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へいへいおおきにまいどあり!

その日は酔っていた。
すごく。
うん、酔っていたんだ。
「はいはい、兄さんよってらっしゃいみてらっしゃい!
勉強しまっせ〜。
ハイハイ、おおきに、毎度あり!」
「はっ…」
イキのいい、関西弁。
こんな都会の繁華街で…何を…。
しかもこんな、イキのいい関西弁で…。
酔った頭でぼんやりと、声の方を向く。
声がした方には、何やらたくさんの人。
露店だろうか…。
小さな高校生くらいのガキが、関西弁で何かを売っている。
別に、露店で売っているもんなんかに興味はないが…。
その、あまりにも楽しそうな声色に…
思わず、釣られた。
ふらふら、っと露店に吸い寄せられたように近づく。
「んじゃ〜、そろそろいこかー、超目玉!
これ、逃したらもうやばいでーっ。浪花のワイの心かけてる目玉商品や!
何かは…言わなくてもわかるよな?」
バンバン、とハリセンを叩く売り子のガキ。

八重歯がチラリと見え、本当に楽しそうだ。
見ているこっちもなんか買いたくなってくる。
関西の商売人ってのはやっぱり、売るのが上手い。
「はいはい。んじゃ〜20万からや!」
20…万?
ちょっと待て、何を売っているんだ。
高すぎやしないだろうか…。
しかし、周りにいる客はまるでオークションのようにどんどん金額を吊り上げていく。
何をこんなに…。
そんなに、いいものなのだろうか。
「なんや〜、みなさん
一点ものなんやで?もっと声だしぃ
よっしゃ!
このさいローンも可!
一切がっさい面倒みてやんで!これ逃すともう一生後悔すんで!」
バチッ、とガキは周りの客にウィンク…
うぅ…、一点モノ。
なんだろう、このマニア心を擽る言葉は。
胸動かす言葉は…。
気がつけば俺は…
「200万だ!」
品物が何かも知らないのに、ガキの競りに混ざっていた…。
こういう時、大手会社社長やっていて良かったと思う。
俺はマニアだ。
しかも、レアモノに弱い。


レア、と言われれば手を出さずにはいられない
それが俺だった。
「よっしゃ!はい、やめ!兄さんに決めたわ!」
バンバン、とハリセンを叩きつけるガキ。
最後に金額を出したのは…
俺だ。
あ、俺がなんか知らないが一点モノをゲット出来たのか…。
なんか知らないが感激だ。一点モノをゲットできた!と思うと。
これだから金持ちは…とか言われそうだけど…。
オークションや競り合うのはやっぱりいいな…。
周りは何やらブーブーブーイング。俺はもっと出す!なんて言っているやつもいる。
「もうダメダメ。締め切りましたー。
ってな訳で、みなさんちったちった!
ほな、さいなら」
ヒラヒラと手を振るガキ。
客じゃない人間にシビアとは…
商売人の鏡だな…。
と、その前に…
「なぁ、俺は…何を競り落としたんだ?」
「あぁ…せやったな。
オメデトサン
商品はオレや」
「はっ…?」
「だから…商品は、オ・レ・や」
商品ハオレ…?

「ま、待て…っどういう…」
「ほな、いこか。
あぁオレ、こう見えて初めてやけど勉強するさかい…」
べ、勉強…
初めて?
な…
何を…
「あ…、返品は…」
「無理や、返品不可。
商売人、ナメたらあかん。
一度売ったもんは返品なんて商売人魂が廃るわ。
あぁ、大丈夫や。
一切合財、面倒みるやんけ」
い、いや…。
そもそも俺は楽しそうだったから競りに参加しただけで…
一点モノ、って聞いたから買っただけで…
こんなガキなんか欲しくなかっただけで…
マニア心が擽られた、だけであって…。
「一点…モノって…」
「オレや。
一点モノやろ。
人間同じ人間なんて…ありゃしないしなぁ…」
「そりゃそうだが…」
オレは別に人を買うために競ったんじゃ、ないんだが…
レアモノがほしかっただけ…なのだが…
「絶対兄さん、損はさせへんで」
そういうとガキは楽しそうに俺の腕に自分のソレを絡ませてきた…。


これが、奇妙な関西人とオレとの出会いだった…ー

息子の恋人4

□母
「ただいま〜恵…」
買い物にいってから…
ずいぶん時間がかかってしまいました。
隣のおばさんに捕まってしまって…
もう、おばさん、話長いんだもの。
かなり長話しちゃったわ。
せっかく、恵のお友達がきているっていうのに。
もうっ。
ま、まぁちゃんと目的通り美味しそうなケーキ買えたからいいんだけど。


「恵〜、ケーキ買ったわよー」


恵に帰ってきた事を知らせる為に、叫ぶ。
恵は素直でイイコだからいつも帰宅したら犬のように迎えにきてくれるんだけど…。
でも今日はいつまでたっても返事がありません…。
んー、お友達君とそんなにお勉強が盛り上がっているのかしら…。
でも返事くらいはして欲しかったわ…
なんて…我が儘ね、私ったら…。


恵だって、初めて家に連れてきた友達ですもの。
お気に入りのゲームなんか、一緒にやっているかもしれないのに。


私もそろそろ恵離れ…子離れの時期かしらねぇ…。


若干、寂しく思いながら私は買ってきたばかりの食料品とケーキを台所へ持っていきました。
これからする事は、とりあえず買ってきたケーキを恵のお友達君に出す事です。


「うーん…、
イチゴケーキだけど…大丈夫…よね…?」


買ってきたショートケーキを前に今更好みを聞かなかった事を後悔する私。
変なところで私って抜けているんですよね。
まぁ、でもショートケーキならみんな好きよね?
うん、大丈夫、大丈夫。
私は自分に必死にそう言い聞かせ、ショートケーキを普段使わない客人ようのお皿にのせハジの方にフォークを載せました。


「あっ…飲み物…」


…やっぱりケーキだけじゃ、駄目よね。喉渇くわよね。
でも…飲み物なんかあったかしら…。

「青汁なら、私が毎日飲んでいるやつがあるんだけど…」
ケーキに青汁…はマズイわよね…。
冷蔵庫…何かあったかしら…
うーん、でもなかったら…。
いやいや、でもあるかもしれないし。


「神様、お願いしますー」


ありますように!なんてひっそり思いながら、私は思いっきり冷蔵庫のドアを開けました。



□恵
「ただいま〜」
陽気な母さんの、声。
普段は大好きな母さんの声だけれど、今日…今の瞬間はとても恐ろしいモノに聞こえた。
いや、母さんが恐ろしい訳じゃない。
ばれるのが、恐いのだ。
この、状況が…。
「ふぐぅっ…」
「ほら、親帰ってきたみたいだぞ?恵…」
「ぐっ…」
「こんな姿…見せられないだろう?
なぁ。恵…」
見下すような、言い方。
俺の今の状況は…確かに言えたものじゃない。
みっともなく、床に頃がっていて…
こんな姿、母さんにだけじゃなく他の人にも見せられない。
「悔しいか…?
はっ、例え悔しくても知ったこったねーけどな…。俺は、お前を恨んでいるんだから…ナァ…」
鋭く、めが細められる。
鋭利な、怨みを孕んだ、目。
何も、言えない。
俺は、言えない。
言っちゃ、いけない。
「淫乱。
お前が全てを壊したんだ…。
すべて…お前がっ…お前がっ…」
「ご、ごめっ…」


初めてあった時羽柴はこんな顔していなかった。
人見知りな俺にニコニコ笑いかけて…
優しくしてくれて…
初めて友達になってくれた。
側に、いてくれた。
でも…
でもっ…!
「ナメろよ、」
「……っ…」
「犬らしく、俺の足をナメろ」
羽柴は、変わった。
復讐の、鬼に。
俺が変えてしまった。
俺が…。
俺は悠然に足を組んでいる羽柴にひざまずく。
そして…まるで犬のように言いなりに、羽柴の足の指先を舐めた。

息子の恋人3



□恵
羽柴は母さんがいた時とは態度を豹変させ、僕を睨みつける。


狭い狭い僕の部屋。
まるで小さな檻のように感じてしまう。


ライオンと同じ檻の中にいれられたような。


羽柴は小さく身を固くする僕に、侮辱めいた視線を寄越す。


冷たい、氷のような視線。


「お前の母親…、若くていい人じゃないか…」
「……」
「ま、ちょっと馬鹿そうだけどな…」
「母さんを馬鹿にするなっ!」


思わず怒鳴り、途端しまったと手の平で口を覆う。
「…なに…?」


案の定、羽柴は眉を吊り上げ僕を睨みつけた。
「お前は…、誰にものを言っているんだ?」
「あ…っ」
「なぁ、《恵》」


いいながら、羽柴は僕を固い床へと押し倒す。
もう何度と見た光景…ー。
何度となくやられた行為。


「お前の母親は知らないだろうなぁ…、お前が」


クスクス、と黒く、笑う羽柴。


「お前が、こんなに性悪だなんてなぁ…」
耳を塞ぎたくなる。
ごめんなさい、母さん。
そして
ごめんなさい、羽柴…ー
こんな風に羽柴をしたのは…紛れも無く僕のせいだった…ー。


僕の行いが招いた…ー
これは罰だった。
羽柴がこんな風な態度を取るのも。
羽柴がこんな風に黒く笑うのも。
すべて。


僕の責任で。


僕のセイだった…



□母

そういえば…買い物中、ふっ、と思いだしました。
恵君のお友達のコト。
誰かに似ていると思ったんです。
誰か…。
私の夫。恵の父。
康彦さん。
そう康彦さんに似ていたんです。


康彦さんは…けして良い父とは言えないかもしれませんが、優しいヒトでした。
今から数年前、アルコール中毒になり階段で足を踏み外し死んでしまいましたが。


康彦さん。
アルコールに溺れてからは貴方は私に暴力を奮っていたっけね。
康彦さん。
それでも酔いから醒めれば泣きながら私に謝って。


康彦さん。
私は貴方が本当に好きだった。何をされても。
貴方に惹かれていました。


私の事を知っているお友達はあの時離婚を進めていたけれど…でも私はそれに応じなかったっけ。
私はあの人を愛していたから…


恵にとって、あの人はどんな存在だったのかしら?
ちゃんとした父親、だったのかしら。
ちゃんと、父親になっていたのかしら。
アルコール中毒な父親に傷ついたりしていなかったかしら。
たまに気になってしまいます。
あの子が傷付いてなかったか。
今も幸せか。
だって私は恵の母。
恵や子供達は私の宝物なんですもの。

息子の恋人2

《留守》


…駄目ね。
私ったら。


初めて連れてきた恵のお友達を悪く言うなんて…。



「あっ…


ジュースでも持っていってあげようかしら…」

そうよ、せっかく来ていただいたんだもの。


子供の母たるものおもてなしはしなくちゃね。


もしかしたら恵も初めて連れてきたお友達に萎縮しているだけかもしれないし。

私は早速…、とばかりに台所へ急ぐ。


私の記憶が正しければ確か戸棚に和菓子があったハズだったから…。



「あら、ないわ…」
しかし戸棚を覗くと目的なモノはなく、がらんとしたスペースがそこに存在していた。


確かに一週間前買い置きしていたハズなのだけれど。



恵が食べたのかしら?
それとも娘のさらさが久しぶりに家にでも帰って食べたのかしら。


まぁ、なんにしろないものは仕方ないわ。


買い置き分も含め新しく買わなくては。

幸い、歩いてすぐのところに大きなデパートもあるし。夕飯買って返るのもいいわね。


私は今夜の献立を頭に思い浮かべながら財布を取る。

「恵ーお母さん、
買い物言ってくるからねー!」


少し大きめな声で部屋に篭っている恵に叫ぶ。


いつもはどんな時でも返事をしてくれる恵なのに…、その時ばかりはしなかった。

よっぽど集中して勉強しているのかしら…?
だったら邪魔しちゃ悪いわね。


そういえばあの子この間のテスト、赤点ぎりぎりだったっけ。


頭良さそうな顔はしているのに、ちょっとおバカなのよね。

そこがカワイイ所でもあるんだけど。

あの子はいつも不器用に生きていて、私の子供の中では1番頑張り屋。

だからついつい1番気にかけちゃうのよね。

贔屓はしないつもりなのに。


私はふふ、と笑いながら、外へ出た。


バタン、と大きく戸を閉める音をたてて。





□(恵)
ばたん。
戸が無惨にも閉められる音。



助けを、よぼうにもよべなくなった現状。


母さんは買い物に言っちゃったみたいだ。
狭い部屋に二人きり。
僕はこの状況を何とか打破しようと視線を宙にやる。



「どこ見ているんだ?恵」
無理矢理、不機嫌そうに僕の顎をとる羽柴(はじば)
その目は先程母さんに見せた顔とは丸っきり正反対の、ソレ。
冷たい眼差し。



「あ…の…、」
舌が凍る。
くらくらと目眩もする。
ソレは僕が、羽柴という存在に恐怖しており畏怖しているから。
だって。
僕は。
僕は…ー。



「うちの家族を目茶苦茶にした。
俺はお前を、許さない…」


羽柴に怨まれているんだから。


母さん、ごめんなさい。
俺は人として最低な事をしました。

母さん…


どうしよう。


俺、どうすればいいかわからないよ。

息子の恋人。1



私には二人の息子と一人の娘がおります。


私の名前は秋子。
主婦です。


1番下の息子…恵(めぐむ)は40の時の子供でしょうか。


恵は生まれた時から男の子なのに可愛らしい顔をしておりました。
親バカになるかもしれませんが、私に似ていたのですね。
恵は周囲の期待通り男にしておくのはもったいないくらい可愛らしい、容姿へと日々成長していました。

そう、ちょっと心配するくらい可愛らしく成長したのです。

昔から女顔で末っ子気質が強かった恵は、人に物事を言うのが苦手でとても引っ込み思案でした。

小学生の時は男の子どころか女の子にまで虐められ…。

お友達なんか出来た事がありませんでした。

人付き合いが苦手な子だったんですね。


私は子供達の中で誰よりも恵が心配でした。


これから先、私がいなくても生きていけるものか…と。




「はじめまして、お母様」
「ま、まぁっ」


そんな恵が、この度高校生になって始めてお友達を家に招きました。
髪の毛サラサラの王子様系の美青年です。
白馬の王子様、でしょうか。我が息子ならあっぱれです。こんな美青年とお友達なんて
これで恵が女の子なら、ぜひ母として子供と交際して下さいと申し込むのに。


「いやだわ…お母様、なんて…様づけされるほど上品なものではないのよ?」
「いえっ恵君の大切なお母様は僕にとっても大切な方ですから」


にっこり。
お友達君は直視するのも眩しいくらいのイケメンフラッシュ。
あぁ、このえみ。
芸能人だってこんな綺麗に笑う人は少ないはずです。


「恵君には日々お世話になっていて…」
「ま、まぁっ」


息子は本当にお友達思いのいい人を見つけました。


わざわざこんな母親なんかにお世話になってます、なんて報告してくる人間はそうそうおりません。

1番上の息子の嫁…あかりさんだって私に挨拶一つ寄越さないんですからね。


全くあの嫁は。


私はあの人の夫の母だというのに。
挨拶もしないなんて。

目の前にいるお友達君はわざわざ挨拶にきたのに
いい人ね、
恵にそう言おうと視線を寄越すと恵は何故か青い顔をしたまま小さく震えていました。


「恵…ー?」
「じゃあいこうか、《恵》
お勉強しなきゃ…ね?」


お友達君は恵の腰に手を回すとピッタリとその体を寄り添わせ、勝手しったるや恵の部屋へ歩を進めます。

お友達君は私が知る限り今日始めてきたハズなのに。

それとも私がいない時に恵ったら彼を呼んでいたのかしら。

私にならもっと早く紹介してくれてもいいのに。
恵ったら。



「では、お母様。
しばらく恵君と勉強しますので。これで」
「は、はぁ…」
「ほら、いくよ。恵」



私は渇いた返事しか返せませんでした。

恵が始めて出来たお友達。
とっても笑顔が素敵でイケメンなお友達。
礼儀が正しいお友達。
なのに。
どうしてか不安が胸を過ぎりました。



理由、は特になく勘なのですが。
言うなれば母親の勘でしょうか。


恵の震えたあの青い顔が、何かおかしな事に巻き込まれていそうで。


とんでもない事になっていそうで。


何やら不安なのです。
私の気のせいだと、
いいのだけれど。
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