ、部長…?」
「い、和泉…、俺…、」

頭を垂れた、部長。どこか哀愁、というか悲しげなその姿。

しかし、意を決したかのように、突然がばっと顔を上げる。

「見られたからには…隠しようがない…な…」
「はぁ…、」
「和泉、俺は…、その、ゲイ、なんだ…」
「はぁ…」

何をいまさら。
わかりますよ、可愛い男の子を腕にひっつけてラブホから出ていれば誰だって。

しかし、部長の言葉はそれだけでは終わらなかった。

「和泉…、その、俺は…お前が、すき、なんだ…」
「は…?」

真っ赤な顔をした部長。
聞き間違いかと、問い返す。

「部長、なに…、」
「だから、俺は、お前が好きなんだ!」

部長はやけになったように叫び、呆然としている僕の手を取る。

そして、

「んーっ」

動けなかった僕の唇に、無理やり自分の唇を重ねた。


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