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俺はそのままでもいいけどね

俺はそのままでもいいけどね。

自分という人間を一言で紹介しろと言われたら、俺は迷わず女々しい≠ニいう言葉を使うだろう。女々しい、外見と違って中身はおとなしくて草食系。
俺の彼氏が俺とは正反対の男らしい性格だから、なお自分は女々しいんだな・・・っと感じることがある。
いくじがないとか未練がましいとか、メソメソしすぎるとか、そんな言葉をかけられることは一度や二度じゃない。
こんなうじうじしている俺は男なんだろうか?生まれてくる性別間違えたんじゃないか・・・と自分でも疑問に思うことさえある。
一度深みにはまるとなかなか抜け出せないこの性格はよくいえば繊細で悪く言えば面倒な人間といえよう。

身体は大きいのに、そのぐぢぐぢした暗い性格なんとかならないの・・・?なんて昔からよく姉に貶された。
姉にもうざがられる程のうじうじ性格を、俺自身もどうにかしたいと何度か男らしい行動をしてみようと思うも、今現在もそれは成し遂げられていない。

小さなことですぐ悩むし、女の腐った人間のようにぐちぐちというのも健在だ。
俺の彼氏はそんな女々しい俺すらも、ありのまま受け入れてくれる。


女々しい俺とは正反対なのが俺の彼氏だ。
彼氏は俺とは違って、実に雄々しい男前だ。
その面はもちろん、心意気だって男前だと思う。
懐は海より深く山より高いくらい大きいだろう。

なんせ、190近いデカブツな俺なんかを彼氏にしてるくらいだから。
しかもこーんなでかい俺を抱いているときている…。抱いて…といってもだき枕じゃないぞ。ちゃんと、俺と性的なこと…sexしてるってこと。

でかくて可愛らしさもなく、うすっぺらい長身の身体をあいつは愛してくれるのだ。


あいつと俺の身長差、その差12センチ。12センチっていうのは、キスするのに理想的らしい身長差らしい。
でも、抱かれる俺と抱くあいつからしたら、その距離はちょっと大きすぎる気がする。
男役であるあいつを俺は見下ろすことしかできないし、俺の方がでかいからあいつの腕にも収まりきれない。
抱いている男の俺が自分よりでかくて見下ろしてくる・・・なんて抱いている男からしたら複雑なんじゃないだろうか。特にあいつは男らしい性格だから、抱いている人間なんかに見下ろされて男として嫌になるんじゃないだろうか。

可愛らしさもない俺だからこそ、身長くらいはあいつと並んでも可笑しくないようになりたかった。
元々、あいつはホモじゃなくてちゃんと女の子と付き合った過去もあるからなおのこと。
俺はあいつと付き合ったのが初めてだったけど、男前でクラスでも人気だったあいつは小さい頃から女の子にもてていた。


 俺とあいつは元々幼馴染という間柄であり、小さい頃から男前で竹を割ったような性格のあいつが俺は昔から好きで、玉砕覚悟で告白したのが始まりだった。
告白したのはまだ俺が少しだけあいつの背より大きく身長差があまりなかったとき。
当時、あいつが付き合っていた彼女と別れグダグダと俺の部屋であいつが愚痴を零していた時だ。
普段あいつは人の悪口なんか言わない。カラッとしている性格の為、あまり根にもたない彼が、その日は珍しく別れた彼女の愚痴を溢していた。

当時別れた彼女は学年で一番可愛い女の子だったが、裏表が激しく我侭な子だった。
あいつには猫を被っていたようだったけれど、俺には冷たかったし遠まわしげに俺との付き合いをやめろとまで言った事もあったらしい。
別れの決め手は、彼女の俺への嫌がらせがあいつにバレたからだった。

躾にうるさく男らしい性格に育てられたあいつからすると、他人を苛む人間と一緒にいると虫唾が走る・・・らしい。元々ただ可愛いな・・・と思って付き合っただけであり、彼女に対する恋愛感情は皆無に等しかったらしかった。


『外見なんてどうだっていいってわかったよ。性格ブスは駄目だな…。どんなに可愛くても他人を卑下するやつは無理だ…。次付き合うなら外見なんてどうだっていいから中身がカワイイ子がいいな…ぶりっことかじゃなくてさ…』

あいつが俺の部屋のソファーによりかかり、やけっぱちに言うから。

だから魔が差したように、ついつい言ってしまったのだ。


『俺なんか、どう?』って。


『は?』
は?と聞き返したあいつ。当然の反応だった。
俺たちはずっと幼馴染みで、俺があいつを好きといったのはたぶんその時が初めてだったと思うから。


『俺、お前の為ならなんだってするし…、その外見は可愛くないけど…。俺…お前のこと、好きで…ずっと、好きで』

『ん〜』
『いきなりごめん…!俺男なのに突然こんな…。でも、好きなのは事実だから言っておこうと思って…。幼馴染み面してずっと好きだったんだ・・・。ごめん。気持ち悪いよな・・・でも・・・』
『ん〜』
『あの、』


気のない返事に、あいつは俺の言葉に困っているんだと判断した。

『ん〜?』

ジロジロと品定めするあいつの視線。
チクチクと刺すような視線がいたい。
隣に座っている俺をただじっと見つめるあいつの視線。

『あの、あ、じょうだ…』

刺さった視線がいたたまれなくて言葉を撤回しようとしたところで、突然着ていた制服のネクタイをひかれ、唇を塞がれた。

軽く唇が触れあうくらいのキス。


『ななな…』
『顔真っ赤だな…』
『へ…?あの、』
『うん…。キスできるし、気持ち悪くもねーし、いいよ…。付き合っても…』
『え…』
『ま、お前女の子みたいに小さくねーけどいつも真面目だし…?それにずっと一緒にいるお前なら性格ブスじゃねーって知ってるし。お前ってなんか可愛いしな…』
『か、カワイイ…?』
『んー、カワイイカワイイ』

むぎゅむぎゅと俺の身体を抱き締めながら。


まー、宜しくな…。彼氏さん…?

言葉と共に、チュッと2度目のキスをされた。
2度目のキスは、1度目のキスよりも長く。

そんな風に始まった俺たちの関係。中学の時から、俺とあいつの身長差は少しあった。といっても成長期ではなかったから、今ほどじゃない。同じ目線くらいの位置で、ちょっと俺の方が高いかもね・・・くらいの距離だった。
それが、中学3年に入り早い成長期に陥った俺はぐんぐん背が伸びて、気づけばあいつを見下ろすほどの身長になっていた。


『抜かれちまったな…背…』

あいつは、大したことないように笑っていたけど、俺はあいつとの身長差が開く度に落ち込んでいた。
キス、しにくくなるし。あいつの事を見下ろしたくない。

なによりあいつが俺を抱くとき自分よりでかい男が自分の下で喘ぐなんて気持ち悪く思うんじゃないかって怖かった。怖がったところで俺たちの身長差は縮むことはなかったけれど。

 中学で付き合った俺たちは、そのまま同じ高校を受験し見事合格を果たした。
成長期真っ只中な高校入学の時は俺は既に180を優に越えていて、新入生では一番でかかった。あいつもけして背が低いわけじゃない。平均以上だ。でも、俺がならんでしまえば、やはり小さく見えてしまう。


『お前でかくていいな…』
『は?』
『見つけやすいから…、ちょっと離れても迷子にならないだろ…?そんなにでかかったらさ…』
『でかい…』

あいつの言葉に落ち込む俺に

『俺が見失わずにすむからいいや…、な…?』

あいつは、ニッと歯をみせて笑い、俺の手を握った。

『…手っ…!なんで…みんな見てる…!』

ただでさえ、俺はでかいから視線が集まるというのに…。
あいつは、『虫除けだからな〜』なんて、パニクる俺を余所に俺の手を引いていった。

その時もあいつは相変わらずゴウイングマイウエイで、周りの視線と女の子のキャーキャーと俺たちを見て叫んでいるのなんて全てを無視していた。


『また、ホモってからかわれるじゃん…』
『ま、また大体仲の良すぎる幼馴染みで片付くだろ…。それともサービスしていくか?』

飄々という、あいつが憎くて俯く。
しかし、俺のほうが10センチはでかいから、俯いてもばっちり顔が見られる訳で…。


『赤くなってんぞ…、ばぁか…。お前だって噂広げてる原因なんだからな…』

あいつは恥ずかしがっている俺を見て、嬉々としてからかっていた。



『なぁ…、また高校ではバレー部に入ろうぜ…』
『やだよ…。ジャンプして、身長大きくなりそうだし…』


高校でもあいつは、中学のとき同様俺をバレー部に誘った。
中学で俺とあいつはバレー部だったから。
ほんとうは、俺は高校ではバレー部に入る予定はなかった。
運動したら背が伸びるとなにかに書いてあったから。
部活自体は、好きだったけれどこれ以上身長が伸びて更に釣り合わなくなるのが嫌だった。

だから、高校では運動部に入るのはやめようと思っていたのに…


『大きくなればいいじゃんか…。』
『俺、大きくなりたい・・・』
『我が儘者め・・・。小さい男から顰蹙かうぞ』
『いい・・・』

顰蹙かうくらいで小さくなれるなら、いくらでも顰蹙くらいかいたかった。
俺にとっては、重大な問題だったから。

『お前が部活にいないと俺は困るなぁ』
『は?なに、急に』
『だって、俺とお前中学の頃から黄金コンビだっただろ・・・?』

黄金コンビというのは、かつてバレー部に在籍していた俺とあいつにつけられた名前だ。
あいつがあげたトスを俺が毎回決めるし、あいつは俺に打ちやすいボールをあげてくれる。
どちらかが不調だともう一方も不調になる。
 どんなことを要求しているか、一番わかるのがあいつだった。
あいつもそうだっただろう。あいつは一番俺にトスをあげていた。


『俺がどんな球でもあげてやるからさ…。お前は俺があげた弾、決めてくれよ…。
お前はどんなときも俺のパートナーなんだからさ…。
俺の拾った球をあんなに綺麗に決められるの、お前くらいなもんだぜ…』


少し照れたあいつが屈託なく笑うから。
恋人としても、それ意外でも必要とされているのは嬉しかったから。


『大きくなっても…』
『ん…?』
『俺がお前よりでかくなって…見下ろすくらいでかくなっても、お前は俺を抱いてくれるか…?愛してくれる・・・?』

不安を吐露するように訪ねてみる。

『…抱いて…って昼間からおさかんだねぇ…君は…』
『なっ…』
『まぁ、君が欲しいと言うんなら俺はいつでもいいけどね・・・。うん』

ポッケに手を入れながら、あいつはそそくさと歩き出す。
はぐらかすようにまくし立てて言われたけど、そっぽを向いたあいつの耳が真っ赤だったのを今でも覚えている。

現在。
高校3年の春。桜が散り始め、真新しい制服を来た1年生が高校に入学し始めたとき。
俺の身長はついに190をこえた。大体の人間に見上げられるし俺より大きい人間は滅多に見ない。

あいつの身長も高校で伸び始め、今では178センチになったらしい。
12センチ差だ。一時期は15センチ以上の時もあった。


「また随分と伸びたなぁ…。俺も伸びてんだけどな…」

学校の廊下にて。
あいつは俺の顔を見上げならがまじまじと言った。
上目線でじっ…と黒い瞳で見詰められると、落ち着かない気分になる。
あいつは無駄にフェロモン垂れながしているから・・・。


「ま、俺は小さくてもいいんだけどな…」
「…いまの…ままで…?」
「お前、よく俯いてるからさ…。
俺が小さいほうがお前が俯いても顔、ちゃんと見れるだろ?あと俺の顔見るときにちょっと伏し目がちになっているのもなかなかいいもんだし。
それに…」

ニヤリとあいつが笑ったかと思うと、あいつは俺の肩を掴み…


「わ…っ!」

そのまま、壁際へ。
俺を壁側にやり自身は壁に両手をついて、俺の顔を覗き込んだ。



「こうやって、囲いながら下アングルからお前の顔を見るのも悪くねぇから、さ…。
キスだってしやすいだろ…?
この身長なら、俯いて逃げることなんてできねぇだろうから…さ…。
それに、まだ俺も成長期終わってねーし…。そのうち同じくらいにはなるかもしれないだろ…
だからいまは、まだ…」

くいっ…と、ネクタイが引っ張られると、そのまま、下からキスをされる。

そのまま、首筋までキスを落とされ…

「いまは、このままでいいわ…」

あいつは笑った









私にしては珍しい長身受けですv
お題にあったので作成してみました!
なんか不思議な終わり方になってしまいましたね。

槙村はネクタイ引っ張って顔を近づけさせた 後、唇を奪う行為にときめきを感じます…!

個人的に、ヘラヘラした攻めより低身長の猫 個人的に、ヘラヘラした攻めより低身長の猫 背気味なおっさん×生真面目な男(もしくは、 初な男)なんか好きです。

あと、ちょっと年齢差があるんだけど受けが ぽやぽやしてて俺がしっかりお前をみてやる!系攻めの子もイイ。

「ちょっとでかいくらいで大口叩くんじゃねぇ」とか、「頭撫でるんじゃねぇ!」とか 吼えるのにキュンとします。

相方は世界一

『俺と、世界一の漫才やりませんか?』


そういった俺に、やつは驚きに目を見開き、次の瞬間笑いながら頷いた。

いいよ、僕で良かったら、っと…。



なんで、やつが良かったのか。
なんで、やつと組みたかったのか。


 芸風はともかく、やつは少し利己的で、回りくどい漫才が好きで、俺みたいな突っ走る漫才とは真逆の笑いを求めるやつだったのに。


 猫背で、暗そうなやつは、ちょっと知り合いになりたくないタイプだったのに。


 ああ、なんでかなぁ。
なんでだろうなぁ。


 あの時の、漫才やろうと誘った告白は今でも忘れていない。まるで、結婚の申し込みのようだった…と今でも覚えている。俺にとっては一世一代の告白だった。


あの時の事を後悔もしていなければ、相方がやつでよかったと、今でもしみじみ思っている。


漫才コンビを組んで、早数年。

色々あったけれど、今でも俺の隣にはやつがいて、やつは俺の隣でぼけている。
俺の隣にはやつがいて、やつの隣には俺がいる。
そんな、普通な平穏。

やつの隣で笑う事が、俺の平穏だった。
可笑しな話、彼女といる時よりも、友達と一緒にいる時よりも、やつと一緒にいた方が俺にとって居心地がよかった。

 なんでかなぁ。
 今でもわからん。

 わからんけど…すっごい居心地がいいんだ。
信じられないくらい…。



さて、そんなわけで、現在。


「なに、ふてくされてんの?」
「べつに、」
「別にじゃないでしょー。もー」

不機嫌な俺に、相方の波多野は、やれやれ、っと困ったように肩を竦める。


「なんでもいいけど、りゅーちゃんは笑顔の方がいいよ?」
「うるせー」
「はいはい…と、」

波多野は、人の感情を機敏に察知する。
俺がどれくらい言えば余計不機嫌になるだとか、これ以上言っても無駄なときは、俺を放置する。

ある意味、俺よりも俺を知っているかもしれない。

漫才で波多野は俺の相方だが、私生活でも、俺にとっては相方であり相棒であった。


すぐ癇癪起こしたり落ち込んだりする俺にとって、冷静で落ち着いた波多野は、なくてはならない存在で、波多野でなければ、今頃俺は大好きなお笑いを辞めていたかもしれない。

ここまで、とりあえず東京進出し、それなりにテレビにも出れて、知名度もアップしたのは、波多野のおかげだ。

そういう意味でも、波多野には、感謝しつくしても、し足りない。

波多野義文(はたのよしふみ)と俺、星川劉生(ほしかわりゅうせい)
俺たち二人は、『ドンキーズ』というお笑いコンビを組んでいる。

地方を何年も回っていて、営業していた俺たちだけど、めでたく大手番組でやった漫才が受け、それをきっかけに某大物お笑い芸人の大先輩に気に入られ…。

東京進出し、それなりにテレビに出られるようになった。

お笑い番組に、バラエティーの雛壇。
バラエティーは特に勉強になるし、何より楽しい。
まだまだ若手な俺らだから、それなりに弄って貰えるし、返しだって、営業が長かった分下手でもない。

弄られることは、お笑い芸人にとって、大変おいしい。
だけど…。

だけど…なぁ。

今日のは…なぁ。



「りゅーちゅん、りゅーちゅん」
「ちゅんちゅん言うな、雀やないんだから…」

「はいはい、もー、ほら、これ差し入れだよ〜」


にぱ、っと笑う、波多野。
その笑顔は…うん、あまりかっこいいものでもない。

というか…波多野の容姿は…その、非常に残念だ。

髪は男なのにロンゲだし、髭は生えているし、分厚い眼鏡をしているし。
人見知り激しいから、いつも下向いているし。
芸人の癖に陰気そうだし。

ま、そんなキャラもキャラであまりいないからテレビで重宝されるんだけど。

そんな波多野のテレビでのあだ名は幸を逃がした不幸臭漂う男≠ナある。

それに対し、俺の容姿は…自慢になるかもしれないが、結構いい。

俺のあだ名は、「口さえ開かなければいい男らしい」

なんやねん。

お笑いの人間に口さえ開かなければ…って…。

まぁ、俺の容姿のよさも、お笑いの人間にしては、というオマケがつくが…。



 俺が今不機嫌なのも、この容姿のせいだった。

さっきテレビ収録があった。
ゴールデンのバラエティー。

ゴールデンということではりきっていたのに…。


 生憎、共演者に俺たちが大嫌いな漫才コンビがいた。それだけでも不機嫌になる要素はある。


奴らは、芸風が似ている俺たちをよく目の敵にしている。今日も恰好が良くない波多野を弄り倒していた。
不快になるくらい、ぐちぐちぐちぐちと…。

しかし、人のいい波多野は、何も言わずそれにへらへらして。

それをまた突っ込まれて。
周りは笑っていたけれど。

俺は波多野がなにか悪口を言われる度にイライラとした思いで、まともに笑顔を作れなかった。

テレビが回っているにも関わらず、あまりに陰険な悪口のオンパレードに俺は始終不機嫌だった。

明日辺り、あの不機嫌な顔は、ネットで叩かれるかもなぁ…

はぁ…



「りゅーちゃん、」
「…、なんだよ」
「僕の事でりゅーちゃんが怒るのは嫌だなぁ」
「は?別に…、お前のことなんかで…、」


怒ってない。
そうは言っても、俺以上に俺をわかっている波多野には、俺が不機嫌な理由はばればれなんだろう。

こんな風に言ったって。

波多野は、つつ…と俺の傍によると、甘えたように俺の腕に頭を擦り付ける。


「りゅーちゅん、」
「…なんだよ、」
「えへへ、」
「えへへ、じゃねーよ」
「ふふ…、」

嗚呼、まったく。
今まで苛々した気持ちが、波多野の笑顔で消えていく


ほんと、こいつは…。
不細工の幸薄そうな顔して、どうして、こんなに…。


「ばぁか…、」

ピン、と波多野のでこにデコピンをして、小さく吐き捨てる。



波多野は、相変わらずにこにこしながら、「りゅーちゃん、大好きだー」と、俺に背中から抱きついた。







恋する魔法使い

好きな人と抱き合うときって、どうなんだろう。
やっぱりどきどき、するのかな。胸が破裂するほど高鳴ったりとか、するのかな。
恋愛ドラマみたいに、その人で頭がいっぱいになって右往左往するのかな。
俺も、恋愛病みたいに…なるのかな。
恋焦がれたり、浮き沈み激しくなったりするんだろうか。
その人で、頭の中、いっぱいになったりするんだろうか。


昔から憧れていた。誰か好きな人と一緒になることを。
いつかは、誰か好きなやつと付き合いたい、ドラマみたいな熱病みたいな、恋愛がしてみたい。
でも、次第に、俺の目的は少しずつ変わっていった。


最初は、好きな人間と付き合いたいという望みだったのに。
いつのまにか、いつかは、童貞を捨てたいなっていう願いになっていた。

俺の願いはお付き合い、ではなく、身体の…童貞喪失へと変わっていったのだ。
いつの間にか、好きな人と付き合うなんて純粋で大切なことを忘れていた。

ただ、抱き合いたい、いつまでも童貞は男として恥ずかしいって。
いつまでも童貞は嫌だって。
そんなよこしまな願いを抱いているからか…俺は少し前まで清らかな童貞であった。

他人と肌を合わせたことがなかった。
数時間前までは。


「あ…」

固まる。固まる。すっげぇ、固まる。
固まり過ぎて、嫌な汗もダラダラと湧き出てくる。
今俺の顔を鏡でみたら、冷や汗だらだらのすっげぇ嫌な顔しているだろう。
わかる。これは鏡を見なくたってわかる。
ああ、俺は今初めて時が止まる瞬間というものを体験しているのかもしれない。


「おはよ、先輩」

にっこり笑う、俺の隣に寝そべっている二宮。会社の後輩だ。
二宮のその笑顔はキラキラ〜と輝いているようだ。周りに心なしかマンガのような、キラキラが見える。
とても、機嫌良さそうな笑みだ。
いや、二宮のことはどうでもいい。
いや、どうでもよくないか?この場合。
今、二宮は何故か裸。そして、俺と同じ布団にいる。
そして…俺も何故か裸。
何もその身にまとっていない。
あ、あれー?あっれれー。

しかも、二宮、なんでそんな甘い声出しているんだよ。まるで、女の子に語りかけるような甘い声で。
俺お前に何をした?
っというかこの状況は何なんだ。
えええ?


「まさか、忘れたんですか?」
「え…」
「じゃぁ、もう一回、思い出させてあげましょうか?」

ぬっと、顔を近づけてくる二宮。
え…ええっと、ちょっと待て。なんでこんな顔を近づけて…。

激しくちょっと待て。
そうだ、ちょっと昨日のことを思い出してみよう。

*

男っていうもんは、案外デリケートな生き物である。
そう、女が思っているよりもずっと繊細で悩ましい生き物なのだ。
案外、女よりも男の方がロマンチストだったり夢見がちだったりする。

強くたくましい。
誰がそういった?
男は、とても繊細で、女よりもガラスのheartの持ち主がたくさんいる。
そう、俺たちはガラスの乙女心を持っている。
簡単に割れてしまうガラスのような心が。
最近じゃ、草食男子って言葉もあるし、女の方がよっぽど強いな、と思う。


例え、小学生のとき、パンツめくりに精をだし、黒板にう○こを描き殴り、更には女子の前でエロ本の話をしていても。
例え、好きな子を毎回夢に出していけないことをしていても。
男というものは、大変見栄と自尊心で生きているのだ。


例えば、小さいね、だとか早いね、だとかつまらないわ、だとかそんな言葉は言語道断だ。
女性諸君は、けして、彼氏とそういう事を行っても、そんな言葉をはかないでいただきたい。

そうじゃないと…俺みたいな不幸な人間が増えてしまうから。

嗚呼、俺は…俺は…。
俺はもう魔法使いになれたかもしれない。



「いまどき、23歳過ぎて童貞なんて都市伝説よねー、ましてや、25歳過ぎたらもう聖者っていうか、魔法使いになれると思うのー」

俺にしてはちょー高い声で、しなを作りながら、語尾を伸ばす。
バカっぽい、ちょっと普通の人が聞いたら眉をよせてしまうような言い方で。

がやがやとした、金曜日の居酒屋。周りには大学生軍団が陣取りすっげぇうるさい。
大学生ってのは、飲み屋ではアウトだ。
しかも、それが男女混じってたら、破壊力を増す。やつらは遠慮というものを知らない。

っと、そんなうるさい大学生連中の近くで、俺は1つ年下の会社の後輩二宮と酒を傾けていた。
既に、空になったビール瓶が5本。
ちょっと頭がくらくらするし、気持ちがハイになってくる。ふわふわ〜して、気持ちがいい。今なら空も飛べそうな気がする。なんちゃんて。


飲み始めた当初は、ちゃんと座敷の席で二宮の向かい側の席に座っていた俺だが、酔いが回り始めると席をたち、二宮の隣についていた。

こうした方がよく話せる気がしたから。
まぁ、最初はそれでも大人しく隣で酒を傾けていたんだけど。
酒が入るにつれて…、泣いたり笑ったり。
二宮は律儀に俺に相槌うったり返事を返したりしている。
ほんと、律儀なやつだ。
二宮って、顔も精悍でなんか甘いマスクしているから女にモテるのに、それを鼻にかけないし。しかも、現在フリーってのがまた、いい。
フリー仲間。俺と一緒の彼女なし仲間。


「なんだよ、あのびっち。DQNだな。うん。知ってるか、これ言っていたの、あのみんなのアイドル花園ちゃんなんだぜ?あの花園ちゃんが、25過ぎて童貞なんか信じらんなーい、きもいーって給湯室で笑っていたんだぜ」

俺はつい3日前に見た会社のアイドル、花園ちゃんの裏の顔を二宮に話す。
なんせ、…なんせ俺は童・貞。
25歳にもなって、未だに童・貞。はい、童・貞。
しかも現在も彼女がいない勇者である。

花園ちゃんの話を聞いて、俺の小さなチキンハートは、まるで矢にでも打たれたようにぐさぐさだった。

たかが童貞なだけじゃーん。
いや、これは男の沽券にかなり関わる。
女の処女は普通にありだが(むしろアイドルとかは、凄いそういうところ気にしそうだ)
男の童貞ははっきり言って残していても全く、貴重価値もない。

俺、童貞なの…、だから…優しくしてね?
で、許されるのは高校生までだ。
大学過ぎたら、そんなの許されない…だろう?。

といっても、そんなに童貞が嫌ならソープか風俗店にいって早く捨てて来いって話なのだが…それも出来ないわけが、ある。


「先輩、飲みすぎですって」
「うっせー、おがわりー」
「うわっ、酒口元ついてますよ」
「あん?」

そういって、ぐっと指の腹で二宮は俺の唇をふく。
されるがままだった俺に対し、二宮はクスリと笑む。
なんだ、その流し目は…!イケメンは何してもかっこいいな。

「あ、ありがと…」
「先輩…、」
「ん…?」
「じゃぁ、きっと、俺も魔法使いです」
「魔法使い?」
「俺も、童貞、ってことです…」

二宮は、そういって、酒の入ったグラスを傾け、俺に視線を投げかける。

「童貞…?お前が…」
「まぁ…」

びっくりした。こんなにイケメンなのに。
俺みたいなやつが童貞なのは…まぁ、仕方ないだろう。こう見えて、普通な面しているし。
それに、俺、少し女性恐怖症みたいな症状もある。

普通にする分にはいいんだけど、女の裸をみると緊張して吐いちゃうんだよな…。
なので、風俗にもいけなかったりするんだけど。


「じゃぁ、俺たち魔法使いだな。30過ぎたら童貞って、魔法使いっていうらしいぜ。もうすぐじゃん、俺ら…」
「そうですね…、ねぇ、先輩。」

二宮は、酔って少しぐったりしていた俺の耳元にそっと
「魔法使いって、恋もするんですよ」

と、耳打ちした。


「恋…、」
「俺が、先輩を彼女にしてあげます。一生俺の可愛い魔法使いのままですが…。幸せな恋を、一緒にしましょう」



「あー」

思い出した。
えっと、酔っている時、二宮が俺を彼女にするっていって、それから飲み屋を出て俺は二宮に誘われるままベッドで…


「二宮ちょう上手い、二宮愛してる。二宮最高」
「っ!」
「散々、先輩俺を煽ってくれましたよね?」
「い、いやぁ。あはは…は…」

真っ白になる。なに、言ってんだよ、数時間前の俺。
しかも、しっかり記憶が残っているのが悲しい。


「俺、ずっと先輩が好きでした。こうやって煽ったからには、責任、とって下さいね?」
「せ、責任…っ」

いや、この場合俺の方が責任とってっていうほうじゃねぇの?
だって、ケツいたいもん。俺がやられたほうだよね、ね?
なのに、責任って…。


「好きです、先輩」

まぁ、でも…二宮が嬉しそうだから…。ま、いっか。
うわ、俺もお手軽だなぁ。
花園ちゃんのことびっちなんて言えないじゃん。


「ついでに俺、バージンとの相手が童貞ってだけで、今まで散々抱かれたいって女とやってきましたからテクの方は安心してくださ」
「死ね」

おやすみマスター3



結局、ジンは軍へは行かなかった。
自らの意思で、長い眠りについてしまったのだ。

スリープモード。
自殺、なんだろうか。

俺がどんなにジンを見ても、ジンは起動しなかった。
原因不明の、意識不明。

きっと、ジンは戦地にジンをいかせたくないという俺の思いにこたえてくれたのだろう。

己を、殺してまで。
起動したままならば、俺たちは、離れ離れにされてしまうから…。

軍はジンを差し出せとわめき、民衆は俺たちを迫害する。
だから、ジンは己を殺し、俺の願いまで、聞いてくれたのだ。

自分を、最後まで殺して。


「お休み…、俺のアンドロイド」

静かに眠るジンの寝顔にキスをする。
涙を零しながら。

いつか必ず…
そう、必ず。

必ず、もう一度、ジンを起動させる。
そう、綺麗な寝顔に誓って。



 その後、俺は家を出、あてもなく旅をした。
ポッケには、お守り代わりにあいつのマイクロチップをもって。


俺の旅は、とある国で終わりになる。
その国はちょうど殺人ロボットや国の在り方や戦争について議論されている国だった。
今後、大国にも殺人ロボットの在り方を話し合う、という。

ロボットが、過ごしやすい社会。
ロボットだけに依存しない社会。

俺は、その話に乗り協力し、それからは、ただ毎日毎日走るように終わっていった。

戦争に使うロボットの禁止。ロボットに依存しない、社会。
殺人ロボットが使われなくなるまでに、二十年かかった。


そして…
「博士ー」
パタパタと、騒々しい音をたててこちらへやってくる、白衣を身に着けた少年。
頭には可愛らしい猫耳をつけており、お尻には、ふわふわしたしっぽがついていた。

「君か…」
「はい」

少年は振り返った俺ににっこりと笑う。
そして…、

「博士のおかげです、僕らロボットがこうやって生きてるのは」

俺に握手を求めた。

20年.
そう、20年かかった。

ロボットと、人間の協調する社会。
争いを少しでもなくす社会をつくるのに。

無事今までの努力が実り博士となった俺は、ロボットに依存しない社会の為、国に協力し、時に色々なロボットを産んだ。

20年.
俺の全ては、ロボットに注ぎ込んだ。
その結果が、今のこの社会だ。



「ごめんな…二十年かかった…」

そっと、愛しい顔を撫でる。何度も何度も動けばいいと願った、俺の愛しい…俺だけの、ロボット。
ジン。

動かなくなったジンは、ずっと家の地下に保管していた。
誰にも触られないように。
俺以外誰にも見られないように。

こうして、会うのは本当に久しぶりだ。
いつかの日のように、ドキドキしながら、口づける。

不思議と、怖さはなかった。
ジンは絶対に、動く。絶対に、もう一度俺を見てくれる、そう信じていたから。

でも…


「、…さま…シング…さま…?」

目をぱちぱちと瞬くジン。
絶対動くと信じていたのに…

俺の瞳には涙が込みあがってきた。

「うん、久しぶり、ジン」
「私…は…」

呆然とただ瞬きをするジン。
ジンの記憶は、あの日で止まっているんだ。
いきなりの起動にびっくりしているんだろう。

「ジン…もう…大丈夫なんだ。俺達は一緒にいられるんだよ…、もう…誰も邪魔はさせない…俺がお前を守るよ」
「…さま…」
「俺、もう39になっちゃったけどさ…おじさんだけど…まだ愛してくれるかな…ジン…」
「当たり前です…
我がマスター。愛しき、俺だけの…マスター」


そういうとキツクジンは俺を抱きしめた。
目に涙を浮かべながら。

おやすみマスター3

 お前は、ロボットなのに、お前の行動につい、目線がいってしまう。
お前は感情を持たないのに、お前の事を愛しく思う。

こんな恋心、空しい以外の何物でもないのに。

それでも、僕はお前に魅かれてしまう。

おかしいよな、お前はロボット。感情を持たないロボットなのに。
それでも、お前を見るたびにこの心は可笑しくなってしまう。
制御不能。
ロボットを動かせる僕なのに、自分は上手く動かせない。


「シング様、」
お前が僕に微笑みかける度にドキドキし、

「シング様、」
お前が僕を気遣うだけで、特別になれた気がして嬉しくて。

ジンが僕の中で特別になっていく。

恋を自覚してから、僕がジンを恋愛感情の意味で愛してしまうのは早かった。

でも、この気持ちはジンには言えなかった。
だって、ジンはロボット。この気持ちを受け入れてくれるとは思わなかったから…。


 月日は巡るめぐる…。
俺は19になっていた。ジンと出会って5年。
俺の身長は、175センチまで伸びた。
ジンの容姿は変わらない。あの頃のままだ。
綺麗で、ちょっぴり恐ろしいほどの美貌で…、身長もあのときのまま。
 
 
20センチ、とあんなにあった俺たちの身長は、およそ3センチ差になってしまった。

精神的にも俺は変わった。今まで一人称が『僕』だったのに対し、成長すると自然に『俺』になった。

俺は、予てから行きたかったロボットを研究する専門大学に無事入学することができた。
ジンは俺の夢がかなった、と、誰よりも祝福してくれた。

俺の父は、戦争がはげしくなったせいか、ここ最近では家に帰ってこない。
なので、俺が大学を合格した時も祝いの言葉はなかった。

俺にはジンがいてくれたから、寂しいとは思わなかったけれど。


俺とジンの関係。
恋人でも、そもそも同じ人間ですらない関係。
曖昧な、関係。
それでも、俺はジンといられる日々に満足していた。

のんびり、まったりとした、でも心温まる日々に。
些細なことで幸せを感じる日々に。

しかし、そんな俺にとって満足していた日々は、ある日突然終わりを告げる。

国の貧困が窮地になり各地の戦争がはげしくなり始めた時だった。

国にある殺人ロボットを全て徴収し、敵外国に圧力をかける≠ニ国の命令で出たのは。

 殺人ロボットは、もともと主に軍隊で使用される。

しかし、ジンや、壊れた殺人ロボット、あまりにいう事を聞かないロボットは例外として戦地にはいかなくても良かったのに。

戦争がはげしくなり、軍は少しでも戦力が欲しいらしい。

殺人ロボットという、殺人ロボットが、戦地へ行くことを余儀なくされた。

それにともない、殺人ロボットは、戦争の象徴として、一般市民からは忌み嫌われる存在になっていた。


殺人ロボットがいるから、戦争がある。
殺人ロボットがいるせいで、戦争が起こる。


そもそも、悪いのは、争う事しか能がない人間のせいなのに。
悪いのは、ロボットを使う強欲な人間がいるからなのに。

いつも悪いのは、戦いに駆り出されるロボットなんだ。


殺人ロボット徴収令が発動されて、当然ジンも軍へと戻ることとなった。

でも、僕はジンを戦争なんか行かせたくなかった。
ジンは心の優しいロボットだから。
ジンは人を殺すのが嫌なんだ。

なのに、何故、戦地に行かなければならない?
人の為にどうして、ジンが犠牲にならなければならない。

ロボットだから、だからといって、こうも理不尽な事ばかりでいいのだろうか。

俺はジンが傷つくのが嫌だった。ジンが壊されてしまうのが嫌だった。
遠くへ行ってしまうのが嫌だった。

ジンは俺のロボットなんだ。
僕だけのロボットなんだ。


国のモノでも、父のモノでもない、俺だけのロボットなんだ。
他の誰にも、傷つける権利なんて、ない。

ジンは俺のロボットなんだから。


「ジン、命令だ。軍には入るな。俺だけのものでいろ」

ジンが軍へ入る前日。
俺はジンを抱きしめて、そう命令した。


傲慢な台詞。でも、その声は震えていた。
ジンが、僕の前から消えてしまうこと。それがなんとなくわかったから。


「シング様…それは…」

ジンは、そっと俺の背を抱き、

「それはできません」

初めて俺の言葉を反した。
「…ジン、」
「私は殺人ロボット。もしも、戦地に行かないなどと言えば、私だけじゃなく、シング様、貴方にまで罰が与えられます。私は、ロボットなのです。人を殺すだけのロボットなのです。恐ろしい、ロボットなのです。人を殺すのが、仕事なのです」

ジンはロボット。殺人ロボット。
人を殺すのが、ジンの存在意義…。


「ジン…」
「私は…昔、貴方に人を殺したくないと言いましたね。
私は今まで何人も何人も殺しました。人を。皆、私を悪魔だといいました。


何度も何度も同じロボットや人に壊されかけました。何度も何度も、私は壊れたいと願いました。私さえ壊れれば、私が殺すはずだった人間が助かる。私さえ壊れれば、少しでも生きながらえる命がある、そう思ったから。私は貴方に会うまでは、壊れたがっていたのです。人間でいう、死を望んでいたのです」

「ジン」

「私は私の身が嫌だった。私が嫌いだった。この殺人ロボットのわが身が。いつでも壊れて、死んでしまいたかった。そんな時、貴方にあったんです、シング様。我がマスターに」

「…ジン、」

「私は自分が嫌いだったのに、貴方が、私の傍にいて、私が私でもいいといってくれ、ほんの少し自分が好きになりました。あんなに壊れたがっていたのに、私は、貴方と少しでも一緒にいたいと思いました。殺人ロボットである自分が嫌いだったのに、貴方に会えて、私は今のこの状況を感謝したのです」

ジンは殺人ロボット。
今まで散々、その手を血に染めてきた、ロボット。

でも…、

「私は、貴方に会えて幸福を知ったのです。ロボットである自分が嫌だったのに。それでも、私は幸せになってしまった、貴方にであって」

どうして、どうして、こんなに。
こんなに、ジンの言葉に涙が出るんだろう。

ジンが愛しいと、ジンがどこにもいってほしくないと、思ってしまうのだろう。

優しい、誰よりも優しいやつだと思ってしまうのだろう。

神様、そして、ジンが殺した沢山の人たち。

ごめんなさい。ごめんなさい。

俺は…
俺は、ジンが愛しいです。
たとえ、後ろ指差される関係であっても。
おかしな、関係であっても。

愛おしくて、愛おしくて、仕方がないんです。
沢山の人を殺してきた、ジンが…。


「シング様…」
「抱けよ…」
「えっ…」
「俺を抱け、最後に…愛しているなら…」

抱いてほしい。
ぐちゃぐちゃにしてほしい。
何も考えられないくらい。
俺をジンのものにしてほしい。
ジンだけの、ものだけにしてほしい。

ジンを、愛しているから…。

だから…。
「私はロボットです」
「それでもいいんだ、俺はお前が好きなんだから…」
「シング様…」
「愛してる、ジン…」

近づいて、そっとキスをする。
ジンは、一瞬目を見開き…、

「シング様…」

俺の頬を包みキスを返してくれた。


俺の望み通り、ベッドに俺を押し倒す、ジン。

「大丈夫ですか…」
「…大丈夫…だから…」
初めて抱かれる行為。
怖い、けど、それ以上に嬉しかった。
ジンに抱かれるのが、
ジンに愛して貰えるのが。


「シング様…、」

ジンの黒い長い髪が、サラリと揺れる。


嗚呼、なんて……


「ジン…」
「シング、さま…」

なんて、綺麗なんだろう……。

なんて…

「シング様…」
「ジンッ」

なんて、愛おしいんだろう。



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