「ブス」
女でもないのに、俺の初恋はその言葉で終わった事がある。
ブス、嗚呼ブス。
そのときは悲しいという気持ちよりも、何故不細工じゃなくブスなんだろうと思ったくらいだった
俺の名前は松風響。
男好きのゲイだ。
それも男以外好きになった事がない、筋金入りのゲイである。
ただのゲイではない。
俺の初恋相手も「ブス」といっていた通り、俺の顔は大変いただけない。
俺は不細工なのだ
ギョロ、とした爬虫類のような目に、厚い唇、潰れた鼻、極めつけはややぽっちゃりとした体型の為、顔もプクプクしている。
はっきり言おう、俺はブスだ。不細工だ。
女も男も、ちょっと…と躊躇してしまうような顔なのだ。
不細工。俺はちゃんと自分が不細工だと弁えている。
だから、ちゃんと不細工なりの恋をしている。
不細工なりな恋ってなにかって?
それは…どんなに恋をしても諦める事だよ。
「んー、大丈夫だって!絶対、絶対あいつはお前の事好きだって!」
「ん…、でも…」
「元気だせって、な…?」
ウルウルと涙目で見つめてくる友人を必死に慰める俺。
友人は可愛い。
はっきりいって、美少年といっていい。
俺と並んでいたら、余計その美貌が引き立つ。
こいつは俺と違って、可愛い顔をしており、ファンクラブなんかもあるそうだ。
だけど性格は非常に内気で、健気。
見ているこっちがほわ、としてしまうほどの癒し効果がある
「…ありがと…響ちゃん…」
にこ、と微笑まれて、俺も笑みをかえす。
ただし俺の笑みは大変残念なモノだけど。
ああ、可愛いなぁ。
俺もこんな風だったらなぁ…
なんて、叶わない願いに思いをはせる。
「よぉ…、ーブス」
「あ…、本城くん…」
ほわほわ癒されていた時を壊すように聞こえた声。ギクリ、と身体が固まる。
ゆっくりと振り返れば、厭味なくらい、すかしたイケメン。
本城司がいた。
「ブスが天使ちゃんに近づくんじゃねぇよ…」
司はドカリ、と俺の隣に座る。
そして俺の目の前に座る天使ちゃん事友人に笑顔を向ける。
ああ、なんて言おうか。
幼なじみの司は天使である友人が好きだったりする…、そして司は俺の初恋の相手でもある。
「天使ちゃん…」
にこにこと幸せそうに友人に喋りかける司。
人見知りな友人はちょっと困った顔をしながら、それに返している。
全く司め…俺がいる時を狙って声をかけるんだからな…。
友人は人見知りであり、俺と一緒にいないとほぼ声もかけられない。かけた途端、硬直するからだ。
友人に声をかけられるのは、俺を除き友人の恋人くらいなもんだ。
司はそれを知っているから、俺が友人と喋っている時を狙って声をかける。
友人はラブ×2な彼氏がいるっていうのにさぁ。
ほんと、不毛だね。
ふぅ、とため息一つ。
司は俺の初恋。
初恋で、たまに昔を思い出して、見惚れる事もあったりする。
でも、恋はしない。
だって、俺不細工だから…サ。
それに、不細工は不細工なりの美学がある。
そう、心まで不細工にならないっていう美学が!
「おい…ブス…ブス」
「え…」
ぷに、と摘まれた頬。
い、痛い…
いつの間にか友人は消え、俺は司に頬を摘まれている。痛いんデスケド…。
「司…」
むってして司を見つめれば…
「不細工な顔…」
司はクスリと笑った。
不覚にも俺の胸は大きく一つ跳ねた。