俺は可愛い子が好きだ。
自分が守ってやらなきゃ倒れてしまうような、はかないちょっと内気な子。
でも俺だけを思って、いつも笑ってくれて側にいてくれるような…そんな子が好きなのだ。
しかし、理想は理想であり、現実には存在しない…
理想はただの理想だ。
この歳になるまで俺はそう思っていた。
でも…いたのだ。
そんな俺が理想とする子が。
あいにく男の子だったけど、そんなのはどうでもいいと思えるほど、その子は愛らしかった。
その子の名前は、小林雅。
俺の家のご近所に住んでいて、母親同士が仲がいい為俺は彼の家庭教師になったのだ。
雅は頭も良くて、学校では委員長もしているらしい。愛らしく頭がいい雅。俺の理想ともいえる、雅。
俺はすぐに雅に夢中になっていた。
雅と一緒にいる時は何をするでも雅に視線がいってしまう。
俺は雅馬鹿になっていた。
そんな俺を邪魔するように、雅の一つ上の兄である優美(ゆうび)は事あるごとに俺に突っ掛かり悪態をつけた。
優美はどうやら俺みたいな男が雅に近づくのが嫌らしい。
そりゃ、俺はたいした顔じゃないし、冴えないやつだけど。
俺が雅を遊びに誘うと、必ずと言っていいほど優美がついてきた。
そして、雅が見てないところは優美はニヤニヤと笑いながら「ざまぁみろ」と俺に吐き捨てるのだ。
俺が優美になにをしただろう。
ある日、優美は神妙な顔をし、俺に話があるから…と雅の家庭教師が終わった別れ際切り出した。
内心、俺を嫌う優美なんかの事は聞きたくなかったが、兄弟思いの優しい雅は、そんな優美をみて、先生お願い、と頼んできた。
俺の理想の雅の頼みを断れるほど、俺は人間が出来ていない。
仕方なく優美の話をきく為に、優美の部屋にいくと優美は部屋のドアを閉めた俺に体当たりするようにぶつかった。
いきなりの優美の行動に、俺は驚きバランスを崩す。
そのまま、運悪く立ち直る事が出来なかった俺は地面に尻をぶつけ倒れてしまった。
「おい、優…」
び…、と優美の名を怒りとともに口にしようとした言葉は、優美にいきなり重ねられた口へと消える。
な、なんだ…
優美と…キス…してる…
いきなりの出来事に俺の頭はフリーズ。
身体すら、いうことが聞かずに固まる。
「んっ…」
艶めいた、優美の声。
初めて聞く優美の甘い声にゾクリ…と身体が震える。
「センセ…」
舌ったらずな口調で俺をよぶ優美。
気付けば俺は優美に誘われるように優美の唇に己の唇を重ねていた。