スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

親父小説

ただ単にやりたかった。
それだけ…かな。
好きじゃない。
ううん、むしろ気に喰わない。気に喰わない部類だった。
貴方のその瞳が気に喰わなかった。
貴方の真っ直ぐな心が気に喰わなかった。
だから
汚してみたくなったんです。
俺のあんたを見つめる理由なんてそんなもんですよ。
そんな、単純なもんなんです
好きとか
嫌いとか
ばからしい。
そんな鬱陶しいもんじゃないです
ただ抱きたいだけですよ
あんたを。
それだけです
愛とか恋とかくだらない。
もう逃げられませんよ。
俺が目をつけた限りは…ね。
「好きですよ」
「やめ…ろよ…、」
壁際まで追い詰めて、身体を密着させる。
心にもない言葉をはいて。
ふ、と顔を寄せれば、非常に単純で簡単な思考の貴方は顔を赤らめ眉を寄せた。
「ばか言ってんじゃ…」
嗚呼貴方は単純だ。
そして実に優しい人だ。
俺の好意の言葉に騙されて。
強くは出れない。
嗚呼なんて…
可愛い、人。
馬鹿らしくおろかな、人。

「好きなんです…南原さん…」
熱く掠れた声で呟けば、目の前にいる貴方…南原さんは口を真一文字に結んだ。
愚かで可愛い獲物の貴方の名前は南原豊(なんばらゆたか)
某会社の営業。
そして俺の取引相手。
なのに、俺にたんかを切った、どこにでもいるような親父だ。
歳は…38歳。
染めているのか、黒々とした髪に少し垂れた目元は年齢より若干幼く見える。
スーツも営業の癖に、デパートなんかで一万くらいで買えそうな、身体にあってない古びたスーツ。
申し訳程度にワックスで撫でつけられた髪は…どこか無理をした中学生のようだ。
こんな冴えない親父でも、既に結婚し子供までいるらしい。
こんな…親父が…。
笑ってしまう。
「南原さん…」
「俺は…男だぞ…?」
「見ればわかりますよ」
そもそも、女を口説くのは後々面倒になりますから。
もっと慎重に言いますけどね。
本気だったらの話ですが。
 貴方には惚れていませんし。
男なんて興味ないんです

ただ、無性にあんたを抱きたいなと思っただけ。
そんな事を噫にも出さずに、俺は壁際に追い詰められた南原さんの肩を強引に掴み抱きしめる。
「好き…なんです」
嘘です。
「貴方が…好き…なんですよ…」
ただ、やりたいだけです。
「貴方が…」
貴方を…
目茶苦茶にしたい
それだけなんですよ。
うっすらと口許に笑みが浮かぶ。
まだ…秘密。
貴方が落ちるまでは……
「好きです…」
俺は素直な取引相手
<<prev next>>