スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

なぁなぁ2


おれの好きな人。
名前を、田村雅という。

大好きな、大好きなやつだ。

いつもおれの面倒みてくれるし、なにより優しい。


おれは、なんか、周りからかっこいいとか言われるんだけど、実際は全然ちがくて。


馬鹿だし、会話を理解するのが下手だし、アホなやつだった。


雅とあったのもたまたま、失敗して、泣いた時だ。


あの時は、まだ、誰も俺を理解してくれるヤツがいなくて。

俺は、初めて会った雅を睨みつけたんだ。

そしたら。
雅はそんな俺を嫌がりもせずに微笑んで。



『辛いの……?』

俺に、そう優しく尋ねた。


辛い。
そう、辛かった。

誰も、俺をみてくれなくて。俺じゃない、虚像の俺を作り上げていて。

凄く苦しかった。


それを吐露すれば、雅は優しく俺の頭を撫でて慰めてくれた。

『大丈夫だよ』
って。

その時思ったんだ。

俺を理解してくれるのは、こいつしかいないって

雅しか、いないって。


雅しか、俺にはいないって。


その時、俺は雅に恋をしたんだ。
雅は今まで俺に抱いてくれと懇願してきたやつと全く違った。

俺は雅を抱きたかった。
好きだった。

だから甘えたり、キスをねだったりするのに……


「はいはい、光は我が儘だな……」

雅は俺の気持ちが全く通じていないかのように、俺に接してきた。

まるで、ペットに対するかのように。


甘やかしもする。
チューしても怒らない。

でも、俺を、『男』としても見てくれない。

それどころか、きをぬけばすぐ、どこかへふわふわと消えてしまう。


ー雅、
俺の大事な、雅。


「雅……」

どうしたら、雅に俺の気持ちが伝わるんだろう。
どうしたら、雅が俺を好きになってくれるんだろう……


雅に甘えながら、今日もぼんやりとそんな事を思った。

なぁなぁ

あいつ…あいつは全て俺とは違う。

頭が良くて人気者で友達も一般いて。

なんで、俺となんているんだろう。



「雅[みやび]よそ見、しないで」
「はいはい」
「もっと、撫でて」
「はいはい」

言われた通り優しくやつのちょっと固めの、ツンツンしている銀髪を撫でてやれば、やつは嬉しそうに目を細める。

やつの名前は光善寺光一。
光という字が名前に二つもついているやつだ。

俺の名前は田村雅。
雅なんて女の子っぽい名前だけど、中身や外見は平凡ぼんぼん。

どこにでもいるようなやつだった。

それに引き返え……こいつ、光一は凄い人気者だ。

テストはいつも学年10番以内だし、スポーツをやらせれば、どんな球技も部活やっているやつよりも上手くこなす。

とにかく、漫画とかでいるような、美形で頭がよくてスポーツもできるようなやつ。


それが光一だった。


「雅〜」
「なぁに?」
「えーとね、俺雅のコト、好きだよ」
「…そう」

まるで、パタパタと尾をふり主人を待つ犬のように、俺を伺う光一。

俺も、好きだよ。

なんて。
言える訳、無い。

光一は、俺なんかよりも、ずっと凄い人間だから。


好き、なんてたやすく言えない。
そんな言葉で、しばっちゃ、いけない。




曖昧に光一の言葉に笑みを見せれば。
光一は少し顔を曇らせた。


「光一?」
「雅……」

ちゅ、ちゅ、っと顔中にキスを落としていく光一

光一のファンの子がみたら、きっと、憤死ものだろう。
「光一…」
「雅…」

なぁ。
いつまで光一は俺の事見てくれる?

なんで、俺なんか、好きなの?

頭を霞める思い。
でも結局、口にはできない。


弱い、俺だから。
お前の、言葉を、信じる勇気がない、俺だから。


「ね、雅」
「ん?なぁに?」
「覚えて、いて。俺は雅の為なら何だってできるから」

真剣な表情でいう光一。
トクン、と胸がなった。
心地好い、心音。


「光一……」
「好きだよ。雅」
「………うん……。」


ずっと、好きでいて。


弱い俺はそう願うしか、ない。

平凡でお前と釣り合う事ができない俺は。


ちゅ、っと音をたてて唇に光一はキスをする。


俺は堪らない気分でそれを受けていた。

ヘルプ

 拝啓、愛しのお兄様へ

お兄様、お元気ですか?
私(わたくし)は元気です。

でも、お兄様に会えないからちょっぴり毎日寂しいです。

私お兄様に会うために頑張りましたの。

お兄様に釣り合う女になれるよう、毎日頑張りましたのよ。


お兄様が男子校に行かれると知った日から今日まで。


私はお兄様を忘れた事はございません。


お兄様が華麗なフラダンスを踊れない人間とは付き合えないと、私をふったあの日から…
私今まで血を吐くほどの練習を重ねました。


今では、日本フラダンス連盟から賞を貰える程になりました。

きっと、お兄様もこれで私を好きになってくれるハズです。

この会えなかった何年間、本当に辛かったですわ。

手始めに、お兄様の学校お父様に言って買収させて貰いました。

これで、私とお兄様を隔てるモノはございません。

お兄様、私は早く貴方に会いたいです。


屋上にて、
腰みのふってお待ちいたしております。



愛しのお兄様へ

      軽部杏





ぐしゃり。


川下憲伸(かわしたけんしん)は手の中の物を音をたてて、くしゃくしゃに丸めた。
ジトリ…、とその厳つい顔の額には脂汗もかいている。

体は小刻みに奮え、顔色も悪い。


「ん?憲伸どうしたんだ?急に顔色悪くして…」


憲伸の異変に、友人・小暮が気付き声をかけても憲伸はその場に突っ立ったまま。

小さく身体を震わせながら、口をぱくぱくと動かす。


「…か、帰って来たんだ……あいつが……」
「…?あいつ?」

憲伸の表情は硬く、異常とも言える。

普段は無表情の、柔道部主将のこの男が珍しい…。
それも”なにか”に怖がっているようだ。



「…だ、だが…ここには来れないハズ…。
…だってあいつは…あいつは…」
「おにいさまぁー」


不意に、騒がしい声が聞こえてきた。
バタバタとした足音。

憲伸は反射的に逃げようと、声とは違う方へ身体を向ける。


「おにいさまぁー」
「ふごぉ…」

しかし、声の主の方が憲伸よりも反応は早く……
 気付いた時には憲伸は、声の主にガッチリと抱き着かれていた。

クルクルと巻き毛が可愛い美少女に。


「おにいさま、わたくし、ただいま戻りました」


ニッコリと少女が可愛らしく微笑む。
憲伸はその笑みで絶望にも似た立ちくらみがした。






川下憲伸。高校二年生。
柔道部主将。

ガッチリとした2メートル近い肉体に男らしい身体。

キリリとした眉に鋭い目はいかにも体育会系らしいワイルドな男だ。
少し、ゴリラなんかにも似ているかもしれない。


真面目で努力家。

しかもこの男、柔道部主将なだけあってやはり強い。
この学校では誰も勝てないほど、”無敗”記録も持っている。
得意の一本背負いは、今まで一度も外した事がないらしい。

普段無口な憲伸の視線はそれは怖いもので、学校内ではこの男は密かに恐れられていた。


そんな憲伸だが、たった一つ苦手なものがある。

それが、目の前にいる”美少女”だ。


「…杏…どうして…」

憲伸は少女を身体に貼付けたまま、動揺を隠せぬように言う。

少女はニコニコと嬉しそうに微笑みを浮かべながら、会いにきちゃいました、等と言っている。

少女の名前は、軽部杏。
先程、憲伸に手紙を出した人間だ。


「…な、んで…お前…」
「酷いです、お兄様。私ずっと屋上で待っていましたのに……放置プレイですかっ!それとも焦らしプレイですかっ」


うるうると目を潤ませながら、憲伸のシャツを握りしめ上目遣いをしながら見つめてくる杏。

その姿、どこぞのアイドルよりも数倍可愛い。守ってあげたくなるような、可憐な雰囲気がある。

少し垂れ目がちな大きな瞳。子供のような少し童顔な顔。
クルクルとした巻き毛はまるで人形のようだ。


憲伸は、真っ赤に赤らむ頬をそのままに必死に杏から顔を背けた。


「か、帰れ……。ここは、男子校だ。女のお前がここに来る事など……」

憲伸は絞り出すように杏へ咎める言葉を口にする。
元々、憲伸は口下手だ。

しかも、目の前にいるのが自分の苦手な少女だと尚舌が回らなかった。

そもそも、この少女がふわふわしていて人形のように可愛すぎるのもいけない。

憲伸は強い男だが、なにぶんモテない。
なにせ、くそ真面目で顔も厳ついからだ。

面と向かって憲伸に突っ掛かる《少女》などこの杏くらいなものだ。


「大丈夫ですわ。お兄様。私手紙にも書いた通りお父様に言って、この学校買収しましたの」
「何…」
「だから、ずっと一緒にいられますわ」


幸せそうに微笑む杏。

憲伸は思わず頭を抱えた。


「あのなぁ…」
「あ、私まだ入学手続きがあるんでしたわ。すいません、お兄様。後で屋上で…。私腰みの振ってお待ちいたしておりますわ」


杏はそういうと、ペコンと頭を下げバタバタと足音をたてながら姿を消した。
来るときも突然だが消える時も突然だ。

まるで、嵐のようだ。

憲伸は、杏が消え去った方向を向いてハァ、と深い溜息を零した。

「なぁ…、あの子って誰さ。お前にあんな子がいたとはなぁ…」


ニヤニヤ、と今まで黙って事を見ていた友人・小暮が馴れ馴れしく憲伸の肩に手を置く。

憲伸は若干眉を吊り上げながら、幼なじみだと小さく零した。


「うへぇ…あんなカワイコちゃんが幼なじみなの?
お前みたいなくそ真面目柔道命な硬派ゴリラが」
「………」
「正直、お前は余りにも女っけないから俺はお前をホモだと思っていたゼ?」

小暮はアリスの物語に出て来るチャシャ猫のように、からかうようにニヤァと笑みを浮かべる。


憲伸はそれを呆れたような目線で見、それから自分のクラスの教室へ何も言わずに入っていった。


「なぁ、お兄様って呼ばせているなんてずいぶんむっつりなのネ。憲ちゃんは」
「………」
「何々?どうなの?彼女とは?どんなお付き合いしてるのさ」


教室に入っても、立て続けに質問をしてくる小暮。
憲伸はそれをうるさそうに顔をしかめながら、自分の席の椅子をひいた。
小暮も当然のように、憲伸の前の席のクラスメートの席を勝手に座った。


「んで、なんであの子はここにいる訳?ここは男子校どころか外部生も入れないハズなんだけど」


小暮はニマニマと笑いながら質問を続ける。

相変わらず、憲伸はむすっとしたまま机に肘をつけそっぽを向く。

「なぁなぁ、どうなのさ…」
「……買収、したんだろ…」
「ヘェ。買収ねぇ…。凄いじゃん。
彼女。お金持ちなの?」
「……あぁ、島一つくらい軽々買える程な……」
「島!うへぇー。んじゃ学校なんか簡単に買えんじゃん。」
「そだな……」


憲伸は心あらず…というように適当に小暮の質問に返事を返す。

頭に占めるのは、杏の事だ。

杏は昔から、憲伸が言う事全てをやってきた。

テストで百点から始まり、可愛くないと駄目まで。


フラダンスを華麗に踊れないやつとは付き合えないといえば完璧にマスターし、やってくるし……
とにかく、杏は憲伸が好きで憲伸の為なら何でもしてくるのだ。


例え、それが自分の身を盾にしても。

 現に、今だって杏は自分に会いたいが為に学校を買収した…、と言っていた。

ここは、外部生入学など出来ないにも関わらず、だ。


「はぁ…。お前の為に学校買収しちゃうなんて…
なんてーの?健気?ていうか世間知らずというか……」
「それが、杏だ……」
「はぁ…。んじゃ何?
買収されたここはお前と幼なじみちゃんの《恋愛学園》になっちゃうわけ?」


うへぇ、やめてくれーといいながら舌を出す小暮。

案の定、小暮の仕種に機嫌を悪くした憲伸は気難しい顔をし眉を寄せた。

このチャラチャラとした小暮と憲伸は親友同士なのだが、如何せんタイプが違う。

憲伸は度々、この小暮の軽い感じについていけない時がある。


「…杏とは、恋人ではない……」
「は?」
「…杏は、俺の事を好いているらしい………だが俺は……」

憲伸は気難し気に唇をへの字に曲げる。
小暮はそんな、憲伸の表情に目を丸めた。

先程、憲伸に抱き着いてきた少女は大型でカタブツな憲伸なんかが抱きしめたら潰れそうなくらい、愛らしく可憐な少女だったからだ。

そんな少女にこのゴリラは思われ、尚且つ好きではないと言っている。

遊び人な小暮でさえ、あんな美少女付き合いたくてもなかなか付き合えないのにだ。


「お前は好きじゃないの?
あんな超スーパーカワイコちゃんを?」
「それは……」


憲伸は小暮の攻めるような口調に、口ごもる。

そして突然、イライラと小指で机を叩きはじめた。神経質そうに。


「な、なんだ…?」
「お、俺は……正直わからんのだ……。
そ、その。恋というものを……」
「はぁ…」

小暮はもごもご口ごもる憲伸に、思わず呆れたように言葉が漏れた。

恋をしらない?

いや、カワイコちゃんが「私、恋知らないの……だからぁ、教えて?」なんて言えばそれは可愛いだろう。

だが、しかし。

目の前にいるゴツく厳つい男が顔を赤らめそんな事を言っても……

全く持って可愛くない。
むしろ、寒いだけだ。


「あ、あの……憲」
「お、俺の事をあいつは……か、カッコイイなどと言うのだ……。
そ、側にいるとドキドキすると……」
「は、はぁ……」
「お前は俺にドキドキするか?」
「はぁ?そんな…滅相もない……」


その憲伸のコワモテから喰われるんじゃないかドキドキと思うときはあるけどね……。

小暮はひっそりと心の中で付け足す。


「だ、だよな……。杏が言うにはそれは杏が俺を好きだかららしいんだが……」
「なんだ、ノロケか」
「違……。
俺はどうしたらいいかわからないんだ……その、杏に対して……」
「はぁ…」

嫌いじゃないなら付き合えばいいんではないか?

小暮がそう聞くと、憲伸は首を横にふる。


「だ、男女交際とは……もっと礼儀正しく気持ちを重んじるものだ…」

と。


小暮は憲伸の返事に口をぽかんと開ける。

今時、そんな事言う男がいたのか…と。

「じゃあ、好きでも何でもないなら、そのままにしてたら?あ…いっそ嫌いって言えばいいんじゃないか?」


そして、泣いているところを俺が優しく慰めてやるよ。


小暮がそう呟けば、憲伸は眉を吊り上げ小暮を睨んだ。

その氷のような視線は軽く、人を殺せそうだ。
一般人ならこの目線だけで、気絶するだろう。

普段見慣れている小暮ですら、その視線には一瞬たじろぐ


「冗談だってば…。でもそんなに反応するんだ。お前だって杏ちゃんの事が気になってんじゃねーの」
「それは………」
「あーもうウダウダと…お前はどうしたいんだよ!」
「それが困っているからお前に聞いているんじゃないかっ!」

憲伸は唇を尖らせ、恥ずかしそうにそっぽを向く。

だからお前がそんな仕種したところで、可愛くないんだって……と小暮はうんざりと肩を竦めた。


「お前の正直な気持ちを言えよ。そしたら俺も的確なアドバイスをしてやる」
「正直な…?」

憲伸は縋るような視線を小暮に送る。

小暮はそんな憲伸を安心させるかのように、こくりと一つうなづいた。

憲伸はその仕種に安堵し、ゆっくり唇を開く。


「…俺は…、正直杏を可愛いと思っている………
だ、だが…俺はこんなだし杏とは釣り合えないと思っている。

恋をしているかと言われればわからないが、杏は嫌い…ではない。む、むしろ好きな方だ」
「へ〜」

この硬派で厳つい男がそんな風に思っていたとは。
憲伸を恐れている男達が見たらどう思うか。

考えるだけで、爆笑ものだ。

小暮は、特に憲伸を怖がっているこの学校の不良を頭に描く。

あんぐり、とした顔が簡単に想像がついた。



「そ、それでアドバイスは……」

ちらり、と上目遣いで小暮を伺う憲伸。

小暮は憲伸に、にっと微笑むと

「ま。恋愛なんてもんは頭で考えるより本能のままでいけばいいんだよ」

そういい放ち、ピン、と憲伸のデコにデコピンをする。

憲伸はデコを押さえながら、「本能…?」と首を傾げた。
「そうそう。あれこれ考えるよりも、突っ走った方がいいんだぜ?
ウダウダと言っている時間が無駄無駄。恋愛ってのはね、頭より体。気持ちで動くんだよ」
「……そういうもの……か」
「そういうもんだ」
「…そう…か」


憲伸は若干、顔を緩ませふんわりと笑う。

何故こうもこの男は厳ついのに仕種は可愛いのだろうか……


小暮は苦笑し、憲伸に親指を立てた。


「ま、頑張りたまえよ。若造」
「あ、あぁ」
「おにいさまー」

バタバタと騒がしい音。
杏が帰ってきたみたいだ。

「私正式に明日からお兄様と一緒にこの学園に通えますのー」


手をブンブンと振りながらこちらへやってくる杏。スカートを翻しながらずかずかと走ってくる姿は生足がチラチラと見え、刺激的だ。

杏の白い太もも。

杏は憲伸のもの、とわかっていてもついつい小暮は男のサガでひらひらと揺れるスカートばかり見てしまう。


「杏…そんなに走ると転ぶぞ」
「なぁに?おにいさ……きゃっ…」
「「杏」」

憲伸が言ったすぐ側から杏は体制を崩す。

憲伸と小暮は慌てて杏に近寄り……

数秒早かった小暮が杏を抱き留めた。


「……え……」

瞬間、小暮の右手手の平に有り得ない《物体》の感覚がする。

小暮の右手は、丁度腰を支えようとして失敗しあらぬ部分を触っていた。

そう、大事な……

ピーーー(放送禁止用語)


小暮はまさか…と思い、右手を動かす。

ぐにゅ。

ある。
あるのだ。
女になくて、男にあるのが

目の前の《少女》杏には。


「へ、へへ変態!!」

杏は思いっきり小暮を平手打ちにする。

そして逃げるように、憲伸の腕をとり教室を出た。



「おにいさま、あいつ変態です…あ、あろう事かぼく……私の…!
あいつ、きっと露出狂に将来なりますわ」

「いや、あいつは露出よりストーカーになりそうだぞ」


(変態はどっちだ!いや、それよりも憲伸!お前俺の事なんだと思っているんだっ)


小暮は廊下で大声で悪口を言っている二人に心の中で突っ込む。

そして、いまだに触った感触が抜けず固まってしまった右手を見つめた。


「男……だった……」

スカートの下に確かにあった《モノ》
それに、よくよく考えれば杏の声は女のものよりもハスキーな感じだった。

「…杏ちゃんは……」


軽部杏。
そこいらの美少女より可愛らしいお人形。

そして…

「男だった……」

可愛らしい男の子。


小暮は悩む。
ただでさえ、奥手でカタブツの親友にあんなアドバイスしても良かったものだろうかと……。



硬派な厳つい男・川下憲伸。

憲伸命で女装し、半ば本気で憲伸のお嫁さんになりたいと思っている軽部杏。




彼等の学生生活は始まったばかりである。

ナルシキッス

嗚呼、君はなんて美しいんだろうか…ー。


俺はそっと手をつき、君を見つめる。


 パチパチと瞬く黒い瞳。そして一重で精悍とした涼しげな目元。

薄い桜色の唇。
輝くような髪。
高い鼻筋。
吹き出物1つない顔。
すらりとした身長。
 完璧すぎる、君。


何回、何時間、毎日だって俺は君を見続けられる自信がある。

時間を忘れるくらい、君は綺麗でこの世のものとは思えない美しい。

これは、けして嘘ではない。


君のその、真っ黒な光沢のある髪はいつも天使の輪がついていたし、その真っ白な歯はいつだって輝いている。

その、きめ細かい肌はまるで玉のような肌であったし触れば柔らかな弾力性もありそうだ。

君が微笑めば、きっと星達は君の眩しさにパチパチと瞬くだろう。

そして君が泣けば、空や大地は君を傷付いた心を思い激しく荒れるだろう。

俺が今手に持っている薔薇が赤いのは…きっと君の顔を薔薇が見ちゃったせいだ。



 嗚呼、君は完璧すぎる…ー。
 175という君の身長は大きすぎも小さすぎもせず、毎日腹筋をしているその肉体にはうっすらと着痩せするタイプだが筋肉もついていた。

綺麗に張り付いた筋肉が。



 女の子が騒ぐ筈だ。
こんな美青年。
騒がない方がおかしい。
君はこんなに美しいんだから。

中性的で儚げで。

 まるで芸術品。
いや、芸術品よりも神々しい、神々が作った最高の品物だ。

きっと大昔、君がいたら君を巡って大勢の人間が血を流しただろう。

神様は粋な事をした。

君を、この時代に生まれさせたのだから。


君が大昔にいれば、キリストなんてきっと神等とは呼ばれなかった。敬われる事もなかっただろう。

だって神をも凌ぐ、君の美しさがあるのだから。
みんな君の虜さ。



 俺は君から目がそらせない。

君も俺をじっと見つめている。


時が止まったかのように見つめ合う。


この瞬間が一番、至福だ。


僕の瞳の中に君がいて、
君の瞳の中に僕がいるのだから。


お互い以外他の世界はないのだから

この気持ちをなんとよぼう?


愛?
恋?


そんな物ではきっとくくれない。


俺は君がいないと死んでしまうくらい狂っているのだから。

激しい恋の炎が身を焦がすように燃えるのだから。

愛や恋以上の、激しい思いを君に持っているのだから。


 俺はそっと微笑み君に声も出さずに口だけ動かし合図する。


“愛してる”


君も俺と同じように言葉を返した。


俺の切なくなる気持ちに君はちゃんと返してくれる。


嗚呼、泣きたくなる。

どうしてこの恋は禁忌なのだろうか。


そして禁断の恋こそ、最も美しいのだろうか。



 時々俺は無性に神という存在を恨む。

どうして俺は俺で君は君なのか。


どうして愛し合ってはいけないのか。


ただ、毎日切なくなるくらい見つめ合う純粋な恋なのに、どうして他人に後ろ指しされなくてはいけないのか。


これほど純粋で綺麗な、美しい愛などないというのに。


この世界は残酷だ。
俺と君との関係を受け入れないのだから。

俺は君と一緒になりたいくらい好きなのに。
 俺はそっと君の唇にkissをした。


唇に伝わる、君の冷たい感触。

触れ合う、指。

誰にも気付かれない場所で俺と君は今kissをしている。


誰にも秘密の、恋。
禁断の、恋。



余りにkissに夢中になっていて、俺の手から薔薇がはらりと地面に落ちた。

地面に薔薇の花びらがぱっと舞う。


俺と君を祝福するように。


俺は君ににこりと微笑む。


君も同じように、にこり、と微笑んだ。



禁断だって構わない。
この笑顔がある限り。


俺は、君を好きでいる。
君も、俺を好きでいる。

これ以上幸せな事はないから。


たとえ世界が敵に回っても。


俺だけは美しい君を、信じ愛し守り抜くのだ。


例え結ばれない愛でも。
道徳に反した愛であっても。


それでも俺は君が好きだから…。


俺は君を、愛しているから。


例え、後ろ指さされてもこの気持ちに嘘はつけないし、正直でいたい。


声を大にして、何度でも言ってやる。


俺は君を愛している。

美しい君を。

世界で一番愛している。
「おい、大作」

ああ、俺と君との時間を邪魔するやつが現れた。友人の香取だ。

ちなみに大作というのは俺の名前だ。全く非常にこの俺似合わない名前だが。


 「おい、大作ってば」
 「その名で俺を呼ばないでくれ」

俺は香取を嗜む。
香取はヘラリと、俺の言葉に愉しげに笑った。

全く、こいつはたちが悪い。


もっと君を見ていたいのに…

もうタイムリミットらしい。


時というのは非常だ。


俺はそっと冷たい君から指先を離す。


名残惜しげに、君を見つめる。君もまた俺と同じように切ない眼差しで俺を見ていた。


でも仕方がない。


俺が君を愛している事は、誰にも内緒にしなくてはいけないのだから。

秘密の、恋なのだから。


 「おい、薔薇落ちているぞ」
「あ…ああ。すまない」

俺は地面に落ちていた薔薇を拾ってくれた香取に一応礼をし薔薇を受け取った。

薔薇は相変わらず君の前だからか真っ赤に燃えるように赤かった。
「それにしても、お前くらいだぜ?

女じゃないのにこうやって鏡の前によく行くやつ」

「……」


佐倉大作。

俺は君に恋している。

嗚呼悲しい事に君は本当は俺自身なのだけど。


俺は、本気で俺を愛している。


他の誰でもない、俺自身を。

ナルシストと呼べばいい。
白い目で見ればいい。



 きっと誰よりも叫びたいくらい俺は俺を愛している。


それはもう禁忌的に。


世界中の、誰よりも。

片思い

本気にならない恋だった。
本気になってはいけない恋なのに。

僕は貴方が好きになってしまった。



<片思い>

ぼんやりと、窓を見る。
部屋の隅に存在する西側の窓。部屋の雰囲気に合うように付けられた淡い緑色のカーテン。

寒くなってきた最近では、夜になると薄い結露が窓についていた。
もうすっかり冬になったらしい。

曇りかかった窓ガラスを見て少し安心する。
はっきりと俺の姿が映し出されないから。
この、自分となんて向き合いたくなかったから。
雲っているくらいがちょうどいい。うっすらとした影を映しているくらいが。


僕はベッドに腰掛けながら、未だに隣で眠っている彼…横溝さんを横目で盗み見た。
横溝さんは規則正しい寝息をたて、胸を上下させている。

 珍しい。横溝さんがこんな、僕の前で寝るなんて。

よっぽど疲れたことがあったのだろうか。
普段は真面目で、けしてこんな風に寝てくれないのに。

真面目な横溝さんだから。

こんな機会、もうないかもしれない。

僕は横溝さんの姿を焼き付けるように、じっとその横溝さんの寝顔を見つめた。


僕と横溝さん。

僕と横溝さんの関係は…
褒められたものではないが援助交際だ。

高校生の僕を、横溝さんが買ったのだ。
といっても高校生だという事は横溝さんには秘密にしているけれど。

ただの‘売り’ってことにしている。
横溝さんは僕が高校生だという事は知らない。

横溝さんは客としてはとてもマナーがあるいい人で、それから優しい人だった。

そう、とっても泣きたくなるくらいに、優しいヒト。

優しすぎて不器用になる、ヒトだった。
『僕の妻がね、浮気をしろというんだ』
そう、初めて会ったときに言われた。
浮気をしろ、なんて普通の妻だったら言わない。
むしろ、浮気をするな、くらい言うだろう。

『僕の妻はもう長くないから。だから妻が言うんだ。私じゃない、別のヒトと恋をしなさいって』
『どういう意味?』
『私が死ぬ前までに、別の誰かと付き合いなさいと。彼女は僕を残して逝ってしまうことがよほど心残りらしい』

横溝さんはそういって、不自然に唇を歪ませた。

『浮気しろって言われたから浮気するの?』
『ああ。それが彼女の、望みだから。俺を救ってくれた彼女の望みだから』

どうやら横溝さんはとことん妻が好きなヒトらしい。
言われたからする、なんて。
でも、ここで些細な疑問。
何故、浮気相手が男の僕で。それから何故、別の誰かと付き合わなくてはいけないのだろうか。奥さんは、横溝さんを別の誰かと付き合わせようとするのだろうか。

それを聞こうとしたら、僕は横溝さんに唇を塞がれた。


『何も聞かないでくれ、お金は払う。だから…』

必死に、言い募る横溝さん。
その時の顔があまりに必死で…。

僕は何も言わずに首を縦に振ってしまった。



『何も聞かない。だって、僕らはお金だけの関係でしょ?』

その時、横溝さんにまだ恋をしていなかった僕は、そんな言葉を軽々しく吐けた。
まさか…そんな言葉を吐いた自分が、こんなに横溝さんを好きになることなんて思いもせずに。

こんなにも、この言葉が自分にとって、痛手になるなんて、思いもせずに。
横溝さんは、僕をまるで壊れ物を抱くかのように、抱いてくれた。
家に帰れない僕を、時々は宥めて。
泣きたいときはそばにいてくれて。

お金≠フ関係を忘れてしまいそうなくらい、優しくしてくれたんだ。
誰よりも、優しく。
時に、悲しく。


恋なんて、どこから恋になるのか。そんなものは大抵皆わからない。
僕も。
そんな恋に落ちていた。
わからないうちに、自分でも気がつかないうちに、横溝さんを好きになっていった。
僕の唯一≠ノなってしまうくらいに。

お金だけの、関係で。
貴方には奥さんもいて。
ほかには何も教えてくれないヒトなのに…。

僕は、横溝さんを好きになっていた。

とっても、好きになってしまった。

不毛な片思い。


いき場のない、思い。
「…ん…」
「あ、起きた…?」
「…とうまくん…?」

眼をパチパチと瞬かせる横溝さん。いつものきりりとした顔が、どこかぼんやりとしている。
どうやら、まだ寝ぼけているらしい。
普段まじめなヒトなのに…こんな横溝さんは珍しい。
僕はそんな寝ぼけ眼の横溝さんに苦笑しながら、彼の体にすりよる。

「横溝さん…」

貴方が好きです。本当に、好きになってしまったんです。

お金なんか、いりません。
僕は…。

思いが、心の中を充満する。
だけど、それは言葉にならずに、頭の隅に追いやった。

だって、こんな思いは、横溝さんにとって無駄なものだから。

ただの、お金の関係の浮気相手にこんな思いをもたれても、横溝さんはきっと迷惑だから。
これは不毛な片思い。
思いが通じるなんて、夢にも思わない。

恋の大半は、実らずに終わるもの。

そして、きっとこの恋も…。


「抱きしめてください…僕を…」


今日も、言えない。

貴方への思いが。

ぐるぐると、胸を締め付けて。

ただ、ないてしまうくらい好きなのに。

今日も、言えない。

貴方が好きなコト。

コレハ、カタオモイ……。


『貴方が…』
<<prev next>>