「おししょうさま!」
狼の血をひく半獣ルウイは、泣きながら部屋に帰ってきた。
ルウイの服はボロボロで、下半身に至ってはなにも身につけておらず、ルウイ自身もフラフラと今にも崩れ落ちそうであった。
師匠の隣にいた、豹の血をひく兄弟子ジャッカルはそんなルウイを見て、眉を潜める。
「どうしました?ルウイ…」
「ぼ、僕…あの…あの…」
ひくひくと嗚咽を交え、なくルウイ。あまりの嗚咽に言葉にならずルウイがなにをいっているかわからない師匠は、どうしたものか…と困った顔をする。
「まさかこの服…リタの森に…?」
「は、はい…」
「馬鹿ですね…リタの森は繁殖シーズンであれほど…」
リタの森といえば、今ちょうど繁殖シーズンの触手達がいる。
その触手達は子孫を残そうと、繁殖シーズンはどの生物にも寄生してしまうのだ。
触手達は、雄でも雌でも穴があれば寄生し、体内に入り、卵を産む。
その卵はやがて寄生者の肉体を壊し外へ出てくる。つまり寄生されたが最後、卵がかえってしまえば、寄生者はそのうまれたての触手に肉を食いつぶされて殺されてしまうのだ。
どうやら、ルウイは、卵をうめつけられたらしい。苦しげに息をはき、えぐえぐとこの世の終わりのように泣いていた
「卵…生み付けられたのですね?」
師匠の問いにコクリと頷くルウイ。師匠はやれやれ…と天を仰ぐ。
全く、このドジっ子がまた厄介をくれたものだ…
「師匠…そいつは師匠の言い付けを破った…そのまま殺してしまってもよいのでは…」
「これ、ジャッカル。そんな事いうんじゃないよ…」
ジャッカルの冷たい言葉に師匠は駄目だよ、と優しく咎める。
(ジャッカル…)
ルウイはジャッカルの言葉にゆるゆると瞳を潤ませた。
そもそも、ルウイが危険を犯してまでリタの森にいったのは、ジャッカルの誕生日プレゼントにリタの森に生えている『ケプネ草』を取りにいきたかったからだ。ケプネ草は大変貴重な種で、リタの森にしか生えていない。ケプネ草はとても綺麗な花で、鑑賞だけじゃなく万病にもきくと言われている。ジャッカルはこう見えて、薬草にも詳しいから、あげればきっと喜ぶと思い、危険を承知でいったのに…
(僕の馬鹿…)
冷たいジャッカルの視線を見るに、ルウイはとことん嫌われてしまったらしい。
こんな自分をほっとけというくらいだ。
ジャッカルの中ではもうルウイなど死んだところでどうでもいいのだろう。
ジャッカルは昔からとろいルウイが嫌いだ。
ルウイは足手まといになるから…
「僕…治らない…ですか…?」
ペタリ、と耳を伏せて悲しげな瞳をむけるルウイ。そんなルウイを安心させるように師匠は優しく頭を撫でる。
「いや…大丈夫…だよ、うん…」
「…ほん…と…」
「う、うん…ただ…ねぇ…」
この触手の卵。
触手がかえる前に卵を死滅させればいいのだが…
「ジャッカル…君の身体を借りてもいいだろうか…」
「はっ…」
「この卵、獣人の精液に弱いらしくてね…
僕は獣人ではないし、卵がかえらぬよう魔力で止めなきゃいけないし?」
「ですが…」
「だ、駄…目です…」
二人の会話を遮るように叫ぶルウイ。
「ジャッカルは…駄目…」
ジャッカルには嫌われたくない。こんな形で抱かれたくない。
だからこそ、ルウイは師匠にジャッカルに抱かれるのは嫌だというのだが…
どうやらジャッカルは言葉そのまま受け止めたらしく、ギリ、と歯を鳴らす。
「師匠」
「ん…」
「俺、こいつを抱きます」
「え…ん…っ…や…」
宣言し、突然ルウイに口づけるジャッカル。
荒々しいキスにルウイは真っ赤になり、ただただ翻弄される…。